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黒い短編集  作者: 衣月
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蛇の道は蛇


あの透明な氷の百合のような声を聞けないなら

もう音を流し込む意味もない


あの哀しげな石英の枝のような指先を凍えさせた牙で

鼓膜を附き貫く










嗚呼毒に侵しておくれ

あの遠く深く暗い喉の奥の心を悟った叡智の白蛇や


我の心にも

束縛という檻に幽閉された影のような

温かく黒い麻酔を一摘み

睫毛の先の消えない滴りに換えて

垂らしておくれ


純潔を証す白い絹には

流れ掠めた一粒の穢れさえも広がるから


このまま朽ちれば

美しい寝顔を崇めながら息を押し潰せるのに

果てには連れて行ってはくれまいと?


嗚呼思慮の知性の鱗を纏う白蛇や

我に何の罪を垣間見る?

我に何の罰を夢見る?

笑みから溢れ出るその牙は

愚昧か毅然か







今も朱い目で僅かな差異も切り分ける白蛇や

我をどう思うておる?


何よりも想う故に

同じ死を以って愛を描こうとする我を

愚かだと呆れるか?


まだあの闇に独り消えた魂を理解しきらぬ内に

共鳴の幻想を抱き唯一の共有を求める我は

情けなしとばかりに

遺憾に堪えないか?



我の歎きを知る白蛇や

主の想いを聴かせよ

望みならば星を砕く願いさえも

この手に持ち得る全ての富を用いようと

聞き届けてみせよう


我は尚死の為に主の願いを叶えたい

声の届かぬ我に

その願いを聴かせてはくれまいか?

我は主の歎きを知らぬ

だが孤独に閃く瞳よ

その想いもいつか我の目にも伝わるだろう

主はその日まで

絶望に彩られた永劫の生を刻むだろう


死を見つめ続ける白蛇よ

人間とは限りなく愚かしかろう

その滑稽の舞でよければ

我は主の隣で奏で続けてしんぜよう

主の望みを悟るその日まで

永久の苦しみの

一時の快楽とならんことを願いながら









幾年が過ぎようか

老いも病みもせず煌々と朱い目を開く白蛇や



主には真を言わぬとも知っておっただろうが

我は知っておった

主がなぜゆえに我に漆黒の毒を与えぬかを


主はどんな人間より

我を理解しておったのだろう?


黄昏の薄闇は夜明けの哀しみには気付かせない

それは歌声の最果てを隠す宴であろう?



遠い過去より死を望む白蛇よ

主の願い

それは最早叶うものではないのであろう?

主を殺すべきであった人間は

その象牙色の憎しみに消えてしまったのだから




我の歌はもう終えよう

物語は死の匂いを放つままに終焉を目指すもの


一つの喜劇の終幕を吸う瞳の白蛇よ

文目鳥は冥土を渡ると知っておるか?

文目鳥の声はもう聞こえぬが

あの濁りを消した刃のような煌めきを宿す声が

鋭くも狂い絡まり合うような鳴き声になるであろうか

そして我の彼岸での想いも

あの声となり川から帰ってくるのであろうか


此岸にまた来ようとも

我の声は主には二度と聞かせまい

もし文目鳥の歌が聴こえたなら

それは白蛇よ

(じゃ)の声である










白蛇は思った


私は先を歩む者か

或は後を辿る者か


どちらにせよ

文目鳥の声はいつまでも

私の行くべき道を導き出す






蛇の道は蛇

同類のすることは、その方面の者にはすぐわかるというたとえ。


これを違う解釈で書きました

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