2-2.目標
オレが牧場ですっかり元気を取り戻してるってことで、放牧は早めに切り上げとなり、1月中旬には厩舎のほうへ戻ることになった。
うん、牧場でのんびりするのもいいけど、やはり空気の張り詰めたこちらのほうがいいな。活躍して種牡馬になれれば、牧場でのんびりした日が何年も続くんだ。
今はその日のために特訓だ!
ジュンはそれなりに他の厩舎からの騎乗依頼が来るようになったらしく、オレにばかり構ってはいられなくなったようだが、忙しい合間を縫ってオレのところによく訪れる。そしてオレのトレーニングは極力自分で乗るように時間を調整しているようだ。
なんといっても、ジュンのお手馬の中ではダントツでオレが出世頭だからな。それに、以前の遠野のようにオレの主戦を横取りしようとする輩が現れないように、しっかりガードしたいのであろう。
トレーニングを終えた後、藤森調教師がオレとジュンを呼び寄せた。
「休養明けとはいえ、想像以上に気合いが入っているようだ。
この調子ならすぐにレースで使えそうだな」
お、レースか?
いつでもいけるぜ!
「今度の京都記念に使ってみよう」
京都記念か……
京都記念って言うくらいだから、京都競馬場だよな。
どんなレースだっけ?
「先生、ちょっと急すぎじゃないですか?
アンビ、まだデブデブですよ」
「確かに、牧場でずいぶん太ったようだな。
まぁ、こいつは走りながら絞っていけばいいよ。
春の大目標の天皇賞までに2戦は使っておきたいから。
とりあえず、少し飼い葉減らすようには言っておくがな」
え!
飼い葉減らされるの?
そんな殺生な……とはいえ、自分でもお腹のあたりがずいぶんダブついてるのがわかるからなぁ。しかたないか。
厩舎に戻ってから、ジュンが京都記念についていろいろ教えてくれた。
京都競馬場ってのは予想通りで間違いないところ。
2月の中旬に行われるG2レースで芝2200メートル。伝統のあるレースらしいけど、時期的な問題で有力馬の出走は少ないらしい。まぁ2月って有馬記念とか出た馬ならまだ休養中で3月くらいから始動って感じが多そうだよな。
京都競馬場はとにかくオレと相性がいいからな。菊花賞もそうだったし、これまで無敗。京都競馬場以外で勝ち星がないとも言うけど……
藤森調教師もたぶん、そのことを意識して京都記念の出走を決めたんだろう。
ただ、不安があるとすれば、確実に太め残りのままレースを迎えることになるだろうこと。長期休養明けってのも初めてだし……
そのあたりの不安のマイナス面を得意の京都競馬場ってプラス面で打ち消せるってところだろう。
まぁ、こんなところでつまづいていたら、オレの種牡馬への道が開けないな。
ここは連勝して、春の大目標である天皇賞へはずみをつけるぞ!
と意気込んでいたのだが……
どうやら京都記念にイギリスのG1馬ホークアイが出走することになったらしい。
京都記念って外国の馬も参加できるレースだったの?
そういうレースってジャパンカップだけだと思ってたよ……
どういう事情かと思ってたら、どうやらホークアイは春から日本で種牡馬となることが決まったらしい。そのお披露目も兼ねて、大阪杯に出走予定とのことで、その前に調整として京都記念を使うようだ。
あまり出走すること自体がないらしいけど、大阪杯も京都記念も海外の馬の出走自体は認められてるらしい。
新種牡馬ってことは将来のオレの商売敵だな。残念ながら、ここでオレに惨敗して人気を落としてもらうことにしよう。
高い金を出してホークアイを買った人はかわいそうだけどな。
それにしても、海外のG1馬っていくらくらいするんだろう?