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王子の溺愛があったとしても、言葉が通じない異世界でドラゴン討伐なんて無理!  作者: 和泉


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14. 未練

 自分の手のひらには王宮で転んだ時のかさぶたがある。

 でも、怪我をしていた青年の腕は綺麗になっている。


 私は治癒能力が使えたってこと?

 自分の怪我は治らないのに?

 異世界転移の定番、聖女ってこと?


 お店のおじいさんが腕を怪我したあと、包帯を巻いたら傷がなくてご飯をいっぱい出してくれた。

 そのあとこの教会に連れてこられて、エマの腕にあった大きな傷も気づいた時には目立たなくなっていた。


 腕を布で吊っていたおじさんは、もう動かして平気そうだった。

 泣きながら帰って行ったおばあさん、背中を触ったおじさん、そして青年。


 まさかみんな怪我が治ったってこと?


 ミサキの足はふらつき、後ろへ下がった。


『聖女様!』

 大丈夫ですか? と支えようとしてくれるエマ。


 もしかして、昨日からここの人達やエマが跪いていたのは、私が聖女だから?


 今頃気づいたミサキはブルッと身震いした。

 ウソでしょ?

 手で両腕を押さえながら下を向くミサキ。


『大丈夫ですか? 聖女様』

 エマからはミサキが何かに怯えているような雰囲気に見えた。


 俯いたミサキとは目が合わない。


『あの、すみません。聖女様のご気分が優れないようなので、今日は並んでいただいたのにすみません』

 エマがお辞儀をすると、目の前で奇跡を見た人々は納得してくれる。

 文句を言う人は誰もいない。


『あれだけの傷を治したんだ。聖女様だって疲れるよな』

『あぁ、早く治してほしい。明日はもっと早く来るぞ』

『俺もだ。絶対早く来る』

 あぁ、すごかったと話をしながら帰って行く人々。


 1番人気のマリーはエマとミサキの方を見ながらギリッと奥歯を鳴らした。


『なんだか騒がしいね、あっちの方』

『えぇ。新人がいますの。何かまた失敗したのかしら。ごめんなさいね』

 並んでくれて嬉しいわと微笑むマリー。

 いつものように祈りを捧げ、対価を頂く。


 私より目立つなんて許さない。

 マリーは奥へ戻っていくエマと新人を睨みつけた。


『大丈夫ですか? 聖女様』

 顔色が悪いミサキを心配したエマが声をかけてくれるが、答える余裕がミサキにはなかった。


 教皇も駆けつけ、ミサキを心配してくれる。


「はい」

 大丈夫ですと言いたいが、言えなかった。

 はい。でわかってくれただろうか?


 部屋まで送ってくれたエマと教皇に扉の前でお辞儀した。

 一人にしてくださいと伝わるだろうか?


 そっと自分で扉を開けて中に入る。


『聖女様!』

 ぎこちなくミサキが微笑むと、エマは困った顔で行き場のない手を下した。

 

「エマ、何があった?」

 今は一人にさせてあげましょうと言う教皇にエマは頷いた。


「疲れてしまったのでしょうか?」

 傷に触るのを躊躇っていたのに無理をさせてしまったとエマが反省する。

 話を聞いた教皇はアゴに手を当てて考え出した。


「エマ、聖女様は言葉がわからない。我々の何かの動作を不快に思われたのかもしれない」

「やっぱり無理に触らせようとしたから」

 ごめんなさいと言うエマ。


 エマは今朝のミサキの様子も教皇に話した。

 泣きながら寝ていたのではないかと報告すると教皇は目を伏せた。


「聖女様は不安なのだろう。私達が全力で支えよう」

「はい、教皇様」

 エマは頷き、ミサキの部屋の扉を心配そうに見つめた。


 部屋に入ったミサキはベッドに座り、ワンピースの裾を捲った。

 両ひざにはかさぶたがある。

 特に一番ひどかった右足の膝は小学生ですか? と聞きたくなるほどやんちゃな足になっている。


 自分の怪我は治らないなんて。

 あのとき自分が治れば、聖女じゃないなんて思わず王宮から出て行こうなんて思わなかったかもしれない。


 ……そんなことはないか。


 ミサキは綺麗な女性と一緒に歩いていたレオナルドを思い出し苦笑した。

 

 聖女だからってレオナルドと結婚できるわけではないのだ。

 お似合いだった二人。

 あんなに綺麗な人がいるのにレオナルドと自分が結婚できるとは思えない。


 絵本の通りならレオナルドが私を、『聖女』を召喚したのはドラゴン退治に同行させるため。

 剣を持った男性を助けるため。


 だが、今思えばレオナルドが剣を振り回してドラゴンを倒せるとは思えない。

 

 ドラゴンを倒す勇者は別にいるのだろうか?

 もう聞く事も出来ないけれど。


 私がここでみんなを治していたら、いつかここにいると気づいて迎えに来てくれるだろうか?


 そんなことを考えた自分にミサキは苦笑した。


 迎えに来てもらってどうするつもりなのか。

 ミサキはギュッと手を握った。


 レオナルドに未練がありすぎる自分は馬鹿だと思う。

 彼は王子。

 聖女かもしれないから優しくしていただけだ。


 ミサキはベッドにボンッと横になった。


 言葉が話せたら良かった。

 レオナルドともっと話がしたかった。

 ナタリーとも。


 エマとだって会話できたら楽しいだろう。


 ミサキはいつの間にか眠ってしまった。


 目が覚めた時、サイドテーブルには食事が置いてあった。

 きっとエマが運んできてくれたのだろう。


 スープはもう冷めている。


「ごめんなさい。ありがとう」

 ミサキは誰もいない部屋でエマにお礼を言った。

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