11. 祈り
ワンピースに着替えたミサキはエマに教会内を案内された。
ミサキが入ってきた入口は街の人が普通に出入りする入口。
それとは別で裏に小さな入口が一つ。
これからはこっちの裏口から出入りすればいいんだよね。
キッチンと食材置き場、礼拝堂、よくわからない小さな部屋。
細い廊下の向こうは手で×をされたので、立ち入り禁止ってことだろうか?
……あれ?
トイレとシャワーがない。
ミサキが手でシャワーのイメージを伝えると、裏口から外へ出たところの小さな小屋へ案内された。
あー。ここがトイレね。
うーん。虫がたくさん出そう!
虫は苦手だし、夜はここに来るまでが怖そうだ。
次に案内されたのはなんとなく木で囲まれた池。
ちょっと待って。
まさかこの池がお風呂?
覗こうと思えば覗けそうではないか。
驚いているミサキにエマは困った顔をする。
あー。これがこの世界の普通なんだよね。
マンションで蛇口をひねればすぐにお湯のシャワーみたいな環境ではないよね。
ミサキも困った顔でエマに微笑み返した。
裏口から建物に戻ると、同じ白いワンピースを着たお姉さん達が歩いていく。
ミサキもエマに連れられ同じ方向へ向かった。
『あなたに女神のご加護がありますように』
綺麗なお姉さんが街の人の前でお祈りする。
「あぁ、ありがとう」
街の人が何かを手渡し、お姉さんは受け取っていた。
他のお姉さん達も同じだ。
街の人が並んでいて、両手を合わせてお祈りのようなポーズをすると何かがもらえる。
アイドルの握手会みたいだ。
人気ありなしがありそうな行列の人数。
綺麗だなと思っていたお姉さんはやっぱり行列が長い!
エマが部屋の端っこに立つとおじいさんがエマの所へやってきた。
『カルおじいさん、こんにちは』
『今日はエマちゃんいないかと思ったよ』
『あのね、聖女様が来てくださったの』
『聖女様? それはすごい』
エマがミサキの方を振り向くと、おじいさんとミサキは目が合った。
よくわからないけれどミサキはペコッと会釈しておく。
『はははは。これはこれは腰の低い聖女様だ』
『本当に聖女さまよ』
信じていないカルじいさんが笑う。
よくわからないけれど、楽しそうだ。
やっぱりアイドルの握手会みたい。
世間話をするのがお仕事なのかな?
『あなたに女神のご加護がありますように』
エマが両手を組んで何かを唱えるので、ミサキもよくわからないが手を組んで真似をした。
カルじいさんがエマに差し出したのはさつまいも。
あぁ、こうやってここの人達の食事ができるんだ。
お祈りなのかな?
何かを唱えると食べ物がもらえて、街の人は教会に通う事でご利益があるみたいな感じだろうか。
カルじいさんの次は少しムキムキなおじさんだ。
左腕を吊っているけれど、どうしたのだろうか?
『ハンスさん、どうしたの? その腕!』
『あー、これは仕事中に木材が倒れてきてさ。やっちまったよ。仕事できねぇし、困ったから早く治るようにお祈り頼むわ』
『気をつけてくださいね』
おじさんは左腕を指差しながら何か話している。
怪我した理由とか話しているのかな?
『っと、しまった』
腕を吊っていた布がパラっと外れ、ミサキの足元にふわっと飛んだ。
手に力が入らなくて布を縛るのがうまくできなかったのかもしれない。
ミサキは布を拾い、おじさんにつけようと左腕の下に布を入れた。
そのまま首の後ろまで持っていこうと思ったが、おじさんの方が背が高い。
『ハンスさん、しゃがんで』
『お、おお。着けてくれるのか。ありがてぇ』
ハンスが小さくなってくれたおかげで、ミサキはハンスの後ろで布を縛ることができた。
『この子、新人?』
『聖女様よ』
『へぇ、そりゃすげぇや』
信じていないハンスが笑うと、エマは本当よと微笑んだ。
お祈りをし、ハンスからチーズをもらう。
もらったものを横の棚に置くと、エマは次の人にまた祈りを捧げた。
大変だなぁ。
エマの行列は少しだけ。
あの綺麗なお姉さんの列は途切れない。
一人一人にかける時間も長いし、人気なんだろうな。
お祈りが終わった人から順に、もらったものを持ち奥へと戻る。
キッチンの横にあった食材置き場にそれぞれもらったものを入れたあとミサキは部屋へと戻った。
これが仕事なのかな?
言葉がわからないので無理そうだ。
掃除とか洗濯とか話さなくても出来る事ならやるので、ここに置いてもらえるだろうか。
不安そうなミサキをベッドに座らせると、エマはお辞儀をして出て行ってしまう。
やっぱり言葉がわからないってツラい。
ミサキは溜息をつくと、窓もない部屋でぼんやりと過ごした。
「なんで働かないのよ、あの子!」
一番多くの人に祈りを捧げたマリーがエマに苦情を言うと、周りの女性達もエマに文句を言い始めた。
「教皇様が聖女様には祈りだけしてもらえればいいとおっしゃったので」
それに言葉もわからないとエマが説明すると、女性達は眉間にシワを寄せた。
「聖女なんてどうせ嘘でしょ」
「そうよ、特別扱いなんておかしいじゃない!」
「言葉がわからないなんて頭が悪いのね」
聖女のはずがないと笑う女性達。
「いい? ちゃんと働かせなさいよ!」
「言葉がわからないなら床磨きでもさせなさいよ」
「で、でも聖女様にそんな」
うるさいわねとマリーはエマを突き飛ばした。
周りのまだ若い子達は巻き込まれないようにスッとエマから離れる。
エマは女性達に睨まれ、ビクッと肩を揺らした。




