34. ドラゴン
翌朝、朝食を食べた騎士達は2チームに分かれてドラゴンを探しに行った。
川の水を堰き止めているので、この川の上流にいる事は間違いない。
騎士達は川を目印に山の奥へ進む。
「……いた!」
滝の上で翼を広げて日光浴する大きな黒竜を発見したジョンは、あまりの大きさに身震いした。
「副隊長に知らせよう」
「あぁ」
静かに来た道を戻り、場所を報告する。
ここから3km上流の滝の上。
ディーは地図を見ながら滝の上へ回り込む道を考えた。
「ただいま」
すぐそこでクマを捕まえちゃったと言うユーイの腕に爪の引っ掻き傷が見えたミサキは駆け寄った。
「大丈夫」
血は止まっているがえぐれていそうな腕を、泣きそうな顔でミサキが捕まえる。
「ありがとう、ミサキ」
スッと傷がなくなったユーイはミサキをギュッと抱きしめた。
は?
なんで抱きしめられているの?
ユーイはたぶん細マッチョ。
治した腕は細いのに筋肉で引き締まっていた。
真っ赤な顔でワタワタするミサキを解放するとユーイはニッコリ微笑む。
『ズルいぞユーイ!』
一緒にクマを運んできたクレイグもミサキを抱きしめる。
『俺も!』
次はジョン、その次はガイル、マリウス、リッキー。
「え? えっ? 何?」
順番にハグされる意味がわからず困惑するミサキをディーが笑った。
『ルイが睨んでるよ』
そろそろやめたら? とディーが肩をすくめる。
『隊長は父親ポジションだし』
ガイルはミサキを解放するとクマクマ〜と逃げていく。
『俺らでも良いはず!』
『真剣勝負!』
と言いながらもルイスを見て逃げていく騎士達。
『父親なの?』
ディーが笑いながら振り返るとルイスは苦笑しながら頭を掻いた。
『明日は朝からドラゴンの所、だよね?』
騎士達も少し緊張しているのだろう。
無意識にミサキで緊張をほぐそうとしているのだ。
ディーは洞窟の床に座り込み地図を広げた。
「えっ?」
「は?」
まるで教会で会った時のような共鳴がミサキとルイスを駆け抜ける。
『まさか』
ルイスは急いで洞窟の入口へ走った。
『ルイ? どうした?』
慌てて追いかけるディー。
すぐに地響きと唸り声が響く。
大きな咆哮にミサキは耳を塞いだ。
どうしよう。
身体の底から震えが止まらない。
こんないきなり来るものなの?
準備して戦いに行くんじゃないの?
ドラゴンの方から来るなんて。
どうしよう、どうしよう。
震えながら洞窟の入り口の方へ向かうと空に大きなドラゴンが見えた。
真っ黒で、怖そうで、強そうな巨体。
無理でしょ?
あんなの剣なんて刺さらないでしょ?
ドラゴンが羽ばたくだけで強風が吹き、尻尾で木が倒れる。
鋭い爪が騎士達に襲いかかり、ジョンの腕を引っ掻いた。
「ジョン!」
「大丈夫!」
ミサキは来るなとジョンが叫ぶ。
どんどん怪我をしていく騎士達。
震えて何もできないままミサキはドラゴンと騎士の戦いを見ているしかなかった。
ジョンもクレイグもユーイもたぶんもう戦えない。
血が腕から出ていて剣を持つ手が震えている。
怖いけれど、行く?
行って治せばまた彼らは戦える。
でも怖い。
ここから出るのが怖い。
ディーもルイスも無傷じゃない。
ドラゴンにも傷はあるけれど。
怪我を治すって決めたのに。
怖くて動けない。
「ディー! ミサキを」
「は?」
今、それどころじゃないとディーがルイスに答える。
『ミサキを頼む。あいつだけはレオの所に連れてってくれ』
ミサキだけは無事に戻してやらないといけないと言うルイスにディーはギリッと奥歯を噛み締めた。
『ルイス! お前、ふざけんなよ! 連れて行きたきゃ自分で連れて行け!』
ディーがドラゴンに斬りかかると、ルイスの青い眼が揺れた。
『隊長! 俺らもまだ終わる気ねぇっす』
ガイルも斬りかかると、マリウスも腕を振り上げた。
満身創痍。
今の彼らを一言で表現するならたぶんこの言葉だろう。
なんと言っているかわからないけれどディーの言葉の後、みんなのやる気が変わった気がする。
私、怪我を治すって決めたのに、こんな所にいたらダメだ。
あの木の下まで走って、クレイグとユーイに触る。
ジョンに来てもらって、あとは順番に木の下に呼ぶ!
簡単な作戦を立てるとミサキは飛び出した。
『馬鹿! ミサキ! 来るな!』
ルイスの声が聞こえるけれど、ミサキは必死で木の下まで走った。
「ミサキ!」
『ユーイ、腕を』
血が流れる腕に触れ、肉がえぐれている足に触れる。
うめき声を上げるユーイにミサキはごめんと謝った。
「ありがとうミサキ」
行ってくると立ち上がるユーイ。
次はクレイグ、ユーイと交代したジョン。
ビル、ガイル、レスターと交代しながら治癒をしていく。
「ディー。ルイス」
ディーの足と肩を治しながらルイスを呼んでと頼むミサキ。
『ミサキがいて良かったよ。ありがとう』
ディーがミサキの髪を耳にかけながら微笑んだ。
ミサキの手はみんなの血で染まっている。
怖いはずなのにこんな危険な場所まで出て、黙々とみんなを治してくれるミサキ。
やっぱり連れてきてよかった。
ミサキがいなかったらすでにドラゴンに負けていたかもしれない。
だんだん暗くなっていく山の中。
このまま日が暮れればドラゴンの方が有利。
早く決着をつけてしまいたい。
ルイスを治し、全員で一気に斬りかかる。
それしか方法はない。
「ルイ! ここへ」
ディーの声とほぼ同時にドラゴンの爪がルイスの頭を引っ掻く。
「ルイ!」
「隊長!」
膝をついたルイスに旋回したドラゴンが向かう。
「ルイス!」
『ダメだ、危ない! ミサキ!』
思わず木の下から飛び出すミサキ。
ディーの制止は間に合わなかった。




