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03. 勉強

「本、ノート」

 ゆっくり順番に指を差しながら物の名前を言った後、家庭教師は最後に自分自身を指差し「マルク」と言った。


「みゃるっく?」

「マルク」

「みゃるく?」

 うまく発音できないミサキにも嫌な顔をせず、年配の家庭教師は自分を指差し「マルク」と言い、次はミサキを指差した。


 あ、これ名前を聞かれている?


「ミサキ」

「ミサキ?」

 家庭教師の発音はパーフェクト。

 ミサキはうんうんと頷いた。


 家庭教師は部屋に控えている侍女を指差し「ナタリー」と言った。

「にゃたりー?」

 ちょっと違いそうだが、侍女ナタリーは嬉しそうに微笑んでくれる。


「にゃたりー?」

「ンナタリー」

 マルクが誇張して発音してみると今度は何となく聞き取れた。

 

「ナタリー?」

 驚いた顔の侍女ナタリー。

 どうやらちゃんと言えたようだ。


「ンマルク」

「マルク?」

 うんうんと頷く家庭教師マルク。

 あぁ、聞こえている音よりも最初の音は口を閉じないと発音できないみたいだ。

 少しだけコツがわかったミサキはもう一度「本」から発音を習った。


「ありがとん」

 お辞儀をしながら家庭教師マルクにお礼を言うと「ありがとう」と言い直してくれた。

 

「ありがとう?」

 うんうんと頷くマルクに頭を撫でられたミサキは嬉しそうに微笑む。

 

 家庭教師マルクは優しいおじいちゃんだ。

 何度も丁寧にゆっくり言葉を教えてくれた。

 

 とりあえず侍女ナタリーの名前がわかって嬉しい。

 ナタリーは母くらいの歳だろう。

 少しふくよかで優しいお母さんという感じがする。


 マルクに言葉を教わったのは一時間くらい。

 時計の数字は読めないが、形が一緒で良かった。

 24個目盛があるので、きっと一日で一周する時計なのだろう。


 窓の外はもう真っ暗。

 ナタリーはワンピースを広げ、ドレスがダメならこれはどうでしょうと言いたそうにミサキに見せた。

 

 清楚系ワンピース。

 正直言って可愛い。

 自分が着るのが申し訳ないくらいに。

 前ボタンのワンピースなのでこれなら自分で着られる。

 ミサキはうんうんと頷いた。


 やっぱり手伝ってくれそうなナタリーを手で止め、ミサキは自分でパーカーを脱いだ。

 本当は見ていない所で脱ぎたいけれど、きっとナタリーが困るだろう。

 

 貧相な身体なので見せるのも忍びないが。

 パーカーの中に着ていた長袖のシャツも脱ぐ。

 下着になるとワンピースの袖に手を通し、自分で着てみせた。

 

 ボタンも自分で留め、ズボンも脱ぐ。

 簡単に畳んでソファーに置くと、ナタリーが驚いた顔をしていた。


『どうでしょうか?』

 手を広げて自分で着られたと見せるミサキ。

 

『靴はこちらでも良いでしょうか?』

 ナタリーは困った顔をしながら靴を差し出した。


 あ、靴下とスニーカーはダメなのね。

 ソファーに座り、両方脱いで履き替える。


『今度こそ、どうですか?』

 くるっと回ってみせると、ナタリーは頷いた。

 

「ありがとうナタリー」

『素敵です。ミサキ様』

 前半はわからなかったが、ミサキと呼んでくれた。

 ミサキは嬉しそうに微笑んだ。


 ナタリーに連れられて食事の部屋へ。

 お昼も豪華だったがさらに豪華な食事が二人分並んでおり、ミサキは驚いた。

 昼よりもナイフとフォークが多く、グラスも多い。

 

 ひぃぃ。無理だ。

 ミサキがテーブルの前で困っていると、扉がカチャッと開いた。


 ワンピース姿のミサキは黒髪のせいだろうか、異国情緒溢れる不思議な雰囲気だった。

 

 王子レオナルドはミサキの前まで行き、右手を持ち上げると手の甲に口づけを落とす。

 ミサキは何が起きたかわからず一瞬固まったが、ハッと我に返り真っ赤になった。


『な、な、な、なんですか?』

「ミサキ」

 極上の王子の微笑みにミサキの心臓が跳ねる。

 

 イケメンが名前を呼ぶって反則でしょ。

 そのままエスコートされ椅子に座らされる。

 人生初のエスコート!

 こんなの映画でしか見た事ない!


「ミサキ、レオナルド」

 王子レオナルドはミサキを指差し、次に自分を指差した。


「りぇらるど?」

「レオナルド」

「レオナルド?」

 うまく言えたのだろうか?

 レオナルドは目を細めて微笑むと、椅子に座ったミサキの頬に口づけを落とす。

 

 一気に真っ赤になるミサキ。

 レオナルドは微笑むとミサキの正面の自分の席についた。


『レオナルド様、やりすぎでは?』

『結婚するんだ。このくらいはいいだろう』

 補佐官リチャードの溜息を他所に、開き直るレオナルド。

 

 ミサキは真っ赤な顔のまま、チラッと正面のレオナルドを見た。


 金髪・青眼のどこからどうみても絵本の中の王子のような雰囲気。

 甘い良い匂いがした。

 レオナルド様、だよね。

 名前も彼にぴったりだと思う。


 お酒っぽい飲み物が運ばれてきたので、ミサキは首を横に振った。

 18歳なのでまだ飲めない。

 

 違う世界なので関係ないのかもしれないが。

 黒服の人が見せてくれるのはどれもお酒のような飲み物。

 

 お昼みたいに水で良いのにな。

 ミサキは昼に水が入れられたグラスを指差した。


『えっ? 水ですか?』

 驚いた顔の黒服。

 戸惑いながらもすぐに水を入れてくれる。


「ありがとう」

 ミサキがお礼を言うと、本当に水でいいのかと思っていた黒服がホッとした顔になった。


『たった一時間でこの成長なら、いけるんじゃないか?』

『そうだと良いですが』

 家庭教師マルクから「真面目だった」と報告を受けていますと補佐官リチャードが言うと、王子レオナルドは満足そうに頷いた。

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