19. いない
「……追い出した?」
なんと愚かなことをしたのだと教皇は頭を抱えた。
教皇の目の前には泣きじゃくるエマ。
そして追い出したマリー達は反省することなく、目の前のイケメン王子レオナルドとルイスに釘付けだ。
「ミサキ……」
一体どこへとレオナルドが額を押さえる。
イケメンの苦悩する姿をマリーはうっとりと見つめた。
「どちらの方へ行った?」
「裏口から林の中へ」
教皇の質問にエマが答えると、レオナルドは補佐官チャールズを見る。
ニックに後を追わせますと言うチャールズ。
ルイスはレオナルドを励ますかのように肩をポンと叩いた。
「聖女を追い出した彼女達はどうするんだ?」
ルイスが教皇へ尋ねると、うっとりしていたマリー達は急に青ざめた。
「申し訳ありません。しっかり処罰いたします」
頭を下げる教皇にルイスは溜息をついた。
レオナルドの嫁なら王子妃。
不敬罪で彼女達を捕らえる事もできるが、レオナルドはそれどころじゃないようだ。
そんなにあの少女が良いのか?
普通のただの小さい子供だったが。
レオナルドの婚約者は財務大臣の娘キャサリン。
少し気が強そうだが美人で身のこなしも優雅な女。
確かに伝承では王子と聖女が結婚するが、正妃とは書かれていない。
キャサリンと婚約破棄をしてまであんな少女が良いとは。
もっと話してみれば良かった。
……いや、言葉が通じないんだったな。
「レオ、戻ろう」
ここにいても仕方がないというルイスにレオナルドは気のない返事をした。
「すぐに見つかるさ」
「あぁ、……そうだな」
聖女に会えずに気を落とすレオナルドを連れ、馬車に乗る。
補佐官チャールズは教皇にお辞儀をしてから馬車へ乗り込んだ。
「お前達、なんてことをしてくれたんだ」
頭を押さえる教皇に謝るマリー達。
「お前達が謝るのは私にではない」
教皇は神官に指示を出すと頭を抱えながら教皇室へ入って行った。
マリー達7人は三ヶ月の無償奉仕、そして新人と同等の身分への降格が決まった。
7人もエマの下になったので、エマは食事当番も皿洗いもしなくて良い立場へと変わった。
リリルもメイリンもだ。
三日に一回しか入れなかった水浴びは二日に一回できるようになり、部屋も8人部屋から4人部屋に変わった。
マリー達7人には神官の監視が付き、サボることは許されない。
エマたちの方が立場が上なので、エマたちに偉そうな態度を取ることもできなくなった。
それでも聖女様には何もお詫びが出来ていない。
どうかご無事で。
騎士さん、早く聖女様を見つけてください。
エマは心配そうに林を見つめた。
夜明け前、寒さで目が覚めたミサキはぼんやりと景色を見つめた。
目が覚めても林の中。
異世界でこんなに苦労するなら交通事故のまま死んでしまった方が楽だったのではないだろうか?
漫画みたいにチートで溺愛でハッピーエンドでないなら異世界には魅力はないと思う。
少しずつ明るくなってくる林の中。
濡れた葉や枝が光り出した。
綺麗だけれど、感動するほど心の余裕はないんだよね。
ミサキは苦笑しながら立ち上がった。
昨日来たのはこっち。
今日も小川沿いに歩いていこう。
林の中は道もわからない。
小川を目印に歩いて行った方がグルグル同じところを周る心配はないはずだ。
街に出られたらどこかで雇ってもらえないだろうか?
言葉は話せないけれど。
治癒でお金を稼ぐ?
でも相場がわからないし、どこが痛いのかも治ったかも聞けない。
別の街の教会に保護してもらう?
教会同士は連絡を取り合っているのかな?
連れ戻されたら困るな。
「あー! もう! 何で言葉がわからないの?」
ミサキは誰もいない林で叫んだ。
小川の水を飲み、途中で見つけた変な実を食べたらお腹が痛くなった。
「最悪っ」
お腹を押さえながらとりあえず歩くが、結局今日も林を抜ける事はできなかった。
このまま餓死するか凍死するか。
どちらにしてもつらいなとミサキは木にもたれながら溜息をついた。
「行って参ります」
「ルイス。任せたぞ」
聖剣を持った第二王子の出立式には国王はもちろん大臣達・貴族達・教皇・そして街の人々も多く参加した。
王宮から街中を歩いて北を目指すドラゴンの討伐隊。
そのリーダーが第二王子ルイスだ。
王都を抜け、2つの街を通過すれば、ドラゴンがいる山へまで北へ真っ直ぐ一本道だ。
川を堰き止めたドラゴンを退治すれば再びこの国に水が戻ってくる。
そうすれば豊かな土地に戻り、人々が安心して暮らせる王都に戻るはずだ。
「必ずこの国に水を戻します」
ルイスが誓いの言葉を述べると、大きな歓声が上がった。
ドラゴンの討伐隊は全員で10名。
少数精鋭だ。
剣術が得意な者はもちろんだが、作戦を考える者、料理ができる者なども含まれている。
全く戦えない者は一人もいない。
「ミサキを、聖女を同行させられなくてすまない」
落ち込むレオナルドにルイスは気にするなと言った。
「言葉が通じない娘を連れて行っても危ないだけだ」
早く保護してやれとルイスが言うとレオナルドは切なそうに頷く。
教会から騎士に探させたが結局ミサキは見つからなかった。
どの方向に行ったのか分からず、足跡も追えなかったからだ。
「もしどこかで見かけたら保護して王宮へ送り返してやるよ」
待ってろよと笑うルイスにレオナルドも微笑んだ。
「絶対無事に帰ってこい」
「当然だ」
お互いの右手をパン! と鳴らすとどこからともなく拍手が湧き上がる。
「ディー、ルイを頼む」
「もちろんです。この命に替えてもお守りいたします」
ルイスの補佐ディーがレオナルドに最上級の礼を行うと、討伐隊の残り8人も一斉に礼を行った。
宮廷楽士の演奏が始まると盛大な拍手の中、討伐隊の騎士が歩き始める。
多くの人に見送られながら討伐隊は王宮を出発した。




