虚実を混ぜて教えてあげませう この恋の形を
私はあなたを愛しています
私は生まれて初めて人を愛しました
あなたは私に光を教えてくださった
どんな偽りも清めるような笑顔を持って
そしてそのまばゆい姿を見上げながら
祈るような崇めるような思いを
抱かずにはいられませんでした
この瞳が見つめる先に
いつも誰がいるのか
それに気付いたときから
もう胸の奥には
視界を覆い尽くすほどの煙を
発しながら燃える炎がありました
どうか笑顔で受け取ってください
赤い薔薇がお好きでしたね
一番美しく咲いた花を切ってきました
あなたに一番映えるような、そんな一輪を
頬を彩る花びらの下に隠された棘さえも
あなたに添えば華やいで見えます
どんな花同士よりもよく似合いますね
さぁお飲みください
地の果ての異国まで探しにいった
この世の最端に湧く美酒を
どんなにその薫りは気高いか
どんなにその色は華やいでいるか
どんなにその味は透き通った酔いにいたるものか
まだ誰も形容しきれた人間はいません
口にしたことのある人間さえ
未だ指で数えられる程度
その穢れた言葉さえ吐いたことのない清浄な喉へ
花を流すようにお注ぎください
私はあなたに絶対の忠誠を誓います
あなたが望むとは思いませんが
もしあなたが望むのならば
私は鎖の蔦に呑まれてもいい
あなたが私の死を望むなら
私は命を投げ出せます
どんな屈辱もどんな賞賛も
あなたの為なら厭うことはありません
首輪で繋いでもいい
火の中に捨ててもいい
戦争に放ってもいい
犬に食べさせてもいい
私の苦手な栄光さえも
あなたがお与えるくださるならば
微笑みを浮かべながら
両手を掲げて受け取りましょう
あなたの命を護る為なら
どんな小さな希望にでも縋り付き
最期まで諦めずにお側にいます
頭を垂れて跪いたまま
二度とあなたのお顔を拝見できなくても
私にできることを成し続けます
私を信じてください
どんな苦しみがあろうと
私はあなたの為に立ち向かいます
茨の道など恐れません
あ、言い忘れていました
棘には気をつけてくださいね
自身の美しさを残すために生まれたこの棘には
まだ害虫に対して使い切っていない毒が残っているかもしれません
その薔薇の花粉も有毒で
致死量は並ぶもののないほどです
また、先程のお酒は
確かに味わいを形容しきれた者はいませんが
それは言葉を形作る間もなく舌が動かなくなるからです
全身が痺れて血流が異常な流れ方をするという効果がみられます
この世で飲んだことのある者はほとんどいませんが
その刺激の強さは
怒り狂った象も一瞬で倒れるほどの折り紙付きです
目が霞んできた?
息が苦しくてできない?
大丈夫ですよ、心配ありません
それが正常な体の反応です
え?
さっきの言葉は嘘だったの?
あぁ、もちろん嘘ですが
どうしてって・・・・
あ、そうか
あなたには理由が必要なんですね
そうですね
例えばこんなのはどうですか
オペラには破局の一つもないと
観客はほら、すぐに笑いだすでしょう?
幸せを不自然につくりあげて
一人でそれに惚れ惚れ
そして周りの他人を巻き込んで仮面舞踏会のはじまりはじまり
そんなものは少しも美しくないでしょう?
つまりは恋にはカタストロフィとドラマテヰツクさが必要だから
なんてどうですか?
おや?・・・・はて
どうしてそんなお顔をなさるのですか?
あなたはおっしゃったじゃないですか
月が光を消した凍った夜空に
淑やかな頬の紅を注して
花を散らすような遠く美しい声で
―人は恋をするわ―
―形は人によりけりだけど―
―誰もがその美しさに酔いしれるもの―
―ねぇ、今あなたが恋してる人がいるなら
―いつかでいいの―
―どんな恋をしてるか教えてね―
―私は純粋に心から祝福するわ―