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3-11.ジャパンカップ

 ゲートに入ってから急に心臓がバクバクしてきやがった。

 こんなに緊張するのは初めてかもしれん。

 なんてったって、言われてる作戦を実行するにはスタートダッシュが肝心。ここでこけたらすべてが台無し。

 もともとそんなにスタートが上手い方じゃなかったんだよな。みっちり練習してずいぶんマシにはなったが。


 逃げ馬の皆はこんなに緊張してるんだろうか?

 今まで気楽にゲートインしててなんかゴメン。

 オレの最高のライバル、スギノミサイルよ。お前ならこんな緊張してなかったよな、きっと。


 そんなこと考えてたら急になんか落ち着いてきた。

 スギノミサイルが天から見守っててくれる!

 (死んでません)


 いつものようにジュンがオレの首筋を優しく叩く。いよいよだな。


 ゲートが開いた。

 なんかすごくスムーズにゲートから出れた気がする。練習でもこんなに自然にスタートできたことなかったのに。

 これだけのスタートはもう一度やれと言われても早々簡単に再現できる気がしない。


 いける!

 今日はオレの日だ!


 先頭に立ったオレに競りかけてくる馬はどうやらいないようだ。

 藤森調教師の展開予想通りってことだな。


 オレは1ハロン12秒のよどみないペースを維持する。このペースを完璧に維持するための練習は徹底的に行なった。

 速すぎず遅すぎず、完璧に維持し続けたスギノミサイルの走りを何度でも見た。さすがに毎回2400メートルを1ハロン12秒維持したまま何度も走る練習はオーバーワークとなるのでできなかったのが心残りであるけど、オレは本番の今、それができると信じている。


 しかし、この逃げって戦法、先頭をずっと走り続けるのはたしかに気持ちいい。

 例のゲームのキャラが言ってた先頭の景色ってやつか。

 でも、その分だけすごくおっかない。なにせ後ろがどうなってるか、さっぱりわからないのだ。どんな展開になってて、どの馬がどのあたりで何してるかってわからないことがこれだけ怖いことか。


 孤高ってやつか、スギノミサイルが見ていた世界。感じていた世界。

 これほど素晴らしく、これほどおっかない世界だったんだな。

 それにしても、この走り。スギノミサイルは3歳の春にやってのけたんだよな。今のオレならきっとできる。でもあの頃のオレにはとてもこんなマネはできやしない。つくづくすごい馬だったんだな、オレのライバルは。


 レースはオレの先頭のまま続く。そして最終コーナー、後ろを走る馬の駆ける響きが聞こえてきた。おいおい、ダービーのタカノロイヤルだったら、まだずいぶん後方だったはずだぞ。

 来た馬はどいつだろう?

 ガゾンロイか、それともドリーミングアイか?

 いや、オレには1つの確信があった。オーギュスタンに違いない。普通に考えて自分が勝つためにはここでオレに競りかけるのは間違ってる。府中の最後の直線は長い。勝つためにはまだ脚を貯めてなくてはならない。

 だが、ここでオレに自由に逃げさせては、このまま逃げ切られてしまう恐怖がどうしてもあるだろう。

 だから、ここでオレを潰しに来るような馬、それはオーギュスタンだけだろう。

 かわいそうなヤツだ。使ってもらうにはこういう役回りを引き受けなくてはならないなんて。

 でも同情はしない。オレもエゴイストなんでな。

 オレはオレのために勝つ!


 スギノミサイルのレースはここまでだ。

 ここからはオレのレース。オレの長く使えるスパートをここでかけた。まぁオーギュスタンの思惑通りと思われるかもしれないな。でもなめてもらってはいけないな。オレは1つだけスギノミサイルより明らかに強いものを持っているんだよ。それは無尽蔵なスタミナ。2400メートルを逃げ切ったくらいでオレのスタミナがどうこうなるはずがないだろ?


 オレはオーギュスタン、と思われる馬を引き離した。

 さぁ最後の直線だ。

 世間が本命と思ってる2頭がやってきたようだな。やはりあんたらは本物だよ。

 期待された馬が期待通りに走るなんてそうそう簡単にできることじゃない。でもちゃんと来やがった。

 オレの独壇場どくだんじょうにはさせてくれないようだ。

 ゴールは目前、だが2頭がオレに迫る。

 でも、忘れてもらっては困るな。オレにはまだもう1つ残してあるものがあるんだぜ。

 ここで使わなくて、いつ使うんだ。

 いくぜ!

 「灼熱のファイナルギア!!」


 2頭を突き放し、オレは先頭でゴールを駆け抜けた。

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― 新着の感想 ―
あれだけ大口叩いて負けた海外調教師のコメントが欲しかったなぁ
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