ネバーランド
私は"大人"にならない
私はネバーランドのお姫様
この世界に"大人"なんていらないわ
仕事をしないで
勉強もしないで
面倒から逃げて
お茶会を開いて
疲れたら眠って
お菓子を食べて
いたずらするの
ああなんて素晴らしいの
純粋で残酷な子供しかいないのよ
ふふ
きっと私は甘い白い砂糖菓子の世界にいるのね
え、白馬の王子様?
ああ、そんな人いらないわ
こっちから願い下げよ
え、その人が私を連れ去るの?
やめて私はこの世界から出たくない
だって外の世界は醜いんでしょう?
"大人"がブリキの歯車みたいに働くだけで
悲しい苦しい世界なんでしょう?
私は永遠にこの世界で生きてくの
悲しみも苦しみもない
この夢みたいなネバーランドでね
ここはね
子供でいたいものだけがいれるのよ
だから"大人"になっちゃったものは消えちゃうの
え、寂しくなんかないよ?
愛情が欲しくて寂しくて泣くのは赤ちゃんだけ
だって子供の仕事は遊ぶことだもの
寂しがるのは仕事じゃないの
誰かを困らせて誰かを傷付けて
強がってみたり笑って逃げるのが仕事なの
ほら
あなたも"大人"になりたくないんでしょう?
だからここにいるんでしょう?
いいのよ
ここなら誰も叱ったりしないから
陸すら見えない海の上に浮かぶ小さな島に
"大人"の声なんて聞こえないもの
え、海の向こう?
きっと大きなクジラがいるのね
毎日たくさんの潮を吹いて
波を生んでは海を満たしてるの
えぇ本当のことなんて知らないわ
それだけの想像で十分
子供は知りたがりさんなのよ
なんでなんでって
どうしてどうしてって
小鳥のように囀り続けるものよ
でも私は本当に"大人"になりたくないから
別に知らなくていいわ
私は"大人"の世界なんて見たくもない
そうだ
せっかくだから私の鏡を見て
私のお城にはね
大きな鏡があるの
ほら
前に立ってみて
聞こえる?
この鏡からは笑い声が聞こえるの
たくさんの人の笑い声
おもちゃがたくさんある国から聞こえてくるのかしら
そうだったらとっても素敵だわ
ああ、なんだかはしゃぎすぎたかしら
喉が渇いたからお茶にするわ
はい、あなたもどうぞ
お砂糖とミルクはたっぷり入れてね
ねぇ
私、今日はなんだか不思議なの
いたずらしなくても笑ってられるし
あなたといると
なんだか"大人"な気分になるわ
なぜかしら
あ、もしかして
あなたが白馬の王子様なの?
じゃあここを好きになって
私とここでずっと一緒にいましょう?
大人になんてならないで
甘い夢の中で生きていたいの
物語に終わりが来るなら
きっといつでもハッピーエンドよ
もし私の物語が終わるなら
ああ
きっと今以上に幸せなはずよ
ねぇ
あなたにだけいいこと教えてあげる
私ね好きな子がいるのよ
翠の目のとっても可愛い子なの
お人形みたいに小さくて柔らかくて可愛いから
つい抱きしめたら
ふふっ
その子が笑ってくれたのよ
嬉しくて好きって言ったら
お菓子をくれたの
真っ赤なバラ色のキャンディ
なめたら白い真珠になったのよ
あ、そうそう
ちょっと翠の水玉が入ってたみたい
きれいな真ん丸の飴だったから
噛まずに飲み込んちゃったの
おいしかったから
ありがとうって言いたくて振り向いたら
その子は消えちゃってたの
またいつか帰ってきてねって言いたかったのに
今でもあの子は好きよ
でもいつか私もあの子を忘れちゃうわ
だって別に他の子がいるし
いないなら誰もいなくてもいいもの
でも
あの子はなんで
"大人"になんてなっちゃったんだろう?
私には分からないわ
"大人"になりたい気持ち
こんな幸せな子供をやめて
"大人"になるなんてばかげてるわ
あなたもそう思う?
