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自作小説倶楽部 第21冊/2020年下半期(第121-126集)  作者: 自作小説倶楽部
第122集(2020年8月)/季節:風習(精霊流し、迎え火送り火、大文字焼き)&フリー: 概念(魔法、黄泉、仏)
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04 紅之蘭 著  魔法(概念) 『ガリア戦記 14』

【あらすじ】

 

 出世に出遅れたローマ共和国キャリア官僚カエサルは、人妻にモテるということ以外さして取り柄がなかった。おまけに派手好きで家は破産寸前。だがそんな彼も四十を超えたところで転機を迎え、イベリア半島西部にある属州総督に抜擢された。財を得て帰国したカエサルは、実力者のポンペイオスやクラッススと組んで三頭政治を開始し、元老院派に対抗した。



挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ奄美剣星 「会見」

    第14話 魔法(概念)


 『ガリア戦記 第二巻』が記された紀元前五七年は、カエサルが四三歳になった年だ。前年末からその年にかけての冬季を、管掌する三つの属州経営に専念していた。三つの属州は南仏・北仏・イリリアからなる。イリリアはクロアチアとスロバキアで、イタリア半島とバルカン半島を隔てるアドリア海が終わる北岸の地だ。

 北伊属州ラヴェンナにある総督府執務室だ。

 長身の禿げた男カエサルが、盟友の息子・青年クラッススと、ある男を待っていた。

「クィントゥス・トゥッリウス・キケロ、四五歳。按察官、法務官、アシア総督を歴任。ただし特に大きな功績なし。……哲人政治家マルクス・トゥッリウス・キケロの弟にあたる。両家令嬢と結婚したがすぐ離婚。――クラッススよ、この人物をどう見る?」

「その話だけからすると、名家の出で、博識ではあるけれども、仕事に情熱がなく、情も薄いとしか言えません」

「実は昨年、哲人政治家である兄キケロが、護民官プブリウス・クロディウス・プルケルとの政争に敗れてローマ追放処分となったことを存じておろう。私はその直前、兄キケロに幕僚に加わるように誘ったのが断られた。……その後、私はどうしても兄キケロを部下に欲しくて、盟友である君の父上や英雄ポンペイウス将軍に口添えを頼み、元老院に圧力をかけ、追放処分が解除させた」

「でも兄キケロは閣下のところにはこなかった。けれども恩義を感じて、紹介状を持たせた弟キケロを遣わしたというわけですね」

 やがてカエサルの執務室に、香油の匂いを漂わせた男が入って来た。弟キケロすなわちクィントスだ。このときカエサルは、ドアの横に護衛の兵士を潜ませ、木剣で突かせようとしたのだが、クィントスは目論見を看破した。

「これは素敵な歓迎ですな、閣下。それで、それがしにどれだけの値をつけなさる?」

 クィントスは飄々とそううそぶいた。

 青年クラススは思った。

 ――与太者のようにくだけた仕草だが、それでいて深く学問を収めた貴族特有の品格を保っている。騎士として必要な武技も確かなもの。

 背の高い禿げ頭の総督がクィントスの問いに答えた。

「さしあたりだが総督副官の席をやろう」

 クィントスは腕組みをして首を振った。

「副官? 秘書かよ……それがしは属州総督を務め、ここは普通、副総督っていうのが相場じゃないですかね?」

 クィントスはカエサルの申し出を断り、もうしばらく浪人生活を楽しみたいと言って、総督府を後にした。中年の優男が、以後どこでどう過ごしたかは分からない。だが会見から三年後に、カエサルの元に再び馳せ参じた。このときクィントスは、青年クラッススに照れ笑いをして言った。

「カエサルは、あのとき、それがしに魔法をかけたんだよ」

 中国の格言に「水魚の交わり」というのがあるが、クィントスは、彼にとってカエサルが水であるということを放浪の三年間で悟ったのだ。カエサルの総督副官職につき、属将として活躍をすることになるのだ。

 

 さて。

 広大なガリアの地は、北部・中部・南部に大別できる。南部はローマの南仏属州で、カエサルが支配地とするところだ。カエサルは、ガリア中部にある最大の拠点プザンソンに、副将ラビエヌを配置していた。その副将から、北部ガリアで不穏な動きがあるという報告があった。

 そのタイミングでカエサルは二個軍団を増設し、手駒を八個軍団とした。うち新設二個軍団を含む四個軍団はカエサルの私兵だ。

 例の如くカエサルは、南仏・北伊属州で、新設二個軍団が完成する前に、手勢を引き連れてプザンソン入りし、情報収集を始めた。

 結果、ベルギー諸部族が不穏な動きをするというのは、次第に影響力を増すローマの支配を断ち切るため団結して、これを排除するというものだった。そのためベルギー諸部族は、スエシオネス族長ガルバを王として、ローマの支配下にある中部ガリアへ、先制攻撃を企てていたのだ。


          つづく

【登場人物】


カエサル……後にローマの独裁官となる男。平民派として民衆に支持される。

クラッスス……カエサルの盟友。資産家。騎士階級に支持される。

青年クラスス……クラッススの子。カエサル付き将校になる。

ポンペイウス……カエサルの盟友。軍人に支持される。

ユリア……カエサルの愛娘。ポンペイウスに嫁ぐ。

オクタビアヌス……カエサルの姪アティアの長子で姉にはオクタビアがいる。

ブルータス……カエサルの腹心 

キケロ兄弟……兄キケロと弟キケロがいる。兄は元老院派の哲人政治家で、弟はカエサルの有能な属将となる。

ウェルとイミリケ……ガリア人アルウェルニ族王子と一門出自の養育係。


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