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13回目 娯楽

 群馬。

 一体型複合都市。

 全人口を収容する、ピラミッド型の一体成形型の都市。

 様々な者達が凝縮されて住んでいる。

 それは化学反応のように様々な事を発生させていく。



「今日もお客さんが大量だ」

 画面に表示される視聴者数。

 それが何度も更新されていく。

 ネットワークを通じて配信される動画がもたらす数値だ。



 群馬の最下層を中心として展開される独自の通信回線網。

 それを伝って様々な動画が配信されている。

 内容は様々だ。

 ホームビデオのようなものだってある。

 街角で撮影したなにげない風景もある。

 事故や事件が起こったところをとらえたものもある。



 その中でも人気なのは、都市外部から持ち込まれた作品。

 映画、ドラマ、アニメなどなど。

 群馬の中では手に入らないようなものがそこにあふれている。

 それが多くの視聴者を集めていく。



 独自に設置された通信回線。

 それにつながる事が出来る者達が、数少ない娯楽を手に入れる事が出来る。



 娯楽がないというわけではない。

 だが、テレビなどを持ってる者は少数になる。

 そんなものを所有できる余裕のある者は上層部に固まっている。

 一応、最下層であっても、街頭テレビなどは設置されているが。

 それでも、全体的に楽しみが少ない。



 放映される映像作品に至っては、本当に少ない。

 質だって高いわけではない。

 全て群馬の中で作られたものでしかないからだ。

 更に言えば、その全てに最上層部の意思と意図が反映されている。



 放映されるのは、製作されるのは上層部の承認するようなものだけ。

 上層部がいかに素晴らしいか。

 この群馬がどれだけ素敵な場所か。

 それを示すようなものしか作られない。



 そんなものが作られ、そんなものだけが放映される。

 わざとらしいお話の展開。

 大根役者とはいわないが、わざとらしいもったいぶった演技。

 さすがにそんなものを楽しむ者はほとんどいない。



 そんな状況だ。

 毛色の違う外部の作品があれば、誰だって飛びつく。



 世が世なら、当たり前のようにあふれていた恋愛物。

 あるいはサスペンス。

 あるいは刑事物。

 社会派からアクション、ホラー。

 外部からの作品にはある。



 通り一遍の作品に飽き飽きしていた者達はそれに飛びついていく。

 今まで見たこともない面白い作品。

 それに夢中になっていく。



 それを配信するとなれば、それなりの利益が得られる。

 開戦の設置や受像機の提供は手間だが。

 それを手配するだけの利益は得られた。



 この手の動画配信は無料ではない。

 閲覧したければ金を出さねばならない。

 そういう風に作られている。

 それでも無断で受信する不心得者もいるが。

 利益はそれでも莫大なものになっている。



 今日もその利益を閲覧者数ではかっていく。

 放映だけで相当な利益になる。



 収入の限られてる最下層である。

 そんな者達に受信料を求めるのは難しい。

 だが、それならそれでやりようがある。



「どうだ?」

 通信回線の放映を担当してる者に声がかかる。

「調子はいいか?」

「ばっちり」

 問いかけに心地よい返事をする。

「そいつは良かった」



 声をかけた男、朽木はそう言って笑みを浮かべる。

 彼が見つめる様々な画面。

 そこには様々な情報が表示されている。

 現在の閲覧数。

 視聴数の順位。

 それらは朽木の求める数値をたたき出している。



 その視聴者を保つために、朽木は様々な仕事を彼らに与えている。

 その一つ一つはそれほど大したものではない。

 それほど難しくもなく、たいていの者ならば行う事が出来る。

 もちろん成果も大したものではない。

 だから賃金も少ない。



 その賃金を放映料にあてていく。

 娯楽の少ない彼らにとって、動画による放映はありがたい楽しみだ。

 その為に彼らは日銭を稼ぐようにもなる。



 もちろん、それだけが使い道ではない。

 博打に使う者もいる。

 貯金する者もいる。

 使い道はそれぞれだ。

 しかし、娯楽に費やす者はやはりいる。

 それも、一定数が。

 無視できないほどの人数が。



 それらが動画放映に金を出していく。

 そうして放映を見るために金を稼ぐ者が出てくる。



 朽木にとってはありがたい事だった。

 設備投資にはそれなりに金がかかったが。

 それでも得られるものは大きい。

 おかげで、それなりの労働力が手に入っている。



 もちろん、能力が低い者がほとんどだ。

 だが、そんな者達であっても、出来る事はある。

 それに、欲望に突き動かされれば、それなりの努力もする。

 昇給を求めて長く働くようになる。

 更なる昇給の為に訓練や学習をしたりもする。



 そうしてそれなりに使える人間を手に入れていく。

 それも格安の値段で。



 外部に比べれば、群馬の最下層の人間は安い。

 一般的な労働者と同程度の能力でも、格安で使える。

 そんな労働力が手に入るのだ。

 回線や受信機設置の投資もいずれ回収できる。



 そして出した給金は動画視聴の料金で回収する。

 食料や生活物資などでも。

 支払いも確かに大きいのだが、回収する金もそれなりに大きい。

 差し引きを見れば、朽木側の出費はそれほどでもなくなる。



「このまま頑張ってくれ」

 朽木は声をかけて激励する。

 こんなおいしい商売、やめるわけにはいかない。

「ああ、もちろん」

 放映を担当してる者は、当然と応える。

 彼にとっても、これはとんでもなく大きな利益をもたらしてくれている。

 手放すわけがない。



 今日も通信回線を通じて様々な娯楽を提供する。

 それを目当てにして様々な者達がよってくる。

 そんな人間を利用して、勢力は拡大していく。




<注意>

 現実の群馬県、およびその関係する諸々と本作は一切関係はない。

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