4回目 底辺
群馬。
一体型複合都市。
ピラミッド型をした、高さ1000メートルの三角形。
複数のビルの組み合わせで成り立つその最下層は、陽光もろくに差し込まない。
昼でもどこかうすら寒い。
影がもたらす暗さが周囲を覆う。
そんな所であっても、人は生きている。
そんな所においやられたのか。
そんな所で生まれ育ったのか。
そういった違いはあっても。
その最底辺。
地上を歩く者となれば、それは同時に社会の底辺をあらわす。
まともに生活するものならば、そこより少しは上の階層に住んでいる。
そこを渡る連絡通路を歩いていく。
地上に降りる事はほとんどない。
そんな世界の地上である。
そこにいるのは、落ちきった者達だ。
這い上がる事も出来ずに、地面の上をうろつくだけ。
稼ぎと言えば、最低限のものだけ。
上から時折もたらされる微々たるもの。
少ない報酬の些細な仕事。
それを求めて人は殺到し、殴り合い、殺し合う。
そうして得たわずかな賃金で腹を満たしていく。
棺桶と呼ぶ小さな寝床で寝起きする。
それですら、地表では豪勢な生活だ。
大半は路上で寝起きするしかないのだから。
ビニールの屋根と段ボールの壁。
発泡スチロールの床が基本。
そんな世界で、まともに生きてる者などほとんどいない。
持たざる者はそのまま朽ち果てていくか。
持ってる者から奪うしかない。
そうしないと生きていけない。
いつからそうなったのか。
どうしてこうなったのか。
知る者などいやしない。
ただ、こういう現実がそこにあり。
この現実の中で生きていかねばならない者がいる。
佐奈加瀬ヒロキもその中の一人であった。
違いがあるとすれば、ほんの少しだけ運が良かったこと。
生き延びる手段を手に入れたこと。
襲われるだけの人間から、撃退し襲う事が出来るようになったこと。
それくらいだろう。
ここで生き残るというのはそういう事だ。
居場所を確保するには、襲ってくる者を排除しなくてはならない。
身の安全を守るには、襲ってきそうな者を先に処分しなくてはならない。
それをしなければ、そのうちやられる。
殺伐とした日々である。
生きているだけでやっとの中、余裕のある者はいない。
そんな中で娯楽などにふける余裕はない。
だが、余裕がないからこそ余計に求める。
人は遊びを求める。
それがなんでなのかは分からない。
しかし、求めない者はそうはいないだろう。
もちろん、遊びの内容は様々だ。
人それぞれ求めるものは違うだろう。
だが、何にしろ遊びを求めはするだろう。
そうでないもの、遊びに興味のない者もいるにはいる。
しかし、そうでない者は、おそらく少数派だ。
この底辺にあってもそれは変わらない。
生きるために必死であるが、だからこそ娯楽を求める。
そこには、そんな娯楽があった。
底辺である地表。
そこから更に地下に下っていく階段。
その先にある小さな扉の先。
地下にあるささやかな舞台。
かつてこの辺りにあったライブハウス。
それが奇跡的に生き残っていた。
もちろん、機材や設備のほとんどは使えない。
機材のほとんどは壊れてる。
例え生き残っていても電源がない。
あったとしても、それらを使える人間がいない。
それでも人は集まっている。
入り口に続く階段の前には何人かがたむろしている。
<注意>
現実の群馬県、およびその関係する諸々と本作は一切関係はない。