3-9.東京芝2400メートル
ジャパンカップを目指してトレーニングの日々。
秋の天皇賞の後もオレは絶好調を維持。
ただ、激戦の後で目に見えない疲れもあるはずということで、トレーニングは軽めに抑えられている。
相変わらず食欲も旺盛ってことで、太め残りにならない程度の運動をこなすってくらいのトレーニングだ。
残りの時間を何に費やしてるっているかと言うと座学だ。
まぁオレは立ったままだけどな。
ジュンが厩舎に大きなタブレット端末を持ち込んできて、一緒にレースの動画を眺めているってわけだ。
ジュンとか藤森調教師とか、馬にレースの動画見せてなにか役に立つって思ってるのだろうか?
オレには役に立っているんだけどな。
見ているレースは1つだけ。それを繰り返し何度も見ている。
それは藤森調教師の言うところの最高の東京芝2400メートルでの勝ち方のレースだ。
藤森調教師いわく、東京芝2400メートルこそが至高。これを勝てる馬こそが最強なのだそうだ。
最近の風潮は2000メートル以下のレースが重視されているが、オレもこの意見には賛成だ。
世界的に見たらロンシャンとなるのかもしれないが、オレとしては東京芝2400メートルこそが最高のコースだと思っている。
東京芝2400メートルのG1レースは3つある。
そしてその3つともがG1の中でもそれぞれ大きな意味を持っているレースだ。その3つこそが日本ダービーとオークス、そしてジャパンカップである。
そして、見ているレースの動画は昨年の日本ダービー。
勝者は言わずと知れたスギノミサイルだ。
当時のオレは前世の記憶も戻ってはおらず、のんべんだらりと下級条件のレースで賞金を稼いでくるどこにでもいるような馬だった。
同世代のエースたちがしのぎを削った日本ダービーなんて当然出走もしていないし、もちろん見たこともない。
そのレースは圧巻だった。
1番人気の重圧など吹き飛ばすような堂々とした入場。
最高のスタート、スキのないレース運び、そして最後の直線からのラストスパート。
これぞパーフェクトなレースだ。芸術と言っても過言ではないだろう。
こうしてみると2着のタカノロイヤルも十分に強かったんだな。スギノミサイル抜きで考えれば堂々たるレース運びだ。普通の年ならダービー馬だったことだろう。
たぶん、皐月賞もそんな感じだったのだろうから2冠馬か。
運がなかったんだな。
いや、こんなすごいスギノミサイルと何度もレースできたんだから、それは幸運なのか。オレは2回しか戦えなかったんだからな。
そしてオレにこれを何度も見せるってことは、オレにこれを再現しろってことなのか?
オレにできるのか?
確かにスタートは上手くなった。でもオレ、逃げとかしたことないぜ?
いや、できるできないってのじゃなく、やるんだな。
G1に連敗してるオレにはもう後がない。
やってやろうじゃないか、スギノミサイルにできて、オレにできないってことはないだろう。ないよな?
オレは再び繰り返される動画に目を移し、スギノミサイルの走りを完璧に頭にいれることにした。




