進撃のおにぎりドラゴン 〜駆逐する文学少女〜
「おにぎりドラゴンが復活します」
いつもの朝、教壇に立つなり抑揚のない声で四十路の女教諭はそう言い放った。
一瞬の静寂の後、教室に騒めきが訪れる。
「私は逃げます。ローンは踏み倒します。ではお元気で」
そう言うと騒めきが収まらない教室を後にした。
早速窓から脱出を図り足の骨を折る者、喚き散らして泣き出す者など様々であるが微睡ながら聞いていたユウヤは恐慌に沸き立つクラスメートとは異質の反応を示す横の少女を見遣った。
「何でそんなに落ち着いてんの?おにぎりドラゴン来るってよ。クソ小説読んでる場合じゃねーぞ」
隣の席のマユコはパンを齧りながら黙々とよく分からない小説を読み続けている。
何しろ彼女が今月の文学少女なのだ。
最悪である。
マユコは煩そうにパタリ、と本を閉じると顔を顰めユウヤに向き直る。
「煩いなあ……1万人食べるだけでしょ?別にいいじゃない」
生徒の中で一人だけ騎士服に身を包んだ彼女は面倒くさそうにそう答える。
「……いや、よくねーだろ」
その時だった。
校庭の方から轟音がしたと思うと大きな悲鳴が轟いた。
教室に残った者たちは窓から校庭を見下ろす。
「……もうおしまいだ」
そこにはおにぎりで身体を構成された龍の姿があった。
口からは鮭、梅、昆布、ツナマヨ……
おにぎり具材を吐き散らかし見る者を恐怖の底へと叩き落とす。
校庭を逃げ惑う生徒を見咎めるとパクリ、と頭から平らげた。
「うわぁぁぁ‼︎」
龍の凶行に恐怖し、普段威張り散らしている番長もクラスのアイドルも取り乱し我先にと逃げ出した。
落ち着いているのはユウヤとマユコだけである。
正確にはユウヤは未だにパンを齧り本を読み続けるマユコに呆れ返っているだけなのだが。
「なあ、マユコ……」
2人きりになった教室でユウヤが何かを言おうとした時だった。
マユコが本を閉じ徐ろに立ち上がると窓枠へと足を掛け取り出した剣を手に龍を睨みつけた。
「煩い!」
一言そう吠えるとマユコは空を飛び上がりたちまちのうちに龍の背に降り立ち龍を切り刻み始めた。
「ゴギャァァァ‼︎」
悲鳴を上げおにぎりドラゴンは食べた人間達を吐き戻し始める。
戻された人は胃液で服は消化されており悲鳴が上がるがマユコには関係ない。
「私はパン派なのよ!」
マユコが剣で龍を解体すると校庭はおにぎりで溢れかえった。
最悪である。
「何なのこれ……」
ユウヤは尚も解体し続けるマユコの姿を見つめ溜息を吐くとおにぎりパーティーの支度を始めた。