職場の同僚から聴いた話
こじつけとよく言われます。
しかし、『火のない所に煙は立たない』
それが何であれ、これは真理だと思います。
同僚のKさんから聴いた話
出張の多い会社に勤めていた。
Kさんは同僚であるが、
年に多くて十回程度しか会わない方だった。
一度だけ、同じ案件で二ヶ月ほど一緒に行動していた。
二人で打ち上げをしたときにお聴きした話。
Kさん「オカルトが好きなんだよね?」
ええ、そうなんですよ。
何か体験してたら、聴かせてもらえませんか?
Kさん「んー、怖くはないよ?」
いえ、いえ、何でも大丈夫ですよ。
もう、お聴き出来るだけで有難いですよ。
Kさん「一度だけ、不思議なことがあってさ。
〇〇の工場って知ってる?」
ああ、〇〇〇〇系列の会社ですよね?
Kさん「そう、そう、そこ。
そこで改修工事の事前調査をした時に…。」
築五十年以上の古い工場で、特殊な設備ばかり、
調べなければならいことが多い。
さらに二十四時間稼働の為、
事前調査に入れる時間が限られていた。
工場のシフト交代時間に合わせて現場に向かい、
工場に隣接する事務所兼休憩所の建屋に向かう。
責任者の方にご挨拶と作業内容・時間の説明をして、
工場内に向かう。
すれ違う作業者の方に挨拶しつつ、目的の場所に向かう。
まだ作業を続けている方も多く、
邪魔にならないよう気を付けながら黙々と仕事をこなす。
この案件で最大の山場に為るであろう、
大型設備の確認を最後に実施した。
設備の前でデータシートの確認をしている作業者と、
挨拶を交わし作業の準備を始める。
縦横二十メートル以上あり、高さは天井すれすれまである。
設備から響く重低音が、
自分を威嚇しているような錯覚を起こす。
よし!やるぞ!と自分に気合を入れ仕事に取り掛かる。
作業は順調に進み、最後の配管を確認する。
持参した図面と実物に相違が無いことを確かめ、
マーカーでチェックをいれる。
どこからともなく喋り声が聞こえる。
もう作業が再開するのかと、時計を見る。
まだ二十分ほど余裕がある。
初日だし、予定の作業は終わっているので、
ここまでにしよう。
Kさんは建屋に向かい、作業終了の報告をして帰宅した。
その日以降も他の仕事をこなしながら、
交代時間に合わせて工場に向かう。
建屋で責任者と話、工場内で作業者に挨拶し、
各設備を調べて周り、作業終了後また建屋に向かい報告し、
帰宅、又は違う現場へ。
二週間が過ぎた頃、あることに気が付いた。
大型設備で作業をしている時に喋り声が聞こえる。
周りに誰かいるのだと思っていたが、確認しても居なかった。
設備の重低音がそう聞こえるのかとも考えた。
しかし、聞こえてくるのは明らかに男性の喋り声だった。
疲れからの幻聴だと考え、気にしないようにした。
が、やはり聞こえてくるとどうしても気になる。
気になると何処から聞こえてくるのか、
確かめるようになった。
確かめるうちにある場所にいる時のみ聞こえると判った。
その場所から少しずれると、もう聞こえない。
設備の中から聞こえるのかと考え、
工具を聴診棒の代わりにして聴いてみる。
まったく喋り声は聞こえなかった。
しかし、耳を外すと聞こえてくる。
またすぐ耳を当てるが、やはり聞こえない。
いろいろと試してみて、聞こえる範囲が判った。
設備を前にして、左右三メートル以内、
後ろは七十センチ以内、上には五メートルぐらいまで、
下は地面まで顔近づけても聞こえる。
範囲内では若干音量が小さくなる所もあるが、
ほぼ万遍なく聞こえる。
しかし範囲を出ると全く聞こえない。
本当に唐突に聞こえなくなるそうだ。
一番よく聞こえる位置は、
範囲の真ん中で中腰姿勢の時だった。
何か途轍もない発見をした気がして、
訳も判らず興奮していたという。
Kさん「あの時は本当に疲れていたから、相当、
精神的におかしくなってたとは思うけど…」
苦笑いしながら頭を掻いている。
ちなみに、その喋り声って何を話してたんですか?
Kさん「それが喋ってるのは判るんだけど、
設備の重低音で内容が判らないんだ。
俺もそれが気になっていてね…」
事前調査は無事に完了し、改修工事が始まる。
数日後、Kさんは進捗状況の確認との名目で工場を訪れた。
実際はあの喋り声の内容を確認する為だった。
大型設備が停止される日であった。
挨拶と進捗状況の確認もそこそこに大型設備に向う。
作業開始前で周囲には誰も居ない。
設備から重低音も聞こえてこない。
目的の場所に着くとすぐにしゃがみ込む、
程なくあの声が聞こえてくる。
いつもと同じ音量で喋り声が聞こえる。
だが何も判らない。
言葉ではない。
喋り声なのは確かなのにどんな言葉なのか全く判らない。
Kさんは、英語、中国語、ロシア語がある程度判る。
日本語はもちろん、その全てに当てはまらない。
全く聴いた事の無い言語である。
いや、それは正確ではなかった。
日本語だと感じられるのに、
その言葉が脳内で意味として浮かばない。
気味が悪くなり、早々に工場から帰った。
Kさん「不思議なのは、あの喋り声は再現出来ないんだよ。
『猫』の鳴き声だったら『ニャー』、
『犬』の鳴き声だったら『ワン』、
とか、だいたいの音は擬音にできるけど、
あの喋り声は擬音にすら出来ないんだ。
全く頭に浮かばないから、なのに、
男が喋っているというか、
確実に言葉を発していると判るし、
日本語のように聞こえるし…」
釈然としないといった顔で、
答えを求めるように私を見ている。
すみません。
私には特殊な能力が無いので…。
Kさん「いやいや、いいんだよ。気にしなくて、
判ったら判ったで、それもなにか厭な気がするし、
まあ判らないままの方がいいこともあるだろうし…」
そうですよね…
Kさん「俺の一度だけ体験した不思議な話」
なんか、凄い残る話ですね。気になって仕方が無いっす。
Kさん「だよね。でも、判らないままが一番いいと思う」
再び苦笑いを浮かべていた。
当時、どうしても気になった私は、
その土地や工場について必死に調べたが、
特にこれといったものは出てこなかった。
が、最近になって、といっても数年前になるが、
ある情報を知った。
曰く付きの『物』がその工場の近くに移設されていた。
その『物』はKさんがこの体験をする数年前に、
移設されており、曰くは有名なので書きませんが、
もちろん私も『物』に関する話を知っていおり、
『物』は壊されたと聞いていた。
実際は、神仏に関係するので移設することになった様です。
Kさんが体験した工場内の場所についても、
『物』との関連性のある事柄が判明したのですが、
書くことは控えさせて頂きます。
読んでくださった方には申し訳ないのですが、
『物』についての話には、『障る』話が多く、
私もあくまで趣味で調べていのるで、
危険を冒したくない。
というのが本音です。
こじつけであれ、
Kさんの体験と『物』を完全に繋げてしまうと、
誰も喜ばない結末になる気がしてしょうがないからです。
Kさんの『判らないままが一番いい』という言葉が、
正解だと、今は思っております。
ひととなり。
Kさん
仕事が出来る人、頭の回転が尋常ではない速さ。
他人に優しく自分に厳しい。理想的な人物。
現在は海外で仕事をされております。