2-14.雨の宝塚記念
梅雨シーズンのレースは嫌いだ。
毎日のトレーニングからして、グチャグチャなコースを雨にたたきつけられながら行わなければならない。
そして、本番のコースは連日の雨でグチャグチャ。
今年の宝塚記念は特に酷そうだ。
月曜に僅かな晴れ間があったものの、火曜からずっと雨。そして、いざレース本番の日曜日。
朝から雨なのを見て、心が落ち込む。
特に重馬場が苦手なわけじゃない。まぁ得意とはとても言えないけどな。
でも、やはりグチャグチャな馬場はスパート時のスピードが乗らないし、脚が取られて一歩ずつスタミナを確実に奪っていく。
差しや追い込みを得意とする馬の方が重馬場の影響を受けやすいと思う。
だが、まぁ条件は皆、同じだ。
気分は乗らないが気合いを入れていかないとな。
だって、オレが1番人気なんだぜ、今日の宝塚記念。
G2での1番人気はあったけど、G1では初めての1番人気。
やっぱ、1番人気って気持ちいいぜ。
パドックでも注目を浴びてる気がする。
こんな雨の日でもパドックには多くの人たちが集まってる。まぁ晴れの日のG1レースの日よりは少ない気がするけど、カサをさしてる人が多いのでその分、混み合って見える。
まぁ、こんな雨の日のパドック周回は早めに切り上げたいのが本心だけど、そう思うだけで実際は普段と同じくらいの時間、周回させられるんだよな。
さて、他の馬たちの様子はと言えば、さすがにベテランのドウネンブラウンとかは落ち着いて見える。特に雨の影響とかはなさそうだ。
サワノルージュはなんかカリカリしてる様子だ。雨が嫌いなのか、重馬場が嫌いなのかはわからないけど、すでに嫌気がさしている感じ。いつものフケがきてるかどうかもこの天気じゃよくわからないし、これは無害そうで結構なことだ。
他の有力どころの様子は遠くてよくわからないか。おっと、なんかローンペルセウスがいつにも増して元気そうだ。まぁ、あいつはいつも元気なんだけどな。その中でも雨の中、軽快にステップを踏んでる感じの歩き方だ。ありゃ、雨が単純に好きそうだ。
おっと、よく見ると芝状態は重馬場じゃなく不良馬場の発表か……
ますます気が重くなってきた。
さーて、いよいよ本馬場入場。
コースに出て驚いた。こりゃ酷いや。
そうだよな、長く降り続く雨ってだけじゃなく、今日は阪神競馬場の最終開催日ってことで、もともと芝も傷んでるんだった。その上、今日の最終レースに近いわけだしな。
不良馬場もいいところだ。
特にコースの内側はグチャグチャの泥沼状態になっている。
幸いなことにオレがいつも通ることになる大外のあたりはまだ芝もまともそうではあるのが救いか。
これはコース取りによっては死活問題になりそうだぞ。
返し馬を終えて、ゲート前で待機していると、またサワダジーニアスが寄ってきやがった。
「前回は凄いものを見せてもらったぜ。
さーて今日はどうかな?
この雨の中でもあの脚は使えるのかな?
楽しみにしてるぜ」
言いたいことだけ言って、さっさと行っちまいやがった。
正直、この馬場状態でいつも通りの末脚が使える気はしない。
でも、他の馬たちもそれは同じことだろ。
別にオレだけが不利ってわけじゃない。
こういう馬場状態ならそれはそれで、やりようがあるってものだ。




