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1-12.決着

 オレはゴール板を過ぎてもスピードを緩めなかった。

 スギノミサイルも譲るつもりはまったくないようだ。


 どこまで行ってもスギノミサイルを抜き去ることは出来なかった……

 オレの脚ははすでに限界寸前まで来ている。

 この意地っ張りなスギノミサイルは脚が折れるまでスピードを緩めないだろう。


 いいだろう。

 この素晴らしい王者の顔を立てて、オレの方からスピードを緩めることにしよう。


 オレがスピードを緩めて止まった。

 スタンドの歓声は鳴り止まない。

 掲示板を見ると「写」の文字が。

 写真判定のようだな。

 ちなみに3着はタカノロイヤルで確定のようだ。本当に堅実な馬だな、やつは。


 すぐにスギノミサイルも停止し、オレのところまで戻ってきた。


「最後まであんたを抜かせなかったよ。あんたこそ王者だ」

「ついに最後の最後で並ばれてしまったな。最高だよ、お前は」


 ほぼ同時に相手を称える言葉が出て、お互いに苦笑してしまった。

 結局、最後まで勝てなかった。

 悔しいのは当たり前だが、この素晴らしい馬と最後まで戦えたことに満足しているオレもいる。

 だが、もう一度やりたい。

 勝ち負けじゃなく、この素晴らしい馬ともう一度走りたい。


 オレは素直に自分の思いを口にしたが、スギノミサイルは残念そうに首を振った。

「その気持ちは吾輩もないではない。

 だが、ダメなようだ。

 どうやら吾輩は脚をやっちまったようだ。さっきから痛みがある。

 まぁ酷いケガでもないと思うが、治療にはずいぶんかかるだろう。

 治る頃にはピークをすぎた老いぼれさ。

 そんな姿を見せるくらいなら、このままターフを去ることにしよう」


 脚を……。

 そうか、2戦連続して最終スキルを使って、しかも今日はその後にムチャまでしてたのだから……

 残念だが、しかたないだろう。

 っていうか、それならゴールすぎたら走るのやめろよとも思うのだが、そう言ったら「人間の決めたゴールなど興味はない」とか言うんだろうな。


 ジュンもスギノミサイルの鞍上の滝島も掲示板をじっと見ているようだ。

 それにしても結果が遅いな。審議のランプも出てないし、写真判定なんてすぐに終わると思うんだが……

 今の状態じゃどちらもウイニングランもできやしないし、じっと結果を待つしかないだろう。

 オレの感触としてはスギノミサイルを抜いてはいないと思うから、あまり期待しないでほしい。


 ちょっと結果が遅すぎやしないか?

 もうオレたちがゴールしてから10分以上経っていると思う。

 そんな疑念にスタンドが包まれ、歓声が止み、静寂が訪れた。

 いったいどうなってるんだろう。

 もしや……ある1つの可能性が皆の脳裏に浮かぶ。

 でも、G1レースでそんなことって過去にあったか?

 オレの記憶ではないな。


 その時、スタンドに歓声とどよめきが鳴り響いた。

 1着のところにスギノミサイルの1番の数字が、そして2着のところにオレの2番の数字が表示される。

 やはり負けたか……いや。

 普通なら着差を示すところに「同」の文字が……


 同着だと?


 写真でもオレとスギノミサイルの判定はできなかったということか。G1史上初の珍事となってしまったようだ。

 ってことはどうなるんだ?


「3冠おめでとうございます」

 ジュンから滝島に祝辞が送られる。そうかスギノミサイルは無事に3冠馬か。

 そしてオレも菊花賞馬ってことか……「菊花賞馬(笑)」って感じで冴えないな。


「ウイニングランどうしようかね?」

「滝島さんさえ、よろしければ並んでってのはどうです?」

 ジュンからそんな提案がなされているようだ。


「おい、ウイニングランとか、脚は大丈夫なのか?」

「最後くらいカッコつけさせろ。別に我慢できないほどの痛みではない」

 スギノミサイルがそういうのなら、オレのほうに異論があるわけがない。

 2頭並んでのウイニングラン。

 そして異例ともいえる、両陣営揃ってのウイニングサークルでの記念撮影となった。

 菊花賞優勝馬がつけるはずのレイやゼッケンは2つ用意されているはずもなく、記念撮影では3冠馬であるスギノミサイルに譲られることになった。

 どうやらこちらの馬主にも後日別途贈られることになったようだが、別にそんなことはどうでもいいだろう。菊花賞の優勝トロフィーも同じ扱いらしい。


 まぁ、何はともあれ、これでオレもG1馬だよな。

 将来への展望も大きく開けたってものだ。


 そして、きっと今日の活躍で年末の有馬記念への出走も可能になったよな?

 次は有馬記念だ!

 古馬たちがどのくらいかとか、ちょっと情報不足でよく知らないが、夢は大きく行こうじゃないか!

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