10回目 上手くいくわけがないという事を前提にした利用方法 2
「こっちに流れてきた連中を使って、敵を潰す。
最低でも、あぶりだす」
「出来るんですか?」
「分からない。
だが、失敗するのを覚悟で仕掛けていく」
策謀や計略というのは、何が成功するのか分からない。
絶対にいけると思った事が失敗したり。
何の効果もあげないと思ったものが、大成功をおさめたり。
何がどうなるのかは、結果が出るまで分からない。
だが、いくつか仕掛ければそのうちの一つは当たる。
それを狙って仕掛けていく。
「幸い、上手く動いてる奴らもいる」
最初にヒロキ達が捕まえた浮浪者。
それらがそれなりの成果をあげてきている。
「あいつらのはもうちょっと働いてもらおう」
食い物を求めて接近してきた連中だ。
食い物を与えればそれなりに動く。
難しい内容でなければなおさらだ。
智慧も力も技術もいらない、簡単にできる事。
それならば人は簡単に動く。
師匠が行ってるのもそういった事だった。
「奴らには仲間を集めてもらってる」
何をするにしても頭数は欲しい。
たとえ無能であっても。
「そいつらを動かす」
数は力だ。
「集まった連中には、そそのかした連中に攻め込んでもらう」
「はあ……」
そんな簡単にできるのか、と思った。
「得物を渡してな」
「なるほど」
それならば納得は出来る。
素手で襲いかかれといっても難しい。
だが、何にしろ手に物をもっていればやる気も出る。
渡すのが、木の枝や石ころでも。
「そんなのでも、あればそれなりの事は出来る」
この底辺ではそれだけあればどうとでもなる。
「あとは、奴らに一斉に襲ってもらえればいい。
それで勝手に敵は潰れてくれる」
上手くいけばそうなるだろう。
「でも、失敗したら?」
「別にかまわん」
なにも気にした様子もなく師匠はこたえる。
「壊滅したってこちらが痛むわけじゃない」
所詮は敵であった者達だ。
それに、状況次第で簡単に転びもする。
そんな者達を信じているわけではない。
ただ、便利に使えればそれでいい。
「それに消えて無くなるなら」
「なら?」
「襲ってくる可能性のある奴らも消える。
俺たちが損をする事は無い」
手駒として便利に使われてる連中だ。
それがいなくなれば、敵も簡単に動けなくなる。
誰だって自腹をきりたくはない。
自分や身内を失いたくはない。
だからよそ者を手駒に使う。
その手駒が減るのだ。
動きも自然と下火になる。
「ついでに敵が潰れるならありがたい」
そこまではさすがに期待出来ない。
だがそうなったらいいなと思って仕掛けていく。
その成果は少しずつ出てきた。
ヒロキ達から食料を受け取った者達が襲ってくる事はなくなった。
かわりに、ヒロキ達に仕掛けてきた連中を攻撃するようになった。
そうした騒動が近隣で起こるようになった。
それで潰れた所もある。
潰れはしなくても勢力を落とした所もある。
そうした情報も集まってくるようになった。
「それじゃ行こうか」
ここに来て師匠はヒロキを促す。
「反撃だ」
<注意>
現実の群馬県、およびその関係する諸々と本作は一切関係はない。