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黒い短編集  作者: 衣月
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sweet time


スイーツはお好き?

わたしはだいすき


かわいいモノに囲まれて

あまいモノに囲まれて

やさしくてやわらかいモノのなかで生きるの


それが私の生き方よ







そよ風のなかには遠い星の歌声がかくれてて

甘酸っぱい秘密をさやいて教えてくれる


それはわたしにはいつも真新しくて

また胸の宝石箱に密やかに仕舞うわ

冬に凍った露みたいな碧珠(サファイア)となって

時間に磨かれて輝きつづけるの




いつもわたしの周りには

オペラに飛び交う告白(セリフ)みたいな

真珠色の香りが舞っているの

きっと妖精の靴は一片の羽をもってるのね


すこし酔うくらい濃い香りは

刻の黴につつまれて眠った葡萄酒(ワイン)みたい

蝶はピンで止められて飛べないけれど

美しい翅だけは足早に秒針を刻むの




わたしの食事は一級品

あぁ、そうよ

もちろんわたしのお手製


わたしのスイーツを啄んだ小鳥達は

ぼやけた深海をのぞくみたいな目で宙を仰ぐのよ

きっと恋に落ちる味なのね



決め手はこの真っ白な粉なの

紫のダイヤモンドの小瓶の中を

浜辺を舐める波のように細かく揺れる姿は

嗚呼小さな物語(ファンタジー)の訪れの予感のようね


オレンジペコ色のスープにだって

キャラメル色のステーキにだって

生クリーム色のブレッドにだって

クランベリー色のサラダにだって

なんにでも入れるわ

チョコレートココアには気分に合わせて


時々入れすぎて

胸にぴりりと電気が弾ける感触は

どんなスパイスよりも心躍るのよ




浴室は白で統一して清潔そうでしょ?

でも小さな窪みの奥の影だけが

わたしの肌の白さに混ざらないの


フラワーシャワーを浴びたバスタブは真っ白

金の猫足がお気に入りなのよ

赤の薔薇を浮かべてるとキレイなの


音楽がシャワーから流れて

わたしは楽譜(スコア)の音符になって水と戯れるの

そのときにはね

この舌は対の翼になって

あの黒い雲の向こうをめざして歌うわ

とっても軽やかに跳ねる声は

大気の浮力にしたがって光の速度で

世界の裏側にまで羽ばたくのよ

神への祈りの代わりに、ね




壊れた時計しかないから時間がわからないの

でも大分遅くなったみたい

キャンドルがもう少しで蝋のミネストローネになりそう


あぁ今日も楽しかったわ

あなたも楽しめたかしら?

ほら、ナイチンゲールがあの木の枝で

まあるい目でわたし達を見てる

夜を知らせる声が月に触れたから、もう寝なくちゃ

お泊りはどうかしら?



あら、遠慮しなくてもいいのに・・・

どうしたのそんな怖そう顔

ハーブティーよ

気分が落ち着くの

この純白のお砂糖をいっぱい入れてね



ふふ、眠そうね

大丈夫よ

あなたを家具になんてしないわ

わたし、あなたのこと好きだから

でもね

スイーツならもっと大好き


あなたは明日のスイーツね

もう夜も遅いわ

お休みなさい





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