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王子の溺愛があったとしても、言葉が通じない異世界でドラゴン討伐なんて無理!  作者: 和泉


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20. 草原

 四日ぶりに林を抜けたと思ったのに。

 ミサキは目の前の何もない草原に絶句した。


 林を抜けたら街があって、どこかで働いて食べ物を手に入れようと思っていた。

 

 それなのに。

 目の前に広がるのは草原。

 道はあるので人は通るのだろう。


 次の街はどこ?

 あとどれだけ歩けば街があるの?


 草原は日向。

 林は日陰が多かったからそんなに体力は消耗しなかったが、ここは日差しを遮るものがない。


 餓死と凍死の次に干からびて死ぬが追加された気がする。

 ミサキは苦笑しながら草原を進んだ。


「……人がいる?」

 草原なのに煙が見えたミサキは首を傾げた。

 もしかしたら家があるのかもしれない。

 今のところ煙以外は見えないけれど。


 ふらふらのまま歩いていくと煙の前にテントのようなものが見えた。


 人がいるってこと?

 

 助けてくれるだろうか?

 いい人だろうか?

 あそこまでがんばろうとミサキは意識が朦朧としたまま歩き続けた。


 

「しっかりしろ!」

「おい、止血はこれでいいのか?」

 テントに怪我人の身体を半分だけ入れ、顔が日陰になるようにしながらルイスは怪我人ジョンに声をかけた。

 傷口を押さえるとタオルにじわっと血が滲む。


「そのまま止まるまで押さえましょう」

「止まるのか?」

「5分くらいそのままで」

 痛みで唸る騎士の太ももをしっかり押さえながらルイスは頑張れと励ました。


 この草原は安全な草原だったはずだが、こんなところでハイエナと遭遇するなんて運が悪すぎる。

 しかも夜行性のハイエナが昼間に人を襲うとは。

 顎が強いヤツらに足が食いちぎられなかったのが不幸中の幸いだ。


 うめき声を上げるジョンにルイスが水を飲むかと尋ねる。

 ジョンは冷や汗をかきながら小さく首を横に振った。


 なんだかいっぱい人がいる。

 7人? 8人?

 テントにも人がいるのかな?


 ぼんやりした頭とふらふらの足取りでテントに近づくミサキに気づいた一人の騎士がミサキに駆け寄った。


『おい、こんなところでどうした?』

『あの、水をください』

 お互いに言葉が通じない。


 ふらふらの小さな子供のようなミサキを騎士は支えた。


『とりあえず副隊長のところへ行こう』

 隊長は今それどころじゃないから。と苦笑しながらもミサキをテントへ連れて行ってくれる騎士。


『どうした、その子は?』

『ふらふら歩いてきました。迷子かもしれません。言葉も通じないので』

 数人の騎士がミサキを見て驚く。

 こんな何もない草原に子供がいるはずはないのだ。


『……この子は教会の……』

 見覚えのある少女にルイスの補佐ディーは目を見開いた。

 

 テントの前には綺麗な金髪の人。

 あ、教会に来た怖いイケメンだ。


 その人が押さえているのは人の足?

 あぁ、顔はテントの中ね、びっくりした。


 怪我かな?

 押さえているから血が止まらないのかもしれない。


『ルイ、教会の子が』

『は? こんな所に』

 いるわけないだろうと言おうと振り向いたルイスは、だいぶ汚れて衰弱しきっている聖女を見て目を見開いた。


『聖女……』

 まさかあの教会からここまで歩いたというのか。

 林を抜けて?


 ミサキは意識が朦朧としたまま怪我人の横にへたり込んだ。

 血がついたタオルを押さえているルイスの大きな手の上にミサキの小さな手が乗る。


『おい、この手は何だ』

 言葉がわからないミサキは何も答えない。

 ルイスには衰弱しきったミサキは意識も曖昧になっているように見えた。


 10秒ほど手を乗せたあと、グラッと倒れるミサキ。

 補佐官ディーは慌てて後ろから支えた。


「なんなんだ?」

 意味がわからないと悩むルイスに、怪我人ジョンが声をかける。


「あの、隊長、もう大丈夫です」

 痛くないと言うジョン。

 

 出血が酷すぎて足の感覚がなくなってしまったのかもしれない。

 ルイスは眉間にシワを寄せた。


「5分経ったか?」

 外すぞと言いながらゆっくりとタオルを取る。

 血がべっとりとタオルについている割には綺麗な太もも。

 もう少し肉が見えていなかっただろうか?


「水で傷口を綺麗にしましょう」

 そのあと縫いますと医師免許を持つ騎士ビルが言うとルイスは頷いた。


「いや、待て。おかしいだろう」

「まさか傷がない?」

 ジョンの太ももは全く傷がない。


 タオルの血は誰の血だと聞きたくなるくらい、全く何もなっていないジョンの太ももを全員が信じられないと見つめた。


「夢でも見ているのか?」

 暑さで俺の頭がおかしいのか? と聞くルイス。


「俺の頭もおかしいです」

「俺もです」

 ジョンの傷を見た全員が驚く中、ルイスは意識を失った小さな聖女を見た。


「……本当に、聖女だったんだな」

 信じられないと呟くルイス。

 

「治癒能力……」

 補佐官ディーも教会で言われたことが本当だったなんてと驚いた。

 

 聖剣が共鳴した少女。

 教会を追い出され行方不明だった聖女。

 兄レオナルドの嫁になる予定の娘だ。


 ルイスはミサキを抱き上げるとテントの中に運んだ。


「今日はこのままここで一泊する。火を絶やすな、ハイエナが来ないように火を数カ所に分けろ」

 交代で見張りだと指示を出すと全員が返事をした。


「ディー、あとは任せた。ジョンは休め」

「大丈夫です」

「出血している。無理するな」

 たとえ今は傷がなくてもかなりの血が出たはずだと言うルイスにジョンはお辞儀した。


 隊長である第二王子ルイス殿下は見た目は怖いが優しい王子。

 第一王子レオナルド殿下は見た目は優しいが政治に関しては怖い王子。


 二人は仲が良い兄弟だと有名だ。

 幼い頃からルイス殿下は王位継承する気はないと宣言され、常に兄のレオナルド殿下を立ててきた。

 そのおかげで大臣や貴族の派閥もない。

 今回の討伐も普通なら第一王子レオナルド殿下が行くべきところを自分の方が剣が得意だからとルイス殿下が名乗り出たのだ。

 レオナルド殿下は国にとって大切な人。

 怪我はさせられないと公の場で発言されたと噂で聞いた。


「何か手伝える事があれば」

「……そうだな、タオルを濡らしてきてもらっていいか?」

 ルイスの膝の上には先ほどの少女が寝かされている。

 

 本当に優しい。

 テントの床は硬いので寝かせるのが可哀想だと思ったのだろう。

 目覚めるまで抱きかかえていてあげるつもりなのだ。


 濡らしたタオルを手渡されたルイスは少女の顔を優しく拭いた。

 

 あの林に食べられる物はない。

 4日間何も食べずに歩き続けたのだろう。

 手も顔も傷だらけだ。


 なんとなく放っておけない。

 兄レオナルドが惹かれたのはこういうところかもしれない。


 余計なことを考えながらルイスは聖女が目覚めるのを待った。

 

 ミサキが目覚めたのは2時間後。


「はうぁ?」

 膝の上というアリエナイ状況に固まったミサキは転がり落ちるようにルイスから離れた。

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