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2-11.前門の虎後門の狼

 ゲートに入っても落ち着かない。

 やはり、このレースでマークすべきはドウネンブラウンだろう。

 しかし、サワダジーニアスも不気味だ。

 サワノルージュもなにか企んでいそうだ。実際、前走の阪神大賞典ではまんまとあの女狐の手のひらで遊ばれてしまった。


 落ち着こう。

 いくらイライラしたって、オレは自分でレースを作れるような馬ではない。

 たぶん、レースはドウネンブラウンを中心に動くだろう。

 オレは最後方からいつものように戦うだけだ。

 自分のレースさえできれば、必ず好機が訪れる。そう信じて行くしかない。


 そう考えていたら、いい感じに落ち着いてきた。

 ゲートが開き、いつものように一呼吸置いてからゲートから出る。


 特に出遅れた馬はいないようだ。

 今日は目立った逃げ馬がいない。ドウネンブラウンを中心として先頭集団が早めの流れを作っていく。

 オレはいつものように最後尾につけた。

 すると、中団から一頭の馬がずるずると速度を落として下がってきた。


 故障か?

 いや、あれはサワダジーニアスだ。

 オレが抜かすと、サワダジーニアスはオレの後尾にぴったりとつけてきた。

 レースの初っぱなからずっとこのまま後ろにぴったりくっついてくるのか……


 これまでオレはレース中に自分の後ろに馬がいたことなど、最終コーナー以前に経験したことはない。

 それも今にもぶつかりそうなくらいぴったり後ろにつかれるとか……

 正直、とても落ち着かない。


「さぁどんなレースをしてくれるのか、楽しみだねぇ」


 後ろからサワダジーニアスの声が聞こえる。レース中にしゃべるとかいやに余裕があるじゃないか。


「知っているかい?

 こうしてピッタリ後ろにくっついていると、風の抵抗を受けずにとても走りやすいんだよ」


 なんだと、いわゆるスリップストリームってやつか?

 競輪とかでよく見られる戦法だ。

 競馬でもスリップストリームとか通用するのか?


 後ろについているサワダジーニアスは気になるが、ここで振り払おうとムリにペースを変えたりしても無駄にスタミナを浪費するだけだ。

 ヤツのささやきに気を取られずに自分のレースをすることに集中しないと……


 レースは想定していた以上に速いペースで流れていく。

 正直、この流れは助かる。

 このペースなら先行連中は結構スタミナを消費しているはずだ。末脚勝負になればオレに有利になるだろう。


「いい感じの流れだねぇ。

 この流れなら一気に決めれそうだねぇ」


 こいつがいたんだった……

 オレに有利ってことはこいつにも有利ってことか……

 それにしてもレース中ずっとこうやって、あれこれささやいてきやがるのか。

 はっきり言ってたまったものじゃないな。

 人間だった時の記憶があるから、これも作戦だってわかるが、馬のメンタルじゃこの調子でずっとやられてたら、どうにかなっちまうだろう。


 落ち着け。

 ジタバタしたって始まらない。

 オレはオレの末脚を信じるのみだ。


 菊花賞と同じ地点。ここでジュンのムチが動いた。

 よし、行くぞ。


 オレは大外に持ち出してロングスパートを開始した。

 そんなオレの後ろをピッタリとサワダジーニアスがくっついてくる。


「ほー、速い。速い。

 こりゃいいわ。

 他の馬たちが止まって見えるようだぜ」


 オレの真後ろで風の抵抗なく、つまりスタミナをあまり消費せずにピッタリとくっついてくる。


「気をつけなよ。そろそろ来るぜ」


 サワダジーニアスに言われなくてもわかっている。

 集団の中にサワノルージュを確認。

 サワノルージュがオレのやや前で馬体を外に持ち出してきた。


 同じ手をそう何度も食らうわけにはいかないよ。

 あの時は驚いてしまって脚を止めたが、わかっていれば別に対処は難しくない。

 オレはあらかじめ進路を更に外へと向けている。

 オレはあっさりとサワノルージュをかわして前へと進む。


 ドウネンブラウンはどこだ?

 先頭集団の最内にドウネンブラウンを確認。

 オレは一気に先頭集団を抜き去り、先頭へと躍り出た。


 さぁゴールは目前だ。

 サワダジーニアスはいつ仕掛けてくる?

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