2-12.大混戦
「楽しかったよ。また遊ぼうな」
そうつぶやいたかと思うと、サワダジーニアスはあっという間にオレに並びかけてきた。
なんて脚なんだ。オレの速度もハンパないと言うのにあっという間に並ばれて、そして次の瞬間には突き放された。
そして、ここまでまったく気づいてなかったが、サワダジーニアスの真後ろにサワノルージュがくっついて来ていやがる。ちょうどさっきまでサワダジーニアスがオレのスリップストリームを使っていたのを真似るように。
しまった。
ここで2頭に抜かされて、また抜き返せるのか……
サワダジーニアスとサワノルージュに抜かされたのはショックだったが、オレは速度を緩めたりはしていない。
それなのに、今度はあっという間に内側から白い影が……
この芦毛はドウネンブラウンか!
さっき抜いたはずのドウネンブラウンがオレの右を通って差し返してきたのだ。
この野郎、この瞬間を狙っていたに違いない。作戦通りってわけか……
完全に意表を突かれたぜ。
ドウネンブラウンはそのままオレの左前方を走るサワノルージュをかわし、サワダジーニアスに迫っていく。
いや、ドウネンブラウンだけじゃない。
ドウネンブラウンに並んで、さらに内側にもう1頭いる。
あれは誰だ?
あの見覚えのある馬体はタカノロイヤルに違いない。
ずっと姿を見せなかったが、どうやらターゲットをドウネンブラウン1頭に絞ってマークし続けていたようだ。もう勝負付けが終わったとか思っていたが大きな間違いだったようだ。すまんかった。
有馬記念・大阪杯と続けてドウネンブラウンに敗れて心に期すものがあったのだろう。ヤツもスギノミサイルの影にずっと隠れていたとはいえ、去年1年間ずっと最前線でクラシックロードを走ってきた馬だ。
スギノミサイルにはまったく歯が立たなかったが、ドウネンブラウンには一矢報いることができる可能性を感じたのだろう。
そうか、お前の姿を見てオレも闘志が湧いてきたよ。
そうだよな、オレたちはあの最強の王者スギノミサイルと戦ってきたんだ。
ここで老いぼれどもに好き勝手やらせるわけにはいかないよな。
いくぜ!
「灼熱のファイナルギア!!」
オレは最終スキルに点火した。もう誰もオレを止めることは出来ない。
オレは一気に左手を走るサワノルージュとサワダジーニアスをかわし、競り合うドウネンブラウンとタカノロイヤルに迫る。
去年の菊花賞を思い出す。
ふっ、スギノミサイルはもっと速かったぜ。
そのままオレは2頭を抜き去り、ゴールを先頭で通過した。
勝った!
今回は間違いなくオレの勝利だ。
「やったね!」
ジュンがオレの首筋をポンと叩く。
そうだな、オレたちの勝利だな。
ジュンは高く腕を上げ大歓声に応えている。
着順が表示され、2着タカノロイヤル、3着ドウネンブラウン、4着サワダジーニアス、5着サワノルージュとなっていた。
タカノロイヤルが最後ドウネンブラウンに競り勝ったようだ。
タカノロイヤルがオレのところに駆け寄ってきた。
「最後まで想定通りに走れたのに、最後の最後にあの脚をまた見せつけられるとはな。やつらと違って俺様はあの脚を見知っていたはずなのによ。
なにはともあれ、今日はおめでとうと言っておくぜ。
いつか、必ず負かせてやるからな」
スギノミサイルには完全に屈していたくせにオレにはまだ対抗意識捨ててないんだな。
なら面白い。
次もコテンパンにやっつけて泣かせてやるから。
同期の2頭でワンツーを決めたって感じで、ちょっといいな、これは。
そして、オレはG1を2勝目。
今度は同着とかじゃなく、間違いなくオレの勝利だ。




