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2-7.阪神大賞典

 パドックではいろいろあったが、もうそのことは忘れよう。

 今はレースに集中だ。馬っ気の影響はない……と信じておくことにする。ないよね?


 オレがゲートINすると隣のゲートから声がかけられた。


「うふ、立派なモノをお持ちなのね。

 お姉さん、すっかり見惚れちゃった。

 あんなすごいの見せられたら、お姉さんすっかりメロメロよ」


 げ、そうだよな。

 サワノルージュはパドックでオレの前を歩いてたわけだから、ゲートではオレの隣にいるわけだ。

 まだフケの香りがプンプンと匂ってきやがる。

 気にするな……気にしたら負けだ。


「あら、お姉さんをあんなに誘ってくれたのに無視しちゃうの?」

「うるせぇ、それは順序が逆だろ。

 あんたにフケが来ててその香りのせいでオレのナニがあーなっちゃったんだろうが!」

 無視しようと思ってたのに結局、構ってしまった。

 オレって……


「あらあら、いいわねぇ。元気が良くて。

 本当にお相手してくれない?

 お姉さん、あなたみたいな元気な男の子、大好きなの」


 やっぱり無視だ無視……

 こんな色ボケみたいな牝馬でも、確か去年のエリザベス女王杯の覇者らしいんだよな。今年で5歳かな?

 牝馬限定レースだけじゃなく、この阪神大賞典に使ってくるってことは、天皇賞狙いってことか。

 春の天皇賞って牝馬の挑戦は珍しいと思ったんだが……


「あんたも天皇賞狙ってるんなら……」

 ガッシャーン!


 え、サワノルージュに絡まれて余計なこと考えてたら、いつのまにかゲートが開いてやがる。

 サワノルージュはもとより、他の馬たちは皆すでにスタート済み。

 こりゃ完全に出遅れたぞ。


 まぁ、オレはもともとスタートがいいほうじゃないし、追い込みが得意だから、出遅れはそれほど痛くない。

 それほど痛くはないんだが……やはり、これだけ出遅れると痛くないわけがないな。


 今回のように1番人気がオレのような追い込みの馬の場合、割と追い込みの馬を警戒してゆっくりとしたレース展開になることが多いのだが、今日は割と速いペースで進んでいる。

 馬っ気出して、出遅れするような馬は用済みって見なされたのかな?

 なめてもらっては困るね。


 オレは最後方で待機しつつ、チャンスを待った。この展開で逃げていたローンペルセウスはすでに先頭集団に追いつかれている。

 この展開なら十分に巻き返せるな。


 ジュンの見せムチがうなる。

 よし、ここからがオレの時間だ。


 オレが後方から一気に抜きにかかった。そのオレの仕掛けを待っていたかのように、馬群から1頭の馬が外に持ち出してきた。

 このまま進めばオレの進路が塞がれる。タイミング的にギリギリのところだな。もう少し外に持ち出すのが遅れれば進路妨害の審議が入りそうなところだが、このタイミングならセーフだろう。

 しかたなく、オレはもっと外に行くしかないか。

 そう思った瞬間、その馬をオレは視認した。


 さっきまでパドックでさんざん見せつけられてきた尻。

 サワノルージュじゃないか。

 サワノルージュの後方に迫った瞬間、オレは思わずスピードを緩めてしまった。

 レース中にあの匂いを嗅いだりしたら、そう思ってしまったのが原因だ。


 だが、加速中に一度緩めてしまったスピードを再び上げるのは容易ではない。

 それでも、もう一度再加速するしかない。

 オレは残されたパワーを振り絞って再加速を始めた。


 だが、馬群を抜け出したサワノルージュは、はるか前方で先頭に立っている。

 オレは必死でサワノルージュに迫る。

 スギノミサイルのあのスピードを経験しているオレには、サワノルージュのスピードなど止まって見えるってものだ。


 しかし、先程ムリをしたオレにはそこからの余力が残っていなかった。

 こんな状態では最終スキルも発動できやしない。

 そのまま差を詰めきれず、オレはサワノルージュの1馬身差の2着に沈んだ。


「あらあら、もっと強いお馬さんだと思ってたけど、意外とたいしたことなかったのね。

 こんなザマじゃわたしのお婿さんにはふさわしくないかもね」


 わざわざオレの横までやってきたかと思ったらそう言い残して、サワノルージュは去っていった。

 あの女狐め。

 本番の春の天皇賞では目にもの見せてやる!


 ちなみに、世間の評判では、ビーアンビシャスは馬っ気の影響により、最終コーナーで失速しての敗北とのこと。

 不名誉なこと、この上なし……

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