16. 虐め
「ホントにムカつく。あの女」
「洗濯も途中だし、神官に怒られるし、サイテー」
途中だった洗濯を自分でやりながらアンジーが文句を言うと、ジャネットも同意して頷いた。
「マリーの洗濯だけは終わってるのね」
干された洗濯物を見ながら、いいなぁとベッキーがつぶやく。
自分の洗濯物は水に突っ込まれた状態。
洗わないわけにもいかないし、明日にすることもできない。
「今日の礼拝もなんか盛り上がっててさ、私の列に並んでいた人がエマの方に行くのが見えてさ」
ホント嫌だったと言うローラ。
「私の列の人も移動した!」
「あ、移動したの見た!」
エマに洗濯を押し付けた7人は裏庭で文句を言い続けた。
「あー、もう。こんな時間から干したって絶対乾かないのに」
時間は午後三時。
もうすぐ日が暮れる時間だ。
「昨日はりんごを貰っていたけど、今日はキャベツを箱いっぱい」
「本当に聖女ってこと?」
「そんなことあるわけないでしょ」
馬鹿なことを言わないでと肩をすくめるマリー。
ジャネットもアンジーも怪我が治るタイミングで偶然来ただけだと言った。
「次に何かしたら追い出すわ」
私より目立つなんて許さないとマリーが言うと、みんなが同意する。
「ここでのルールを教えてあげないとね」
ローラがニヤリと笑うと、マリーもベッキーも「そのとおりよ」と微笑んだ。
午後はエマと礼拝堂の掃除をし、夕食はみんなと一緒に食べた。
ミサキは一番端っこ、エマの隣だ。
エマの向こう側は夕食の準備をしていた二人。
一番奥は茶髪の綺麗な人だった。
偉い順?
神官達は別の部屋で食事をしているので、頃合いをみて数人の子達とミサキは食器を取りに行った。
『えっ? 夕食後の食器洗いはリリルとメイリンの当番でしょ?』
『で、でも、マリーさんが新人にやらせろって』
モジモジと言いにくそうに呟くリリル。
マリーには逆らえないとメイリンも言う。
逃げるように二人は部屋へと戻っていってしまった。
『私達は夕食を作る方の当番だから』
他の二人も逃げて行く。
廊下にジャネットの姿が見えたエマはグッと手に力を入れた。
聖女様なのにどうして嫌がらせするの?
文句も言わずにスポンジに洗剤をつけ始めるミサキ。
聖女様なのにどうして怒らないの?
エマは口をキュッと結ぶとミサキの隣で皿洗いを手伝った。
『えっ? どうしてダメなんですか?』
池に向かう途中の廊下でローラに呼び止められたエマはギュッと着替えを抱えた。
今日はやっと水浴びが出来る日。
マリー達は毎日水浴びが出来るが、エマたちは三日に一回だけ。
今から水浴びに行こうと思ったのに。
『マリーが洗濯もまともにできない子が水浴びはダメだって』
『で、でも、洗濯は神官様がしなくていいって』
『あんたが告げ口したから私達は神官に怒られたのよ』
ジャネットとローラに責められるエマ。
きっとまた自分のせいでエマは何か言われているのだろう。
「ごめんなさい」
何に怒られているのかわからないけれど、とりあえずミサキが謝るとエマが首を横に振った。
『とにかく、ダメよ』
『いいわね!』
部屋へ戻りなさいと言われたエマは泣きそうな顔でミサキの部屋へと戻った。
三日に一回しか許されていない水浴び。
聖女様なのに水浴びすらさせてあげられないなんて。
「ごめんなさい」
泣きながら謝るエマをミサキはギュッと抱きしめた。
「ありがとう、エマ」
きっとエマは私のために泣いてくれている。
私のせいでエマはツラい思いをしているのに。
言葉が通じればよかった。
言葉さえわかれば自分で文句を言えるし、エマを守れるのに。
なんとなくここの生活リズムはわかった。
朝は食事の支度と洗濯をして、礼拝で街の人と会う。
昼は礼拝堂の掃除。
夕飯を食べたらお皿を洗って、次の日の朝が早いのですぐ寝る。
エマを困らせないように自分でちゃんと動こう。
私の方がきっとエマよりも年上だ。
しっかりしなきゃ。
エマが迎えに来なくても自分で動いて、早くエマのお世話にならないようになろう。
言葉がわからないから礼拝の間は側にいてもらわないといけないけれど。
ミサキは時計を確認し、礼拝に行く準備をする。
櫛もないので、適当に手で整えた。
しばらく洗っていないので髪も汚いが仕方がない。
「エマ」
時間だよと時計を指差すとエマは涙を拭いながら頷いた。
昨日は洗濯のせいで遅くなってしまったが、今日は礼拝堂に一番乗りだ。
エマとミサキが礼拝堂に入ると、並んでいてくれた人たちが「おはよう」と手を振ってくれた。
「おはようございます」
「お、おはようございます」
エマに続いてミサキも挨拶すると、それだけでワッと盛り上がった。
街の人達は優しくていい人達だ。
ミサキは自分に出来る事を少しずつ頑張ろうと、1番の人から治癒を行った。




