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自作小説倶楽部 第21冊/2020年下半期(第121-126集)  作者: 自作小説倶楽部
第121集(2020年7月)/ 季節:自然・事象(折り返し、盛夏、台風)&フリー: 自然・事象(風見鶏、蜃気楼、夢、殺人・死体)
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02 柳橋美湖 著  折り返し(自然事象) 『北ノ町の物語 74』

【あらすじ】

 母を亡くし天涯孤独になりかけた東京のOL鈴木クロエには、北ノ町に家族がいた。彫刻家の祖父・鈴木一郎、IT関連個人事業主・従兄の浩、祖父の顧問弁護士・瀬名だ。時は流れ、彼女は祖父の作品を扱っている東京の画廊店マダムの秘書に転職した。さらに季節は巡り、ひょんなことから、この面子一同で、異世界行きの鉄道に乗った。道中では、瀬名・浩、魔界の貴紳・白鳥を交えた恋の駆け引きが展開されるが、なかなか決着がつかない。

 実は、クロエはその世界の女神だった。彼女は見習として試練を受けるべく、ダイヤモンド形をした十三階層からなる浮遊ダンジョン・トロイの踏破を目指す。


挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「壁ドン」

     74 折り返し(自然・事象)、第八階層にて


 クロエです。浮遊ダンジョン最大のフロア・第七階層にある海賊島で、海賊頭目になっていた父に捕えられた私たちでしたが、隙をついて脱出し第八階層へ……。


          ◇


 従兄の浩さんは、北ノ町の自宅を事務所にしている、IT関連個人事業主です。その浩さんが私にこんな話をしたことがあります。

「クロエ、アルゴリズムって知ってる?」

「コンピューターにプログラムすることかな?」

「おお、博学だね。……ある問題の解決に対する方法論みたいになっている。例えば計算の結果2という数字をだしたいときに、1+1でもよければ4÷2でもかまわない。いろいろな式ができあがるわけだが、利用者は、よりよい形にしたいと考える。それがアルゴリズムの研究ってものだ。……最近はこの専門用語が独り歩きをして、パソコン以外の場面でも、問題解決のための方法や手順のことを言うようにもなった」

 なんだか、マダムが教えてくれる魔法に似ている気がします。


          ◇


 私達パーティーが、第七階層から長い昇り階段を抜けて第八階層に達する直前のことでした。カメラのストロボ・フラッシュのような閃光に私は包まれ、薄暗い隠し部屋に引き込まれてしまったのです。

 引きずり込んだのは、パーティー・メンバーから外れた殿方であるところの白鳥さん。

「鬼神という言葉があるだろう。ちょっと聞いただけなら真逆な存在の取り合わせのように感じるのだが、鬼も神も人ならざる者という点では同じ。否、本来は同一のものなんだ。そういう意味で、僕らが結ばれるということは運命だと思わないかい?」

「よく言うだろう。……幸せしか体験したことのないカップルの恋は楽しい。しかし、ともに逆境を克服して生き抜いてきたカップルの恋は激しいってね」

「白鳥さん、近過ぎ……」

「対人関係は距離によって、公的・社会的・対人的・親密的からなる四種類のゾーンがある。公的ゾーンは三・三m、社会的ゾーンは一・二~三m・三・三、対人的ゾーンは〇・六~一・二、親密的ゾーンは〇・六m以内。言い換えるならば、公的ゾーンは赤の他人関係、社会的ゾーンは同じ学校の子・会社同僚・ご近所さん関係、対人的ゾーンは手を伸ばせば届く友人レベルの関係、そして親密ゾーンは恋人として触れ合える距離がバロメータになっている」

「はあ?」

 私・クロエは今、五〇センチ前後の近距離で殿方に接近されている、いわゆる壁ドンをされた状態でした。

 確かに、白鳥さんとは、北ノ町一之宮駅を出て以来、祖母と母で築いたこの世界で、いくつもの修羅場を潜り抜けてきた。世界神三代目たる私が、その器に相応しいかどうかを量る十三層からなる浮遊ダンジョン踏破ではなおさら、彼の協力は不可欠なものになっていた。だけど、その白鳥さんは、ディフェンス側である父に篭絡されて、あっちへ寝返ってしまった。そういうところは、やっぱり吸血鬼なんだ。信用ならないところがある。……私はそう感じました。だけどその一方で、私の瞼は閉じゆこうとするのです。

(――駄目、クロエ、眠らないで。今、目を閉じて眠ったら、吸血鬼の洗礼を受けてしまう)

 吸血鬼の洗礼というのは、吸血鬼に首筋を咬まれるということを意味します。私は強烈な睡魔をこらえて、白鳥さんに問いました。

「白鳥さんが、私を伴侶にしようという理由は何ですか? 例えば相応の魔族女性を迎えてもよいのでは?」

「地上の魔界・東京で、僕がクロエに出会ったのは、まったくの偶然で、とてつもないオーラを感じて吸い寄せられた。最初、君に接近したのは、よくある話、魔界の征服といった子供じみた野望を満たすためのアルゴリズムとなりうるパートナーとして魅力的だった。ただ今は……」

「ただ今は?」

「ただただ愛おしい。つまり僕は君と出会ったことで、シェーマ(目的)そのものが修正されてしまったんだ」

「白鳥さん、もう一つ質問してもいいですか? 私は白鳥さんが血を吸っているところを見たことがありません」

「ああ、あれか、吸血は百年に一度程度でいい。普段の僕の食事は、これで十分なんだ」

 そういって指を鳴らすと、赤ワインが注がれたグラスが手に収まっていました。

 闇小部屋の外で、炎龍が翼を羽ばたかせる大きな音がして、壁が溶けていきます。

(ピーちゃん?) 白鳥さんの側についたはずのピーちゃんが、炎の吐息ブレスをしているのでしょうか。(えっ、すると、ピーちゃんは私の側に帰ってきた?)

 けれどもピーちゃんはいません。

 つまりあの小部屋は、白鳥さんが私とコミュニケーションをするために遠隔操作をした魔術というか、幻術でした。そんな回りくどいことをしなくても、直接お話すればいいのに。白鳥さんって、もしかして、けっこう照屋さん?


          ◇


 出口の向こう側は第八階層です。

 蝉の声が聞こえて、向日葵畑が見えてきました。

 先頭を行く殿方二人・瀬名さんと浩さん、その後をそれから審判三人娘の皆さん、さらに魔法少女OBのマダムと見習女神の私が続きます。

 出口の仕切りを越えようとしたとき、審判三人娘の皆さんが、「ひゃっほー」と歓声を上げてジャンプ。

 マダムが外に出ようとするとき私に振り返り、「クロエ、そろそろ、お相手を決めないとね」と言って微笑みました。


          ◇


 それでは皆様、また。


          by Kuroe

【主要登場人物】


●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。

●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。

●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。第五階層で出会ったモンスター・ケルベロスを手名付け、ご婦人方を乗せるための「馬」にした。

●審判三人娘/金の鯉、銀の鯉、未必の鯉の三姉妹で、浮遊ダンジョンの各階層の審判員たち。

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