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黒い短編集  作者: 衣月
12/27

穢れた織天使


ここは汚い鼠の住処

この場処には醜いものしかない


癒しなんて知らない

ただ窶れ腐って朽ちる

醜くくなる

腐臭を虚空に放つ

この住処の一部となる

その為に僕は生まれた



そんな運命に少しだけ楯突いて

夜になると(ストリート)を抜けて

煌めく湖へと向かう


漆黒の水面に

星と月が泳ぎながら踊る

舞踏会(パーティ)はただ

夢と現のたまゆらを漂う


ここだけが唯一

僕の世界の中で美しい場処


いつか体が腐ったら

心はここに帰ってきたい



そんな願いも

砂ぼこりや垢にまみれて

汚され消されていく


どこにも

美しい場処なんてない

信じること

それすらも醜い足掻き



そんな場処で見かけた君は

同じ人間とは思えないほど

この世のものとは思えないほど

清く美しかった



ずっと君を見ていた

神を崇めるよりも大切に


君を見ているだけで

全てが浄化されていく



君が一度だけ僕に

向けてくれた憐れみの眼差しも

忘れはしない

ほんの少しの微笑みと一緒に

くれた甘い葡萄酒の味も


それだけで

胸には幸せが浮かんできて

もっと生きていける気がした



他の狢共にも同じように

そうやって優しくする姿を見て

耐えられなくなった


あんな奴に優しくしないでほしい


美しさを理解できない

他の狢なんかに

そんな優しくしないでくれ


僕だけでいい

この闇の中で光を見るのは


他の狢なんて

闇に蝕まれたまま

君の温かすぎる優しさも

解らないくせに


解らないなら

受けとる価値もない


君が優しくする人を

僕は殺していった


痩せた首を絞めた

けれどこの喉に

命の重さは込もっていない

軽すぎる命

いくら殺しても

天使の微笑みは絶えない


僕は君を護りたい

その笑顔が曇るのが恐い


狢が君の優しさを理解できずに

君を傷付けるかもしれない


それだけは

絶対にさせない



盗んだ紙と鉛筆で

君に手紙を書いた


不揃いな文字は

間違っていたかもしれないけれど

全身全霊の気持ちを書いた



君は優しかった

地獄を見せる無情な神とは違い


返事をくれた

一つのパンを添えて


差しのべてくれたパンは

今も僕の中に息づいている



知らない単語ばかりで

何を書いているのか分からない

その手紙だけがそれでも

僕の全ての光だった


世界の闇が

全て垂れ流しのこの場処で

君が唯一の光だった


曇天の雲間から射し込む日光


輝かしく空で微笑む天使だった


だから

触れたくて

もっと話がしたくて

君の手を引いて連れていった

君に見せてあげたかったところへ

僕が知る

唯一美しい場処へ



抱きしめて

感謝の言葉を述べようとしたとき

君は叫んだ


「誰か助けて! 殺される!」



光は砕けた

地の底に温もりを教えたのに

後に残るのは

何の熱もない氷原


あの手紙はお別れの手紙だったと

今になって気付く


けれどそれでも

君を離したくない


天使よどうか

僕の前から消えないで



僕はその口をこの唇でふさいだ


ねぇお願い

僕に笑いかけて


君だけなんだ

僕を見てくれたのは

今僕がここに

存在していると認めてくれたのは



君を攫った

本当はこんなこと

したい訳じゃないのに


でも天使は裏切った

君はやはり

下等で無情な神と同じなのか?


こうするしか

君を見つめる術を思い付かなくて

君を手に入れる術が分からなくて



僕が問うと君は教えてくれた


お父さんの言いつけで

その手紙を書かされたこと

もし手を引かれたら

叫べと教わったこと


嗚呼やっぱり

君は優しいんだね


悪いのは君じゃない

天使を産んだ神だけが悪い


僕は君の親を殺した


絢爛な寝台に眠る

君と似た顔を

僕の手で歪めた

それはそれは醜く

あの汚い場処の

誰よりも醜い姿に


これからできる綺麗な世界に

無情な神なんて必要ない


美しい君がいれば

そこは世界の中心だから



ねぇ

ここは何にもない場処だけど

この世の何処よりも綺麗だね


まるで夜の天空に

散りばめられた輝きが

一つずつ僕等を包むようだ


君の笑顔が綺麗で

僕は求めていたんだ

骨と皮だけの体で

ずっと見ていたんだ


ねぇ

ここで僕は死ぬけれど

君は笑っていてね


大丈夫

僕は寂しくないよ

君は天使だから

また逢えるよ


少しずつ壊れていく世界


優しい言葉はもういらないから

君の中で逝かせて


僕を闇から掬い上げた

穢れのない手は

まるで光る織天使(セラフ)





少しサイトの使い方が変わったので、後書きの変更に苦戦しています汗

この後書きは、時間がなかったときに書いた付け焼き刃の後書きを書き換えたものです



「穢れた織天使」のちょっとした解説をしておきます


「君」のことを「天使」としていて、サブタイトルは「君」のことを指しています

「君」はただ単に優しくて純粋な子ではなかった

「僕」の目の前で起こった事柄は、本当は仕組まれたものだった

貧困街の子を殺させたり、父親を殺すように仕向けたり、「僕」が「天使」と美しい世界を作れずにそのまま息絶えたのも、作戦だった


微笑みの奥には毒がある




ただ、ある意味で「君」は「天使」だった

命の重さや神の力を計る為に、たくさんの命を奪った

自ら手を下さず、地を這う人間を使って


命は簡単に消える

その人がどれだけ貧しくても、どれだけ権力を持っていても

それを証明する為に人間を殺した


神はどこまで過ちを知っているのか、どれだけの裁きに遭うのか

神の力を試す為に人間の手を通して人間を殺した



神を試し人間を殺めた「天使」は穢れた

神への情熱に燃える「織天使」は、情熱故に燃え尽きた


微笑みの下に伝う毒の中には、純粋で確かな神への愛があった

そんな物語です




話の中で、「僕」は「君」の父親を「神」とも表現していますが、それは「天使」を産んだという意味です

また、貧困街出身の「僕」にとって社会を牛耳る貴族は「神」に等しい存在だったので、そう言いました

解説の中での神とは違います


ただ、言うならば、「天使」は「神」を殺したことにもなるので、それもまた「穢れ」かもしれません

親を殺める罪は、何よりも重たいです



表テーマは「天使の微笑み」裏テーマは「神への愛」でした

それらは相反する故に同じものなのですね





さて近況報告をしようと思っていたのですが、思ったより文字数を使ってしまっているので、ここでは書きません


近い内にまた新しい話を載せれたらと思っています^^




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