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幕間 勝ちたい

 母は名だたる良血馬で多くの名馬を産み出している。

 父は日本を代表する名種牡馬。

 そういう血統で良血と期待されて、その堂々とした馬体は誰もが羨む。

 デビュー以来、3着を外したことはない。

 G1以外では一度も負けたことはない。

 怪我もなく大きく調子を落とすこともない。

 世界記録も持っている。

 無事是名馬を地で行く存在と言える。


 でも、G1で勝ち星がない。

 1番人気に押されて期待された秋の天皇賞でも3着に沈んで周りを落胆させた。その一方でやっぱりなと言う声が多かったのも否定できない。


 ドウネンブラウンは秋の天皇賞終了後、引退が発表された。

 同期のライバルとこっちが勝手に思ってるビーアンビシャスはジャパンカップに出走予定と聞く。

 俺様もジャパンカップへ……そう思っていたんだが……


 調教師が来て言われちまった。


「次はマイルチャンピオンシップに行くぞ。

 G1を取りに行く」


 マイルチャンピオンシップか。

 紛れもないG1レースだ。

 賞金こそジャパンカップより低いが、最近の風潮ではジャパンカップの勝ち馬よりマイルチャンピオンシップの勝ち馬のほうが種牡馬としての評価も高いという話も聞く。

 でも、どうも俺様の意識では格下のレースって認識が離れない。

 古臭い考えなんだろうか?


「過去の成績をあらためて見直してみたんだが、ロイヤルは1800メートルでは負けなしじゃないか。逆に2000メートル以上での成績は1勝のみ。

 長距離でも平気で走るから気にしてなかったんだが、ロイヤルは短めの距離でこそ輝くんだと確信したぞ。

 世界記録出した毎日王冠も1800メートルだったしな」


 そうだっけ?

 そう言われてみれば、これまでに走ったG1レースは皆それなりに長い距離ばかりだったな。


「あぁ、考えてみればロイヤルの母のトクヤマオーブの代表産駒はスギノミサイルの父でもあるフェイルオーブだ。

 フェイルオーブも2000メートルまでは最強だが、それを超えると不思議と勝てなかったからな。

 そういう血統なのかもしれないな」


 そういうこともあるのか。

 なんかビーアンビシャスから逃げるようで少し気に食わないが、マイルチャンピオンシップで初のG1制覇といくか。


「もちろん、わかってるとは思うがマイルには絶対王者たるトカイラーニングがいるからな。勝つのは簡単じゃないぞ」


 トカイラーニング……聞いた覚えがある名前だな。

 あ、そうか。

 でも、トカイラーニングって毎日王冠・秋天と連続して俺様が勝ってなかったっけ?


「トカイラーニングを甘く見て油断するなよ。

 あれも変な馬で1600メートル以外は不思議と走らないんだ。短くてもダメ、長くてもダメと。

 だが、1600メートルでの強さは本物だからな」


 ふーん、そういうものなのか。

 まぁ油断なんて出来っこないよ。

 あっちは絶対王者で、こっちはG1レースで勝ったことがない無冠馬なんだからな。

 ここでダメなら俺様も引き際を考えるべきかもしれないな。俺様は道化師として生きていきたいとは思っていないから。




 そしてマイルチャンピオンシップ当日。

 快晴の良馬場。

 圧倒的な1番人気のトカイラーニングと2番人気のタカノロイヤル。

 この2頭の絡んでいない馬券はほとんど万馬券じゃないかと言われるほどの極端な配当となった。

 世間の興味は、この2頭のどちらが勝つか、という1点に絞られた。

 マイルの絶対王者トカイラーニングが敗れることはあるのか。

 下馬評に高いタカノロイヤルも、いつも安定した人気と成績ながら、大レースで勝ちきれない勝負弱さ。それがマイルで覆ることはあるのか。


 トカイラーニングが逃げ、それをピッタリとマークして進むタカノロイヤルの2頭が他馬を引き離し、予想通りのマッチレースとなった。

 ゴール前の壮絶な叩き合いの末にハナ差でタカノロイヤルが差し切り、初のG1制覇を成し遂げた。


 後日、トカイラーニング陣営から引退が発表され、マイル路線での王者の新旧交代劇がここに成し遂げられた。

 苦節の末に掴み取ったマイルでの王位をそのままタカノロイヤルが維持できるのかは、まだ誰も知らない。

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