3-10.フランスの至宝・アメリカの夢
「日本の競馬が世界に追いついたとかいう戯言がいかに誇大妄想だったのか再び証明してみせましょう」
昨年のジャパンカップ優勝馬ガゾンロイの調教師の来日して第一声がそれであった。
これまで本当の意味での海外の超一流馬が日本のレースに参加することは稀だったのかもしれない。賞金こそ高いが海外で日本のレースに勝つことがそれほどのステータスに思われていなかったからだ。
それが日本の競馬界のレベルが上がり、日本から海外のレースに出走する機会も増え、大レースに勝つ馬も現れることで、日本の競馬界への注目度も増してきた。
その結果、海外からのジャパンカップへの注目度も増し、近年の日本馬の優勝独占の状況に変化が起こったのである。
凱旋門賞を始めとする多くのヨーロッパの大レースを制しフランスの至宝とも呼ばれるガゾンロイが昨年のジャパンカップを制し、今年も再びその雄姿を東京競馬場に現すことになった。
日本競馬界に対する罵声とも取られるこの広言もその昨年の実績から誰も表立って反論できない。
否が応でも日本の馬たちにその期待が高まるのだが、ドウネンブラウンの引退、あいつぐ3歳クラシックホースたちの出走回避により、出走予定の日本馬のG1馬はビーアンビシャス1頭となっている。
思えば昨年も似たような状況で、出走したG1馬は一昨年のダービー馬アリナゴーレンだけであった。そのアリナゴーレンも6着に敗れ、レース後引退したことを思えばなんとも言い難い状況であった。
「ガゾンロイへの雪辱を果たすためにやってきた。
日本の馬?
興味はないね」
こう言って、ある意味ガゾンロイの調教師よりもひどい暴言を吐いたのは昨年のジャパンカップ2着馬のドリーミングアイの調教師である。
昨年のアメリカのマンハッタンステークスの優勝馬で、昨年のジャパンカップでガゾンロイに敗れるまでは無敗だった。
小さな牧場で生まれ、たった1000ドルで買われた痩せっこけた馬がG1レースを勝ち上がるという、まさに競馬界のアメリカンドリームを成し遂げた馬としてアメリカでも大人気である。
世界的な名声を求めてやってきたジャパンカップで初の敗北を喫したことで、陣営は引退を先延ばししてガゾンロイに勝つことだけを目指して再びの来日となったのである。
世界中の競馬ファンがこの2頭の再戦に注目してると言える。
最強馬はフランスの至宝ガゾンロイか、それともアメリカの夢ドリーミングアイか。
勝つのはどちらだ! と。
まったく失礼な話じゃないか。
人の庭で何勝手なことほざいてやがるんだ。
「日本国内でさえ連敗してるうちが今は何も言えない。
ただ結果を見てくれ。
期待してもらって構わない」
オレの最終追いきりを終えた後に、藤森調教師は詰めかけた記者たちに静かにこう語った。
さほど長くはなかったのですが、大きく話が2つに分かれるため、ジャパンカップの前振りを2話に分割して投稿しました。
次話はいよいよジャパンカップとなります。




