1-11.運命のゴールへ
最内枠のスギノミサイルがいつも以上に素晴らしいスタートを決めて、ハナから先頭に立って順調に飛ばしていく。
スタートの得意な逃げ馬にとって最短距離でトップに立てる最内枠はもってこいの条件だったようだ。
反対に追い込み一筋のオレにとって内枠はあまり歓迎できる条件ではない。下手にいいスタートを切って馬群に囲まれたら、下がりたくてもそう簡単には下がれなくなってしまう。
オレは意識的にスタートを一呼吸だけ遅らせた。まぁ小細工しなくても、もともとオレはスタートがそれほど得意でもないし、序盤からスピードを出せるタイプの馬でもないから、シンガリの定位置につけることは簡単なんだけどな。
スギノミサイルが先頭、間に16頭挟んでオレがシンガリという当初から誰もが予想していた通りの展開となった。
レースはたんたんと進んでいく……待てよ、ちょっとたんたんと進んでいきすぎてないか?
なんか、ペースが異常に遅いんだけど……
先頭で悠々と逃げるスギノミサイルを誰も捕まえに行こうとしない。
もしかして、お前たち。
スギノミサイルは1頭だけで勝手に走らせておいて、残りの馬で2着を決めようとかそういう姑息なことを考えているんじゃないだろうな。
このペースだと、スギノミサイルは余裕を持って走ることができるから、距離の不安とかそういうことを何も考えなくてもいい状態になりそうだ。
唯一のオレの有利な点はもはや消え去ったようだな。
鞍上のジュンも同じことを考えているようだ。
手綱を通してイライラが伝わってくる。
ま、こういう展開になっちまったんだから、焦ってもしかたないよ。
ここでジタバタしても余分なスタミナをロスするだけだ。
スギノミサイルがありきたりの馬でこれはチャンスと余裕の大逃げしてきたらどうしようもないけど、オレはそういう展開になるとは思っていない。
あいつはオレを待っているよ。
最後の直線でオレがギリギリ追いつけそうなところできっと待っている。
ほら、追いついてみせろよ。
お前の最後の切り札とかいうやつを見せてみろ。
それを使わせた上で粉砕してやるから。
そう考える馬だ。
だからオレはあくまで自分のレースをするだけだ。
必ずヤツはオレを待っている。
そう信じて。
そのままレースは2周めに入った。
最初に作られた展開のまま、各馬たちは定められたような自分のポジションを頑なに固守し続けてレースはゆっくりと進んでいく。
そして最終コーナー。
しかけたのはオレだ。
焦った挙げ句の早すぎるスパートと人は見るかもしれない。
でも、この位置はオレが勝利を決めた条件戦と同じ位置。
あの時のグチャグチャな重馬場と違って今日の芝は気持ちいいぜ。
他の馬たちも動き出すが、やはり予想通り先頭のスギノミサイルを無視した形での展開になっている。
お前たちはお前たちで勝手に遊んでいればいい。
オレはそんな他の馬たちを一気に抜き去っていく。
そして直線。
神に祈るような気持ちで前方を見ると、そこにスギノミサイルの姿を捉えることが出来た。
神に感謝!
いや、スギノミサイル。お前に感謝するよ。
こんな展開のレースでもオレを待っていてくれたんだな。
楽なレースだっただろうから、はるかに距離が伸びていても神戸新聞杯の時よりお前のスタミナはたっぷりと残っていることだろう。
でも構わない。今度こそオレが抜き去ってやる。
オレとスギノミサイルとの距離がどんどん縮まっていく。
3馬身!
2馬身!
そして、1馬身差に詰め寄った。
神戸新聞杯の再来だ。
来るぞ!
そう思った瞬間、スギノミサイルのスピードがグンと上がった。
やはり最終スキル使ってきやがったな。
オレとスギノミサイルの距離がまた少し離されかける。
いくぜ!
「灼熱のファイナルギア!!」
これがオレの最終スキルだ。
いろいろ考えたが厨二臭い名前しか思いつかなった。
このスキルは、最後の直線で最高速度を出した時に発動可能で、残りのスタミナを大きく消費する代わりに速度を大きく増すことができる。
オレのスピードがぐんぐん増していく。
覚悟していたが、これは脚への負担が異常に大きい。
多用すれば競走馬生命を縮めるという最初に持った不安は間違いなさそうだ。
だが、今はこのレースに勝つこと。
スギノミサイルを抜き去ることだけを考えよう。
オレとスギノミサイルの差がぐんぐんと縮まっていく。
そしてついに、並んだ。
だが、その瞬間、スギノミサイルが吠えたような気がした。
そして、スギノミサイルがまた少し前に出る。
なんだと!
もう互いに最終スキルも使い果たしたはずだ。
それなのにどうして……
またオレは負けるのか……
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……
脚に不安が……すでに限界だ。だが……
ここで砕ける運命なら砕けてしまえ!
オレもスギノミサイル同様に吠えた!
再びオレのスピードも増したような気がする。
少しずつ、ほんの少しずつ前に前にと進み、再びスギノミサイルに並んだ。
このまま一気に抜き去る!
そう思うのだがスギノミサイルの脚もまったく衰えない。
そのまま、オレたち2頭はゴール板を通過した。