あら
いつものウサギが来たわ
ウサギはいつもせわしないから
たまには息抜きさせてあげなくちゃ
さぁ座って
ウサギのためのパーティーをしましょう
ガーデンのバラでも見ながら
今日はゆっくりお茶しましょ?
私達友達なんだから
今日のお茶のお菓子はマカロンよ
私、今日は早起き出来たから
自分で作ってみたのよ
お菓子作りは得意な方なんだから
材料はキツネが用意してくれるから困らないし
ほら食べて
好きな色のからでいいよ
私のオススメはやっぱりレモンイエローかしら
爽やかな夏の風みたいな香りがするの
はい、どうぞ
あれ?
ウサギが消えちゃった
もう
どのウサギも"大人"になるのが早いのね
今日のキツネももういないし
それにしても
どのウサギもどうしていつも
そんなに忙しそうにしてるのかしら?
まるで狂った時計みたいに止まらないの
あ、そうだわ
確かに大きな時計を持っていたわね
そういえば
もうここにはあなたと私しかいないのね
どうしてみんな私を置いてどこかに行くのかしら?
あなたもいつかどこかに行っちゃうの?
行かないでね
だってあなたは私の王子様なんでしょ?
お姫様を退屈させるなんてダメよ
ふふっ
なんてね
別に好きにすればいいわ
"大人"になるならなればいいわ
お姫様はいつもわがままだけど
一緒にいる人なんて
別に誰でもいいし、いなくてもいい
どんなに好きになったって
いなくなればすぐに忘れちゃうもの
なんていつも強がるのが
ふふっ
私の最高の遊びなの
あ、雨だわ
お城の中に入って
ドレスに泥がはねちゃう
髪も乱れちゃったわ
もう一回鏡を見にいかない?
私、身だしなみは気にする方なの
こんなはしたない格好したくないわ
これじゃあまるで
結婚式だけ綺麗なドレスで輝いたのに
家では奴隷のように働かされるお嫁さんみたいだわ
あら?
鏡に私が映らないわ
笑い声はいつも通り聞こえるのに
何かしら?
私の代わりに鏡の奥に見えるのは
貧相な家が並んでるわ
でもあの人達は何?
なんだか笑ってるみたい
別におもちゃで遊んでるわけでも
いたずらしてるわけでもないのに
え、"大人"?
あれが"大人"?
あそこに見えるのが"大人"?
じゃああの人達がしてるのが仕事?
苦しいだけの世界にいるはずの"大人"が
仕事をしながら笑ってるの?
どうして?
遊べないのに
甘えれないのに
いたずらできないのに
どうしてみんな笑ってるの?
ほらあの子もあの中で笑ってるわ
あの片目にガーゼをつけた
翠の目の可愛い顔はあの子だわ
こんなところにいたのね
背が伸びたのかしら
私と同じくらいだったのに
手も足もあんなに長い
"大人"の女性にしか見えないわ
私の知ってる人が他にも何人もいるけど
みんなあの頃とは違う笑顔ね
ねぇ
もしかしたら
"大人"なんて子供とそう違わないのかもね
"大人"だって
仕事するだけじゃなくて
子供みたいに
幸せそうに遊んで笑ってる
子供は部屋でのお人形遊びを止めて外に飛び出すもの
私も飛び出してみたい
そうしたらもっと私も
新しい笑顔を知れるかしら?
ふふっ
"大人"っていいものなのかもしれないわ
あなたもとっても"大人"らしくて素敵に見える
私もあの子みたいな素敵なレディーになってみたい
ほら
この鏡を壊して
破片が私のガラスの靴
この世界に残せる私がいた証
あなたは私の白馬の王子様だったのね
迎えにきてくれたのね
ありがとう
ふふっ
じゃあお姫様の私もあなたと結婚するのかしら
ああ未来には何があるのかな
明日はどうなるのかしら
あなたといられるなら
きっととっても楽しくなるわ
さぁ行きましょう
手を繋いで
割れた鏡の中へ飛び込んだら
全部消えちゃった
私の愛したネバーランド