閉鎖病棟
久しぶりにエグイ描写が入ります
ご注意ください
全身の痛みに起こされて片目を開けた
縫合から解き放たれた傷口と包帯に滲む血
顔も
首も
腕も
手も
胸も
腹も
背も
足も
白と赤しか見えない
動かした眼球で
肘から生える管の先を確かめる
もう麻酔が切れた
重すぎる体をためらいなく持ち上げると
閉じかけていた傷が一斉に泣き出した
骨も軋み臓器も叫ぶ
ベッドデスクから
錠剤の残骸の山を床へ払い
わずかに水を残したグラスと未使用の鎮痛剤を選び
嘗めるほどの水で23錠を流し込む
並んだ箱からあふれかえる使用済みの注射器を
ギプスで隠れた右手でつかみ
バイアルから全身麻酔を注入して紫の腕に刺す
えぐれた腕の谷は出血が激しいので
包帯を剥ぎ止血剤を塗り付ければ
空になったパックを取り換えて気休めの輸血
移植された皮膚が馴染まなかったので
剥がれてきた部分だけ縫いつけた
最後に心電計の上で煙るアヘンを注ぎ足し一服して
全身から伸びた管と配線すべて引き抜き
手術台から抜け松葉杖をついて部屋を後にする
朝の準備が一通り終わったから
君に会いに行こう
一本足の君を歩かせるほど
僕は愚かな人間じゃないから
いつでも僕から君のもとへ行くんだ
昨日あげた左の薬指をなくしてない?
あんなに君が欲しがっていたから
エンゲージリングの代わりになったかな?
もう何も見えくても君なら
落としたら手さぐりで探しているだろうな
大丈夫、君がもう僕を見れなくても
この右目が君の目の代わり
僕が拾ってあげるよ
白い壁には鉄格子
歩く廊下のあちこちから聞こえる声は
誰も相手なんてしてあげない独り言
でも僕はこいつらとは違う
叫び暴れもしない
僕は狂ってなんかいないから
こんなとこで一人はつまらないし
君と毎日遊んでる
こんなの暇つぶしのお人形遊び
お互いの体を傷つけるだけのおままごと
でもさ
ねぇ、僕のこの気持ちは何だろう
気付けばもう
君と遊ばずにはいられなくなっていたんだ
これは恋? それとも依存?
呼び方なんてどっちでもいいんだけどね
だって大人がお遊びに本気になるなんて恥ずかしいから
口に出す気なんてさらさらないよ
君の部屋のドアをノックして入る
小さく寝ころぶ君に近づいてその肩に手を置く
君の目は前に僕が二つとも抉ったから
挨拶はボディータッチから
僕が君の頬に彫ったこの名前が
不細工に凹凸を黒く描き
唇は僕が黒い糸で縫い付けたから
少し開きにくそうだけど
それでも小さな口から挨拶をした
おはよう
昨日あげた指はずっと握っていてくれたんだね
いい子だね
あれ、この爪は君のと張り替えたのに落ちたのかな
今踏んで割れちゃったけどまぁいいか
じゃ、今日は何をしよう?
君は脳の奥で反響するような声で囁いた
ねぇ知りたくない?
ここじゃない世界
夢の世界でも幻覚の世界でも死後の世界でもいいから
緩やかに窒息するようなここから
早くいなくなりたい
痛みぐらいしか酸素の代わりになってくれない
でもね
そろそろ痛みも麻痺してきたの
だからそろそろ一緒に死なない?
僕は呆れながら答える
もう何度も心中ならしたじゃないか
手首を切り刻んだし
薬も大量に飲んだし
水の中で寝たし
全身に火をつけたし
高圧電流を浴びたし
首も吊った
でもそのたびに延命治療を施されていたじゃないか
また新しい朝を迎えるたび
僕は君と遊びたくて
こんな包帯だらけの体で君のところにくるんじゃないか
もう睡眠薬もアヘンも死も
僕らをどこにも連れていってくれないこと
君だってわかっているじゃないか
もっとお遊びをしようよ
たとえば、そうだね
僕の歯を抜いてそれぞれに役を与えるんだ
顔は君が彫っていいから
そしてたくさん物語を作るなんてどうだい?
君くらいの年の子なら
心中ごっこよりおままごとがちょうどいいよ
君がこの提案に満足しているのがわかる
今日は物語が尽きるまで遊ぼう
あれ、君の中の綿がちょっと漏れてるね
そこは先に縫い直しておこう
終わったらこの歯を全部抜こうか
ちょっと力がいるから自分でやるよ
心配しないで
ね、僕のお人形さん
もっと長く書くつもりでしたが
ウチ自身がこの話についていけなくて短めの話にしました