10. 教会
『とりあえず、教会でいいのか? 教会に連れて行けばいいのか?』
『朝ご飯がまだだわ』
『うちの飯でいいのか? もっと豪華なもんの方が』
テンションが高い二人に圧倒されたミサキは首を傾げた。
よくわからないけれど、もう話は終わったのだろうか?
椅子を拭いても良いのだろうか?
テーブルに置かれた布巾を手に取り立ち上がると、布巾を没収され、再び椅子に戻されてしまった。
もう拭かなくていいってこと?
それとも拭き方がダメだったのだろうか?
こんな時言葉が通じればどこがダメなのか教えてもらえるのに。
ミサキは役に立たない自分に溜息をついた。
すぐに出てくる食事。
でも品数がおかしい。
パン、スープ、サラダ、煮物、焼き魚、野菜炒め、揚げ物。
『待って、待って、量がおかしい!』
驚いたミサキが立ち上がっても、二人はニコニコと料理を運び続けた。
え?
朝食はしっかり食べましょうってこと?
全部違う種類だけれど、三人分ってこと?
箸を渡されたミサキは戸惑った。
ニコニコと微笑む二人の前で椅子にストンと座る。
『さぁ、たくさん召し上がれ』
一人?
昨日の夜は三人で食べたのに?
どういうこと?
「い、いたたき、ます?」
うんうんと頷いてくれる二人。
よくわからないままミサキは朝食を頂いた。
全部は食べきれないのでパンとスープを頂く。
これだけにしようと思ったが、焼き魚の魅力には逆らえずに、つい魚もいただいてしまった。
だって塩鮭みたいでおいしそうだったんだもん!
『ごちそうさまでした』
ペコっと頭を下げると、二人はまるで孫を見るかのように優しく微笑んでくれる。
なんだかよくわからないけれど、もうここの子になってもいいよくらいの感じ?
それはそれで嬉しいけど。
開店時間かなと思ったが、なぜかおじいさんがお店の入口に札をかけた。
おばあさんがミサキの手を握り、店を出る。
ミサキはおじいさんとおばあさんに連れられて街を歩いた。
え? どこに行くの?
何人かの人におじいさんとおばあさんが話しかけられたが、そのたびに後ろに人が増えていく。
今日は何かのイベント?
集会?
気づけばミサキの後ろには20人ほど人が付いてきていた。
え? なにこれ?
やっぱり今日は何かのイベントデー?
連れられて来たのは白い大きな建物。
ステンドグラスがあり、教会っぽい建物だ。
あ、お祈りの日とかそういう感じ?
どこかの国は毎週何曜日に礼拝があるとか中学校の時習った気がする。
『聖女様を連れて来たぞ! 包丁で怪我したところが一瞬で治った!』
『本当なのよ、縫うほどの怪我だったのに』
おじいさんとおばあさんの話で一気にバタバタする教会。
綺麗な刺繍が入った白い服の神父様っぽいおじいさんが奥からやってくると、おばあさんはミサキをギュッと抱きしめた。
『聖女様、うちに来てくださってありがとうございます』
前半はわからないが、ありがとうございます?
『聖女様、この国をお願いします』
涙ぐみながら握手をするおじいさん。
え? 何これ。
どういうこと?
ミサキは首を傾げた。
どこかからともなく沸き起こる拍手。
え? 何に?
『ようこそ、聖女様。私たちはあなたを歓迎いたします』
神父っぽい服のおじいさんに手を差し出され、よくわからないままミサキは手を取った。
盛大な拍手の中、ミサキは建物の中へ。
おばあさんも来るのだと思ったら、二人が入口でお辞儀していたのでようやく自分がこの教会っぽい建物に譲られたのだと知った。
あれー?
娘にしてくれるわけではなかったのか。
やっぱり言葉がわからないと意思疎通は難しい。
今、どうしてこうなっているのかさっぱりわからない。
「なんで、これ」
どうしてここに連れてこられたのですか? と聞きたいけれどうまく聞けなかった。
『聖女様は言葉が話せないのでしょうか?』
教皇に尋ねられたミサキは首を傾げた。
『あぁ、これは大変だ。さぞかし不安でしょう』
教皇は優しそうにニッコリ微笑むと、白い綺麗な部屋へとミサキを案内する。
シンプルな白い部屋には窓がなかった。
ベッドとサイドテーブルのみ4畳半ほどの小さな部屋。
『どうぞ、この部屋を使用してください』
この部屋を使っていいってこと?
ミサキは部屋の中に一歩足を踏み入れた。
『エマです』
白いワンピースのような服を持った女性が入口でお辞儀をする。
「エマデス?」
「エマ」
あ、エマさんね。
ごめん。
「エマ」
ミサキが名前を呼ぶと、高校生くらいの年頃のエマはふわっと花のような笑顔を見せた。
白いワンピースを手渡されたときに、エマの手が荒れていることに気づく。
自分より若そうだけれど働いてるのかな。
この国は何歳から働くのだろうか?
私もここで働かせてくれるのかな。
もしかして身寄りのない子が教会に集められている?
だからおばあさんは連れてきてくれたのだろうか?
「ここ」
どうしたの? はどうやって言うのか忘れてしまった。
昔の傷っぽいが手首から腕にかけて大きく残っている。
女の子なのにこんな大きな傷は可哀想だ。
もっと目立たなくなればいいのに。
エマの膨れ上がった傷にミサキが触れる。
嘘のようにスッと消える傷にエマと教皇は目を見開いた。
『あれ? 消えた』
傷があったと思ったんだけど。
汚れだったのかな?
首を傾げるミサキの前には涙を受かべるエマの姿。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
『聖女だ。本物の聖女様だ』
エマと教皇がミサキの前で跪き、祈りをささげる。
「は?」
一体どういうこと?
よくわからないけれど、これを真似すればいいのかな?
ミサキも膝をつこうとすると、教皇に止められた。
うん?
誰か、言葉がわかる人をお願いします。
ミサキは困った顔をしながら二人が立ち上がるのを待った。




