no title
俺はもう迷わない
胸に金色の白刃を向けて
ふたつの空に叫んだ
木霊の響く森の中と
轟く怒号の海の中
ふたつの光が交わった
俺の過去が喉に絡まり
呼吸を蝕み腐らせる
俺は俺に問うた
けれど答えはあまりに可笑しすぎた
だからもう迷う必要はない
さぁ殺して差し上げよう
俺の運命を壊した人よ
俺の心はひとつの国家
いや、最早それは世界そのものだった
美しさだけに満たされた楽園
地は広く、海は遠く
風は青く、愛は深く
人間もそれはそれは美しい
愛と美のみに価値を置く
どこまでも崇高な生き方を貫く生き物だ
人々は深く愛し合う
殺し合うほどに
誰もが自分の想いと愛を
ただ一人愛する者へ示した
自らの全てをかけて
十字架にかけて亡骸を崇める人
大剣で胸を刺し交える人
相手の手を取り身を投げる人
喉元を裂いて血を啜る人
白い体を皿に飾って食べる人
爪を剥いで互いに付け替える人
冷たい腹を開いて贓物を纏う人
愛する切った指を蜜壷に埋める人
中には
たくさんの死体を縫い合わせて
愛する人にもう一度会う人もいた
全ての人間が
ただただ激しく美しい
深海で孤高に輝く真珠のように
黄金の時の砂を火花に変えて
堕ちゆくままに燃え尽きる
排他を極めた二人の人間が
磨きあげた耽美なる世界
嗚呼
世界はなんと美しいのだろう!
胸の奥に広がる世界を見つめながら
俺は視界を閉ざしていった
愛してる
ただ目を交わすだけで
心安らぐ唯一の人間だった
全てを差し出しても構わなかった
彼女が手に入るなら
本当は
彼女の微笑みをもっと
増やしてあげたかっただけ
絶やさせたくなかっただけ
どんな罰を受けてもいい
どんな罪を負ってもいい
彼女を護りきれるのならば
隣で一緒に笑っていたかった
だから、そう、あの時
女王の下した判決にも従おうとした
処刑されても何も不幸など感じなかったはずだ
彼女を護る為に人間を殺してしまったが
それはある意味誇らしいものだったのだから
なのに
俺は生き残り
彼女だけが死んだ
絞首刑場へ歩む俺に
向けられた批難の石の嵐から
小さな体躯にも関わらず
必死に俺を庇っただけなのに
顔は潰れ
脳は漏れ
手足は傷付き
至る箇所に痣をつけられ
惨たらしい姿で死んだ
思えば
血塗れの彼女を抱き上げた瞬間
俺の中に
一つ世界が出来上がったのかもしれない
俺は上に顔を向けた
重たい雲に突き刺さる屋根が歪んで目に落ちる
惜しむように少しずつ泣く空を仰ぎ
俺は
――笑い出した
とめどなく零れるのは
涙ではなく笑いだった
首を傾け世界を見渡した
醜い
醜い
醜い
醜い
何もかもが醜い
下を向くと腕に彼女がいた
石で顔の潰れた彼女を強く抱きしめる腕を
鉄の匂いが抱きかえした
美しい…
嗚呼、なんて美しい!
これは愛の姿だ!
また笑いが込み上げた
愛してる
愛してる
愛してる
愛してる
愛してる
愛してる
お前だけを愛してる
笑い声を家々の隙間へ響かせながら
俺への批難の塊を掴み取り
彼女を殴り付けた
何度も
何度も
何度も
何度も
何度も
何度も
元が人間かも分からないほど何度も
もっと!
もっと美しく!
周りの人間達が腕を伸ばし
俺の体を押さえた
笑い声は叫び声を加え
体は抵抗しながらも
なお笑いは止まらない
加速する呼吸と鼓動
肥大化する欲情
痛みと競り上がる快楽
美しい!
美しすぎる!
