傷を背負う若き死者へ贈る鎮魂歌
碧く冷めた肌に降り積もる
鼓動を持たぬ乾いた哀しみ
言葉に出来ない透明な感情は
溺れて呼吸を忘れた心から
声にならぬ声となって零れる
目蓋を開けぬ君の笑顔は安らかで
それを納める一滴の涙は
もう帰らぬ懺悔を慰めるように
熱い頬と冷たい額を撫でる
傷だらけの眠りを飾る代わりに
静かな夜に舞う孤独を鎮めてあげる
君の調べを歌おう
哀愁を孕む闇の中へ
血の滲んだ愛惜は
その耳朶に届くのかな
重い袖をそっと上げ
ここにいない君に手を伸ばす
この指先に触れるのは
慈悲なき業に濡れた傷
もう君の爪先は沈んでしまったのだろうか
触れえぬ狂瀾の底に
君は何を見つけたの
君と分け合えなかった鼓動と
どんな言葉も超える虚しさを独り抱くだけ
もう腐爛したものしか残っていないのに
消えそうな息で
天を見つめる君の
指ですいた髪から
落ちた一片の希望はどうして
その心臓を揺さぶれなかったの
背負った罪と闇は重くて
二人でも抱えきれなかったかもしれない
君は優しい麻酔の作る夢に
浸るしかなかったかもしれない
だけど側にいたかった
ほんの少ししか持っていないけど
この掌で息づく幸せ
全部君にあげる為に
傷口を塞ぐ方法なんてなかったかもしれないけど
しぼった声で静かに囁いてあげたかった
これから生まれる世界に
埋もれたまま小さな光を発して
君を待っている祝福の声
今君を見つめる歌は
血の眠り薬より優しい鎮魂歌
穏やかな月の旋律
聖なる夜闇の揺り籠で
永久に眠る独りの君を前に
この喉はただ祈りのように歌を奏でる
その双眸を見なくても
惨憺を騙り続けた唇が
今は虚無を語るから
叫べなかったその舌に
甘い蜜をあげる
もう醒めない夢の途中
紡ぐ歌にそっと混ぜて
癒えない傷を持つのは
君を見れないこの眼も同じで
瘡蓋の代わりに君の知らない世界を探すよ
君が死んじゃう前に
どうして伝えられなかったんだろう
君が生きている間に
君に出逢いたかったと
触れられない君へと奏でる
この歌は指となり
風に乗って君の涙を拭うよ
今君に届けたい
君にもう出逢えない魂が
綴り続けるこの鎮魂歌