面白おかしいJK達の日常 という連載小説の打ち切り最終話
だからさぁ! と、美咲がキレた。
「インフルエンサーが撮影した廃墟に幽霊が映るって誰が信じる!? なめんな!!」
放課後の学校の、3-Aと書かれた教室の、隅っこに席をくっつけて座る女子生徒が2人。
美咲が観ている動画には、廃墟の奥で薄ぼんやりと映る女性のシルエットが映っていた。
再生数250万超えのいわゆるバズった動画だ。
美咲はホラーが大好きだ。
動画も映画も小説も漫画も好きだ。
しかしそれはちゃんとした構成ありきのお話。
それゆえか、自称ホラー評論家の怒りは止まるところを知らない。
「これあれだわ、カップルのデート撮影中に映っちゃうやつと同じやつだわ」
「同じなの?」
「どっちも話題になれば得する連中だもん。映ったほうが都合いい連中だから、そんな連中のもとにたまたま霊が来るのはナンセンス!」
対面に座る未央が冷めた目を向けた。
「嫉妬入ってない?」
「成功してるYouTu○erが話題になってるとイライラしちゃうんだ」
「嫉妬じゃん」
「とにかく、なんていうかこう……リアリティがないのよ。この場に映るならマジかもっていう、ウソなのホントなの? っていうドキドキ感? それが無いんだわ」
いつもながら面倒臭い奴だと未央は思った。
二人は幼稚園からの腐れ縁、大親友である。
「なら逆に許せるシチュエーションは?」
「んー家族を撮ったホームビデオとか、お祝いの席に参加した人の動画とか、まぁカップルが遊びに行った時の動画でもいいかな」
「あれ、カップルはダメって言ってなかった?」
「シチュエーションによるよ。カップルはほぼ黒なんだけど、カップルならまぁ旅行先で動画たくさん撮るかなー、その中に映っちゃってたってことならまだ分かるかなーって感じ。単なる公園とか心霊スポットとかはゴミかなぁ」
「こだわり強いね」
「シチュエーションに説得力あればまぁ観られるよ」
「ホームビデオはシチュエーション的に説得力あるんだ」
「撮りたいものがかけがえのない場面だからね。逆にそれに幽霊を合成して台無しにするなんて人の所業じゃないよ。そいつが悪霊だね」
そう言いながら美咲はビデオカメラを回すような格好で椅子の上に立ち上がると、教室をぐるりと見渡す。
「だからそういうシチュエーション以外の動画は〝作品〟として観るよね」
「観るには観るんだ」
「好きだもんそりゃ。ただ私が求めてるのは作品じゃなく〝本物〟だからね――さてさて、未央ちゃんの選んだ動画を観ましょうかね」
席に座った美咲は自分のスマホを机に置き、今度は未央が用意した動画の再生ボタンをタップした。
どうやら今回は森の中から始まるようだ。
「こんな評論家に観せたら絶対叩かれるよ」
「平気平気。面白いかどうかだけで観るから」
「本物は期待してないのね」
それは心霊スポットに行った大学生軍団が森を進んでいくうちに、妙な声に気付いてカメラを向けると、ボロボロの顔の老婆がこちらに向かって走ってくる動画。
「ひっ!」
「……」
手から落ちたスマホが机をはねる。
床に落ちる寸前で美咲がキャッチ。
そのままスマホをまじまじと見た。
「なんか重たくないこれ? 未央ちゃんこんなスマホ使ってたんだっけ?」
「……」
停止ボタンを押してスマホを返す美咲。
「まあ偽物かなぁ」
「悲鳴上げてたけど?」
「まさか大人しい顔してびっくり系持ってくるとは一本取られたね」
「分かりやすく怖い方が面白いし」
「じゃあこの動画の私的評価だけど、面白くないね。星2つかな」
「えそうなの?」
「あ、もう大丈夫。もう一回はいいんだけど、もう一回はいいんだけど!」
「……」
「驚かせる要素抜いたらお粗末だもんね」
「抜かないでよメインを。驚かすためだけの動画なんだから」
「シチュエーションにダメ出しさせてもらうと、さっき言ったYouTu○erとかに通ずるものがあるよね。しかも夜中の森に凸なんて動物とか虫の方が怖くない?」
「まぁ確かにそうかも」
「じゃあ次は私ね!」
美咲は次の動画を再生した。
その動画はスマホで撮影されたような画質で、夜の道を歩いていた男性が、公園の方で怒鳴り声が聞こえたのをキッカケに動画を回すところから始まる。
街灯の下で、年配の男性が若い女性に何か怒鳴っている。ズームすると足元に犬が倒れている。
どうやら犬を女性に蹴られたか何かをして男性が怒ってるようだったが、女性は微動だにしない。
すると突然、女性が「あ゛あ゛あ゛」と覆い被さり、年配の男性は倒れた。その後画面が暗くなり、バキとかグチとかいう音だけが響く。
撮影者がひっひっと息が荒くなると同時に、女性がこちらをグルンと見る瞬間で動画は終わった。
「これこそフィクションじゃない?」
眉を顰める未央。
美咲は得意げに続けた。
「だと思うよね? でもこれのすごいところは、実際この公園で怪死事件があったんだよ」
「それって最近?」
「3日くらい前かな。公園で男性2人、犬が1匹死んでたんだって」
「え。まさにコレじゃん」
「しかも警察は最初事故死ってことにしてたんだけど、この動画が出回ってから殺人事件に変えたって背景もあるんだよ」
「それ幽霊というより女の殺人鬼の撮影に成功した動画では?」
「でも被害者は他殺じゃなくて、蛇の毒で死んだらしいんだ。噛まれた跡もあるんだって。犬もそうなんだよ。でも犬はその毒への耐性が高いのに不思議だなって」
キーンコーンカーンコーン。
18時を告げる鐘が鳴る。
部活組がそろそろ戻ってくる頃だ。
「そろそろ帰ろっか」
席を立つ美咲と、動かない未央。
美咲は「どした?」と顔を覗き込む。
「美咲ちゃん。それ――私なんだ」
そう笑ってみせた未央の顔は口が耳まで裂けており、その顔はどこか蛇のように見えた。
まさに動画に映っていた女そのもの。
美咲は叫んだ。
「実は私も!」
そこにはボロボロの顔の老婆がいた。
美咲も実は異形の者であった。
2人はフフフと笑い合い、帰路につく。
「ドアップは自己主張強すぎ」
「それを言うなら殺してる未央ちゃんの方がやばいでしょ」
「仕方ないよ、一応私は都市伝説科だし」
「私産まれた時からボロボロのババアってつらくない?」
「老けないねって褒められるからいいじゃん」
怪異学校で学んだ知識で、彼女達は今日もどこかで人を怯えさせていることでしょう。。。
※深夜のノリで書きました。実際にそういう作品があるとかではないです