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何が起こるか知っていることとはいえ、やはり初めての瞬間は緊張するもので。
俺は、1度目と同様、すっかり習慣と化した学校での朝の読書の一時を、気もそぞろに過ごしていた。
そう、今日は、きっと彼女がやってくる。魔法が始まる瞬間が、迫っている。
相変わらずの人気で、前年秋の選挙で生徒会の役員になっていた彼女は、朝の挨拶活動も同じようにやっているようだった。俺は、相変わらず彼女よりも早く登校していたので、今世でもその姿は見ていない。
何度か、登校時間を変えようと思ったことはあった。彼女の姿は、あの転校してきた日以来、まともに見ていない。少し家を出る時間を遅くすれば、校門に立つ彼女に会える、それは分かっていた。彼女と挨拶を交わす、たったそれだけのことだったが、想像しただけで、心がざわついた。
が、出来なかった。
彼女に会えば、きっとまた魔法の時間が始まる。俺の中で随分と美化されたその記憶を、俺はギリギリまで残しておきたかった。いや、違うな。単に勇気が出なかったから。恋していた彼女を前に、冷静に振る舞える自信もなかった。この3年で、随分とこじらせたものだ、と苦笑するより無かった。
色んな感情が交じり合って、俺の心は乱れた。そこまで思うなら、いっそ朝早く来るのをやめればいいではないか、そうすれば、こんな苦しい想いを引きずらなくても良いのだ。そう、この苦しい想い。
そう、俺は、今世ではまともに出会いもしていない彼女に、また恋をしていた。
大人だった1度目、前世の記憶は記憶となり、俺の感性は実年齢に引きずられているように感じてはいたが、彼女との『出会い』が近づくにつれ、その傾向は強くなっているように思えた。
こんな可愛い想いに身を焦がす日がまた来ようとは、分からないものだ。俺は、3年前、彼女との邂逅を果たしたときに決めたことなど吹き飛ばしそうな感情の嵐に、翻弄されるがままになっていた。
第二幕の幕開けは、すぐそこに迫っていた。