4-2.種牡馬入り
オレは今、なんかやたら立派な厩舎に入れられている。
天下の吉住ファームだ。
なんか種牡馬入りできるかどうか、皆に心配されてたはずなんだけど、どうしてこうなった?
ここのボスであるファイアグルームに挨拶した後は専用の厩舎でのんびり暮らしてる。
ここに来たのは夏で、種牡馬入りしたとは言っても、春まで特にすることはないわけだ。
なんか怪我で休養してた期間も長かったし、ずっと稼ぎもないのにのんびりさせてもらって悪いような気もするが、その分たくさん稼いだし、大目に見てもらおう。
ここはエサも美味い。なんか同じエサと言っても現役馬用のエサとはちょっと違う気もする。現役馬時代は余分な肉がつかないように、それでかつ成長に役立つようにといろいろ工夫されてた感じだけど、今はなんかただひたすら美味いのだ。
王様の待遇ってやつだね、これは。
そんな感じで食っちゃ寝してたある日、人間のほうのボスの吉住正勝氏がオレのところに現れた。先代の吉住ファームのオーナーで競馬界のドンだな。
「すっかりほっておいて悪かったな。
ヨーロッパのほう、まわっていたからな」
なんかオレに普通に話し掛けてくるけど、普通の馬はそこまでしっかり人間の話わからないぞ、ある程度は通じるけど。
「お前は人間の話のわかる馬だろ?
目を見てればわかる。何千頭かに1頭はお前みたいなやつがいるんだよ」
わかるんだ!
そしてオレみたいなのが稀にはいるんだ!
まぁそうだろうな、オレだけが特別ってワケじゃないだろうからな。
「お前らのような人間の話のわかる馬は、なんかそこそこいい走りをするんだ。
そして面白いから繁殖に上げてみたことが何度かあるんだけど、何故か期待したほど子供は走らないんだ。皆、騙されちゃうんだな、何度も痛い目にあったものだ。
ようするに、それほどの能力もないのに要領がいいから、レースでいい成績を残すんだけど、子供は普通なんだよな」
うわぁ、全部バレてる。この人、怖いな。
「お前はタイミングよくっていうか、悪いのか普通に考えれば……
とにかく怪我したせいで、活躍が中途半端な感じになってたが、あの調子で大阪杯やら秋天やら勝ったら、きっとシンジケートとか組まれただろうな。
そして思ったほど子供が走らなくてやがて解散。お前もどこかで忘れ去られるとか、そういう未来もあり得たわけだ」
あり得るなっていうか、オレとしてはそれを目指してたんだが、やっぱダメそうなのか。
「でも前に言ったこと覚えてるかどうかは知らんが、お前の血統を面白いと思ってるのも事実だ。そして過去のお前らのような馬よりは能力もあるように見える。
長年の勘としか言いようがないけどな、こればっかしは」
覚えてる。っていうかあのとき記者たちにでなく、オレに言ってたのか?
「そこで、お前をこうして買ってみたわけだ。
当然シンジケートじゃなく、うちの個人所有。
未公開でちょっといろいろ試してみるつもりだから」
試す?
「年間数頭だと思うけど、よりすぐりの牝馬用意してやるから春までのんびり待ってなよ」
ちゃんと種牡馬として扱ってくれるんだな、それはよかった。
でも、数頭かーってワガママ言っちゃいかん、人間基準で考えれば十分それでもハーレムじゃないか。
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