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黒い短編集  作者: 衣月
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騎士の欲したのは



寂寥の風が暇を持て甘し、甲冑を玩ぶ

静謐な夜闇の幕が草原に降り、今か今かと幕が上がる時を待つ



嵐の前の静けさ、と云われるものだろう




(――けれど)




跨がる黒馬が逞しい首筋を見せ付ける

嘶くべき時が満ちるのを漆黒の双眸が睨む


腰に収まる二本の剣は、(さなが)ら血に飢えた獣の牙

脈打つ刀身が、噛み付くべき敵が襲い来るのを鞘に隠れて待つ



(――本当は)




鉄と化した手を握り締める


胸の高鳴りを鉄の壁に隠す

体を巡る血がたぎる



私が狙うは王の首




(――私が欲しいのは)







闇の奥に目を凝らす



敵の軍勢が草原の地平線を縁取る





いざ目覚めのとき

手に掴む刃を差し向けよ




さぁ時は満ちた


いざ進まん






輝く矢が天へと放たれる


月が夜空へと昇る




私は一陣の風となる


大量の同胞が私の後ろ姿を追う


戦いの渦へと身を投げる




(ひづめ)が地を裂く音

甲冑の擦れる音

馬の嘶く音

剣の交わる音

痛みに叫ぶ音

興奮に震える音




火が草原に放たれ、檻から逃げた豹のように地を駆ける


明るい光にも飛び込む戦士の姿は、夏の虫のよう






幾人も斬り、幾人も落とし、幾人も踏み、幾人も殺した



一陣の赤い風は戦場を駆け抜ける



前へ前へ


それが神の言葉



その背に神の恩恵を受け、迷いなくただ前へと吹き抜ける



















目指していた人間のもとへと辿り着く



白馬に跨がる鋼の王


戦いの始まりから今まで、一歩たりとも動いていない砦





月明かりと炎に見守られながら

風と砦は対峙する



赤黒く濁った鎧は

己の罪業のように身体を重くさせる




瞳に宿るのは勝利への確信、ただそれのみ






刃が繋がる


嘶きが咲く


血飛沫が光る


呻きが跳ぶ




そして


砦は崩れ去った




この胸に抱えるは欲した首



(――本当に私が)




国に帰りたい



この首を女王に献上せねばならない


女王の命はこの脳に付けられた刺青


まだこの耳に残っている




(――心から欲したのは)




温い風が吹き抜けた


その中に、女王の声を聞いた気がした



それだけで侘しさが胸を満たす




女王の愛した人の首はここにある


彼女が望んだから、この戦いは始まった



彼女の願いは私の願いとなる


けれど

私の欲しいものは…




(――愛しい女王の首)





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