目を見開き熱く彼女を見つめる俺に
誰かが目隠しをした
首を圧迫される
汗ばんだ手の感触が体中を弄る
遠のく意識の狭間に
白い彼女の微笑みが消えた
目隠しの向こうに蔓延る醜い世界を
優しく目蓋が隠した
目を覚ましたとき
自分の体が水面に漂っているのが分かった
葉の匂いが降り注ぎ
木漏れ日が宛もなくたゆたう
まだ生きている
体は冷たいのに温かい
ここがどこか分からない
国外追放されたのかもしれない
でもただ一つ確かなのは
彼女が死に、新しい世界が生まれたこと
胸板の奥で息を潜めている心臓が
ため息のような涙を一筋落とした
俺の外の世界は
ただ自然に包まれた孤独の日々
俺の中の世界は
ただ愛に浸された殺戮の日々
そんな世界が俺に囁く
抗い方さえ忘れさせるように
甘く優しく激しく
―愛する人は死んだ―
―故郷から追い出された―
―お前は独りだ―
―彼女が死んだのは女王の所為―
―お前の処刑をしようとしたから―
―女王が処刑を決めたから―
―女王を殺せ―
―それがお前の怒りへの終止符―
目を塞ぐ度
夢を見る度
波紋を覗くだけで
風に揺れるだけで
耳から脳へと突き上がる声
逃げられもしない
外からも中からも聞こえる
呪縛の足枷を引きづりながら
何とか生き延びるだけの一日
想いは最初から共鳴していた
それでも
とてつもなく恐れていた
また自分が
何かを殺すことで全てを失うことを
でも時は来てしまう
憎悪と恐怖に膨らんだ泡は
波を潜り夜に触れた瞬間弾ける
気付けば走り出していた
足に靴はなく手に刃がある
何もない
あの日の彼女の顔以外
自分が壊してしまう前の
赤い涙で崩れる彼女の顔だけ
白く脳裏に焼け付いたまま
開ききった目は風を掻き分け
闇へと視線を血走らせる
ほのかに季節の変わり目を孕む匂いが
温い空気と共に濡れた頬を冷やす
ここが何処なのか知らないはずなのに
足は必然という軌跡をなぞる
復讐の道を駆けるのを待っていたかのように
嗚呼
これは失う為の殺しなのだ
生き残った俺に残された仕事なのだ
女王の血を浴びるとき
この声が掻き消されるだろう
俺は死のう
全てが片付いてしまったら
二つの世界の色を壊そう
そのとき
彼女の微笑みはもう一度俺を映すだろうか?
久々に夢を見た
それは過去の記憶の再生
女王を殺しに行った日
そして、女王を愛した日の夢
全てが始まり
その瞬間に消え果てた夜
それは唇に触れる雪のように
哀しみも愛しさも透明に塗り変える
絶望へと堕ちゆく最期の愛
今この頬を焦がす涙と
頬を握り込むこの笑みは
どちらが真実なのか
どうか誰か教えてください
初めて女王を明らかに見たとき
俺は驚きの余り喉に息を詰まらせた
女王への怨恨に燃えた脳の芯まで
一吹きで冷えきった
力の限り掴んでいたナイフは
いとも手易く振り落とされ
幾筋もの切っ先に首を囲まれて
一瞬で手首を合わせられた
舞踏会の鮮やかな熱に
恐怖心の風を吹き掛けながら
色を競い合うドレスの群れを掻き分けて
煌びやかなシャンデリアの真下に突き出された
顎を引き上げられると
人並みが割れた先に
小さな膝が跳び回らないように
重しに金の冠を乗せた女王が
縮こまりながら座っていた
女王はあまりに幼かった
まだ八つくらいの恋すら知らない目をした少女
全てがあまりに小さく細くか弱く
その虚飾に思える身繕いは
あまりに不釣り合いで
女王は高い声を震わせて
目を逸らしながら俺に言った
小刻みに王冠が揺れ
狭い腿からこぼれそうで
それを支える指は白くなっていた
私は貴方を覚えています
貴方は私の母に処刑を言い渡されました
けれど貴方の大切な人だけが亡くなりました
私は言い訳をするつもりはありません
処刑の日の早朝
母は頭の病気が悪化して
あっという間に亡くなってしまいました
私はその瞬間から女王です
実質私が貴方の処分を実行しました
私を怨んでいるのですか?
(未完)
もう昔すぎて全然続き覚えてないよこれw
形式も昔の書き方だし
これ8割は一気に書いて女王出てきたとこだけ割と最近(←数年前w)書き足して
で、忘れたっていう←
未完ですがもう完成させられないので出しました
題名も決めてませんw
書きたい方いたら続きご自由にどうぞ
本気です