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王子の溺愛があったとしても、言葉が通じない異世界でドラゴン討伐なんて無理!  作者: 和泉


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13. 治癒

 食事も終わり片付けも終わった頃、急にざわざわと廊下が騒がしくなった。


「エマ! エマ!」

「はーい」

 神官がエマを呼ぶと、エマは何ですか? と呑気に答える。


「お前、昨日ハンスに祈りを捧げたか?」

「はい」

 それがどうかしましたか? と首を傾げるエマ。

 神官は急いで一緒に来てくれとエマに頼んだ。


「おはようございます。ハンスさん」

 エマは挨拶しながら違和感に気がついた。

 ハンスが腕を吊っていない。


「あれ? 腕は?」

「治った」

 だからお礼だとハンスは箱一杯のリンゴをエマの前に出した。


「えぇぇぇ!」

 果物はとても高価なのに、こんなにたくさんのリンゴを買ってきてくれたのだ。


「2ヶ月は仕事ができないと思っていたのに、本当に助かった!」

 昨日ここを出てから痛みがなく、包帯と添え木を外してみたら普通に動いたとハンスは周りの神官達とエマに説明した。


「あっ! 聖女様です! ハンスさんが腕を吊っていた布を落として、聖女様が着けたんです!」

 エマが昨日の様子を思い出し、自分ではなく聖女のおかげで治ったのだと言う。


「そういえば、着けてもらう時に左腕に触れていたな。本当に聖女様だったのか」

 昨日は冗談だと思っていたとハンスが謝罪する。

 神官達は驚き、ミサキを呼びに行った。


 わけがわからないまま連れてこられたミサキはエマとハンスの姿を見てホッとした。


「エマ」

 よかった。ここにいたんだと微笑むミサキに、教皇を筆頭に神官達が一斉に跪く。


「ひぇっ?」

 驚いたミサキが思わず変な声を出すと、エマまで跪き、ミサキに祈りを捧げた。


『なに? なに? え? どういうこと?』

 困った顔で男性を見ると、男性まで跪く。


 私もすればいいのかな?

 同じように膝をつこうとすると教皇に止められてしまった。


 誰か! 通訳お願いします!


 何が起こっているのかさっぱりわからないミサキは困った顔で立ち尽くした。

 

 教皇が立ち上がると、全員立ち上がる。


 よかった。

 なにかわからないが終わったみたいだ。


 そういえば、この男性って昨日腕を布で吊っていた人……だよね?

 今日はしていないけれどまた布が取れちゃったのかな?


「ありがとうございます」

 

 ありがとうございます?

 私に言ったんだよね?

 目は合っているが、他の人に言っているかもしれないので振り返ってみたが誰も後ろに居なかった。


 私?

 ミサキが自分を指差すと、ハンスはニッコリ微笑みながら頷いた。


 なんでありがとう?

 ミサキが首を傾げるとエマがハンスの腕を指差した。

 グーパーして動く事をアピールするハンス。


 腕はもう痛くないよってこと?

 それがありがとうになるのはなんで?


 やっぱりよくわからない。

 とりあえず、ミサキはペコッとお辞儀しておいた。


 ハンスの腕が治ったと聞いた人々がエマの列に並び、昨日は4人しかいなかったエマの列が今日は12人に増えた。


『エマちゃん、その方が聖女様かい?』

『そうよ、アデラおばあさん』

『この左足が治ると良いけれど』

 アデラの左足の膝はもう曲がらない。

 歩けないことはないが、曲がらないので立ったり座ったりするときにとても大変だ。


『聖女様、左足の膝に触れてもらえますか?』

 エマはミサキの右手を取り、アデラの左足の膝の上に置く。


 よくわからないままミサキはエマに従った。

 膝に触れたのは10秒ほど。

 すぐにエマがニコッと微笑んでくれた。


『曲げても痛くないわ! 奇跡よ! 奇跡だわ!』

 涙ぐみながら震えるおばあさん。


 えっ?

 何で泣くの?


 おばあさんがミサキの手を両手で握り拝みだす。


 ざわざわと騒がしくなり、なぜかみんなに見られている気がした。


「エ、エマ」

 なんでみんなが見ているの? と聞きたいのに言えない。

 不安なミサキはエマの服を少し引っ張った。


『すごいです! 聖女様!』

 キラキラの目で見てくるエマ。


 どういうこと?


 おばあさんはうれしそうに何度もお辞儀をして去っていく。

 次のおじさんがなんだかすごく期待しているような目で見てくるけれど、どういうこと?

 

『聖女様、フルリールさんは背中をお願いします』

 床に座り背中を向けるおじさんの肩甲骨の辺りにエマがミサキの手を当てる。


 また10秒ほど手を置き、離れるとおじさんも涙ぐんでいた。


 一体どういうこと?

 喜びながら帰って行くおじさん。


 ミサキは自分の右手をジッと見つめた。


 自分の右手の手のひらには王宮で転んだ時のかさぶたがある。


 私は聖女じゃなかった。

 聖女の定番、治癒は使えなかった。

 その証拠に自分の手にはかさぶたがあるし、膝だって傷がまだ残っている。

 

 なんでみんな喜んでいるの?


『聖女様、野犬に噛まれたそうなのですが、これも治りますか?』

 目を背けたくなるような肉がえぐれた傷の青年がミサキの前へ腕を出した。


 傷が深すぎて包帯が巻けないのかもしれない。

 エマがミサキの手を握り、その傷に触れさせようとする。


『えっ? 待って、待って、それ触るの?』

 触ったら痛いでしょ? と少し手を引っ込めるミサキ。

 エマは自分の手を青年の腕の上に触れるフリをしてミサキを見た。


 やっぱりその傷に触れってこと?

 え、でも絶対触ったら痛いよ?

 この人嫌がらない?


 エマと青年の顔を交互に見たあと、ミサキは躊躇いながら青年の腕に手を伸ばした。


 10秒くらい触ればいいってことだよね?

 今まで見たいに。


 そっと触れると青年が痛そうな顔をする。


 ほら、やっぱり痛いじゃん!

 何で触らせてるの?


 困った顔をしながらそっと手を離したミサキは思わず「えっ?」と声を出した。


 ……傷がない。


『ウソでしょ?』

 驚き、目を見開くミサキ。


『さすがです! 聖女様!』

 エマの声をきっかけに、並んでいた人々の「ワッ!」という大歓声が教会内に響き渡った。

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