3-11.騸馬
本当に長期間の休載で、もう忘れられてると思いますが、連載再開します。
最終回まで書き貯めてありますので、休載することなく最後まで完走できると思います。
なお、設定をR15に変更しました。次章でちょっと微妙な表現でてきますので。馬の交尾を性的表現と捉えるかどうかは人それぞれでしょうけど……
ジャパンカップ開催日、快晴。見事なまでの良馬場である。
ただし、東京競馬場の開催も年内は本日で終了。良馬場とはいえ、芝状態は完全とは言い難いのはしかたないところ。
それでも、草深いフランスの競馬場を走り慣れた馬たちからすれば、まったく気にはならないことだろう。
オッズを眺めてみると、1番人気は昨年の優勝馬フランスのガゾンロイ。続いて2番人気に同じく昨年の2着馬アメリカのドリーミングアイ。そして3番人気にやっとオレ、日本のビーアンビシャスが来る。あまりオッズに差がないことだけが救いではあるな。
人気なのはこの3頭だけで、4番人気以降は10倍以上と大きく離れている。
ゼッケン1番をつけたドリーミングアイとゼッケン2番をつけたガゾンロイがパドックの時点からもう睨み合ってる。馬だけじゃなく関係者もバチバチに睨み合ってるし。
誰だよ、こいつらを同じ枠にしたやつは……あっ、抽選ですか。そりゃ、いたしかたないですね。
「去年の雪辱は必ず返してやるからな!」
ドリーミングアイが吠えてるし。
「どなたですか?
どこへ行っても、そんなことを言う方たちばかりで、負けた馬たちのこととかいちいち覚えているわけないじゃないですか」
ガゾンロイもすました顔してるが、どう見てもただのアオリだろ、それ。
ちなみにサラブレッドの言葉は万国共通です。もともと限られた地域の馬たちが世界に散らばっていった経緯もあるし、それ以降も種牡馬や繁殖牝馬として多くの馬たちが国境を越えて行ったのですから。
まぁ、その後の歴史で少しはローカルに言葉も変遷していきましたが、せいぜい訛って聞こえるくらいのものです。
あの2頭のことはほっておくとして、オレは1つ気になることがあった。
秋の天皇賞の後、ドウネンブラウンは言ったよな、フランスからの2頭に勝ち逃げされたって。
でも、ドリーミングアイはアメリカだろ?
ドウネンブラウンがボケてただけ?
まぁお年寄りだからしかたないか……って言うほど年じゃないよな、あいつ。ボケや勘違いとも思えない。そう思って去年のレースの動画を見る機会があったんだよ。
確かにもう1頭フランス馬がいた。
4着に沈んだオーギュスタン。去年の時点で6歳だが、今年も登録されてやがる。そしてレースはと言うと、ずっと3番手でオーギュスタンの後をピッタリとガゾンロイが進み、レース終盤にオーギュスタンがドリーミングアイに競りかけ、そして最後の直線でガゾンロイが競り合う2頭を抜き去って勝利。
競り合いで脚を使い果たしたオーギュスタンは4位に沈んでいった。
これ、ガゾンロイの脚を温存させ、逆にドリーミングアイを潰したオーギュスタンがレースのすべてを牛耳っていたんじゃないか?
でも、そこまでしてオーギュスタンに何のメリットがあるっていうんだろ?
ジャパンカップに来るくらいだから、それなりの実績のある馬なんだろうけど、その割に年取ってもまだ現役だし。
そんなオーギュスタンがパドックでオレの前を歩いている。
後ろからヤツのケツを見ててすべてわかってしまった。
ないのだ。
何がって?
ナニだよ。
ちょん切られてたのか。栄光とかそういうのは、もういらないってことか。
陣営としては種牡馬としての未来もあるガゾンロイに栄光を集めるためにオーギュスタンを犠牲にしてたわけだ。
こりゃ去年のジャパンカップだけじゃないな。そりゃまぁガゾンロイは強い馬なんだろうけど、オーギュスタンなしでどれだけやれたのか怪しいものだ。
オーギュスタンも自分で勝ちに行こうと思えば勝てたレースもいくつもあっただろうに。
切ないなぁ、とにかくちょん切られるのは辛いよなぁ。
日本では騸馬って少ないって聞くけど、海外では結構多いらしい。気性的に問題のある馬は割と簡単にちょん切られちゃうとか。
そりゃ、種牡馬になれる馬はほんの僅かなんだから、切っちゃってもいいのかもしれないけど、切られる方にしてみればたまったものじゃないからな。
日本でよかったよ。そういえば、記憶によればジャパンカップって騸馬の勝馬がそれなりに多かったような気もする。自信はないが確か昔2年続けて騸馬が勝ったんじゃなかったっけ?
まぁそれはそれとして、本当に用心しなくてはいけないのは、このオーギュスタンなんだろうな。
まぁ、藤森調教師もそれをわかっててああいう作戦を立ててきたわけなんだろうけど。




