3-7.最終直線
レースは波乱なく順調に進み、終盤に差し掛かった。
最初に動いたのはタカノロイヤル。
最終コーナー半ばで前を走っていた馬が外側に膨らんだのを見て、空いた隙間に強引に突っ込んでいったのだ。
続いて、ドウネンブラウンもタカノロイヤルの後ろにピッタリとついて、内へ切り込んでいく。
よし、オレも!
そう思ってドウネンブラウンの後ろから続こうと思ったのだが、肝心の隙間が閉じかけている。ムリに突っ込む手もあるが……隙間が完全に閉じてしまっては、大きな壁となって行く先を失ってしまう。
オレが迷っていると、ジュンがオレの右腹をトンと足で軽く叩く。
ん?
右?
右を確認すると斜め前方にわずかながら隙間が見える。ここをこじ開けるか。
オレは外へ突っ込みつつ、スパートを開始した。
内へ行くのが確かに最短距離ではある。だが、オレはあえて外を選ぶ。
オレの末脚ならその程度のハンデは十分に挽回できるはずだ。
斜行ギリギリとも言える急発進で外へ持ち出したオレ。
後ろの馬の進路を邪魔してないな、大丈夫だ。
外から前方の様子を確認すると、先頭のローンペルセウスとトカイラーニングにタカノロイヤルが競りかけているところだった。
ほー、ローンペルセウスは単騎逃げでなくても、ここまで先頭で粘っていたか。G1馬になってヤツも成長したようだな。
だが、そんなローンペルセウスもタカノロイヤルに競りかけられて力尽きたようだ。急に脚色が悪くなってズルズルと下がっていった。ここまで気力で持たせていた脚が希望途絶えてしまったのだろう。
トカイラーニングはまだ粘っているが、すでに今のスピードが限界のようだ。ここから巻き返すだけのスタミナは残ってないだろう。
先頭に立つタカノロイヤルとそれに競りかけるドウネンブラウン。
その2頭に向かってオレが突っ込んでいく。
これなら行ける。
府中の直線はまだ長い。
この距離なら間違いなく差しきれる。
そう思った瞬間に、ドウネンブラウンの末脚が爆発した。
一気に先頭に立ってタカノロイヤルを置き去りにしていったのだ。
なんだ、あの末脚は。
このままじゃ追いつけない。
これは使いたくなかったがオレもあれを使うしかなさそうだな。
いくぜ!
「灼熱のファイナルギア!!」
オレの最終スキルが火を吹いた。
一気にタカノロイヤルを抜き去り、ドウネンブラウンに迫る。
もう少しだ。
その時だった。
ドウネンブラウンがオレの方をちらっと見たかと思ったら、そこからさらなる加速をしたのであった。
なんだと!
そうか聞いたことがある。
ドウネンブラウンは2段スパートで菊花賞を差し切ったと。
それっきり、ドウネンブラウンはその脚を見せずに勝利を積み重ねてきたのですっかり忘れていた。
これがドウネンブラウンの最終スキルなのか。
だが、だが、まだオレの速度のほうが上だ。
京都の直線ならこのまま逃げ切られるところだが、ここは東京競馬場。
最終直線の長さは日本一だ。
まだ、いける。
ギリギリだが、ゴールまでの間に必ず差しきれる。
オレはそう信じて必死に脚を前に出す。
さすがにこの速度を維持したままはきつい。でも、必ず行ける。
そしてゴール直前。
オレはドウネンブラウンを差し切った。
そう確信した瞬間、ドウネンブラウンが光となってオレの横を駆け抜けていったのだ。
なんだと……
あそこから差し返された?




