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自作小説倶楽部 第21冊/2020年下半期(第121-126集)  作者: 自作小説倶楽部
第123集(2020年9月)/季節:記念日(秋分《お萩・彼岸花》、敬老の日)&フリー:災厄(テロ、ハグ、病気、お葬式、呪い)
12/28

02 柳橋美湖 著  秋分 『北ノ町の物語 76』

【あらすじ】


 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。

 ……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。

 季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。

 異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。


挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ奄美剣星 「障壁の通力」

    76 秋分


 ご機嫌いかが、クロエです。

 浮遊ダンジョン第八階層に至った私達。第八階層は切り立った尾根に建てられた山城と、麓の谷に築かれた城下町でできています。城下町に入る橋のところには、なんと、ダンジョンのディフェンス側に寝返った炎龍のピイちゃんが待ち受け、私達にファイヤー・ブレス

を吐いたのでした。絶体絶命のピンチ!


          ◇


 小型化した炎龍のピイちゃんが双胴船から飛翔し、ファイヤー・ブレスを私達パーティーと審判三人娘の皆さんがいる木橋に放ちました。

 顧問弁護士の瀬名さんと従兄の浩さんが私の前に飛び出して、身を挺し守ろうとしてくれました。だけど、隣にいる魔法少女OBのマダムがウィンクしていたのに気づきました。


(はい、マダム、判ってます。マジック・シールドですね?)


 木橋が木端微塵に吹き飛ぶ刹那。

 上流から流れてきた双胴船に乗った炎龍ピイちゃん。そのピイちゃんが吐いた火槍が、私とマダムがくりだした防御魔法に弾かれて、角度を変え、空に向かって拡散されました。

 審判三人娘である金ノ鯉、銀ノ鯉、未必ノ鯉さんのうち、三女ながらリーダになっている中世ヨーロッパ風の黒い博士服を着た、未必ノ鯉さんが、こんな風に説明しました。

「たぶん浮遊ダンジョンの運営システムが、炎龍のピイちゃんに関するルールを改訂したのでしょう。山体をも吹き飛ばし形を変えるファイヤー・ブレスの威力は、浮遊ダンジョンにやってきた時点で、猫くらいの大きさまで小型化させられました」

 エンジニアの浩さんが口を挟みます。

「確かに、ピイちゃんは小型化しても、ファイヤー・ブレスは、なおも焼夷弾並みだ。まだまだ大幅に制限しないと、この浮遊ダンジョン自体が蜂の巣になって墜落してしまう」

「――そういうこと。……今後ピイちゃんは、ファイヤー・ブレス放射回数は一回やるごとに、しばらくはエネルギー充填のため休眠に入るよう、ルールが改訂されました」

 未必ノ鯉さんが、端末モニターでルールブックを開き、そう説明しました。

 ラッキー!


 今のうちに――

 私達は木橋を渡って、向こう岸へ。


 ところが。

 向こう岸には、尾根と尾根の間にある谷底を遮断した長い土塁が横たわり、橋を抜けたあたりは石垣と櫓門とが築かれています。さてそこの門を守っていたのは、第七階層で海賊たちを私の父・寺崎明でした。

 市門である木戸。閉まっている扉にもたれかかった白いスーツ姿の父は気取って、真っ赤な花を手に、香りを楽しんでいました。ふつうこういう場面では薔薇でしょ? 父が持っていたのは彼岸花でした。

「――それでも、あなたのお父様って絵になるわ」

 私の横にいる画廊オーナーのマダムがコメントしました。

          ◇


 それでは皆様、また。

          by Kuroe

【主要登場人物】


●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。

●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。

●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。第五階層で出会ったモンスター・ケルベロスを手名付け、ご婦人方を乗せるための「馬」にした。

●審判三人娘/金の鯉、銀の鯉、未必の鯉の三姉妹で、浮遊ダンジョンの各階層の審判員たち。

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