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1学期の始業式がある日の朝、俺は緊張の面持ちで学校に向かっていた。今日は、朝イチでクラス編成の張り出しがあるのだ。
中2までの状況でいけば、クラスのメンバーが大きく変わっていたということは無かったと思う。俺は、クラスメイト全員の顔を覚えているわけでもなければ、女子に関しては全く分からなかったが、それでも一緒に遊んだ馴染みの顔ぶれ、インパクトで記憶に残っている連中は大体1度目と同じクラスだったように思う。が、全く同じ、というわけでもなかった。中には、明らかに1度目とは違うクラスになっているやつもいた。
大人になってから、たまたま仕事で付き合いの出来た教員に、興味本位でクラス編成のやり方を聞いたことがあったのだ。児童生徒の成績、人間関係、教員の指導力、諸々を考慮しながら、学年団で編成会議を行い、クラス分けをしていく、そんな話だった。その話を考慮すれば、クラス編成を再現するには成績も人間関係もある程度1度目をなぞる必要があったが、俺にはそんな器用なことは出来なかった。
だから、俺は、本当に祈るような気持ちだった。大人の知識で無双することを出来るだけやらなかったのは、偏にこの中3を再体験するためだけだったのだ。
1度目は失敗した中学受験も、受けろという親の圧に抵抗した。普通に受ければ確実に通ってしまう。選抜試験でわざと悪い点を取ることも考えたが、それは俺のポリシーに反する。何度かの問答の後、俺は、本音を告げた。
『女子がいない学校なんて、僕は行きたくないです』
爆笑した親は、俺の主張に理解を示した。我が親ながら、寛容な人で良かった。
張り出しに合わせて普段より遅く学校に到着した俺は、クラス編成の紙を食い入るように見ていた。1度目で在籍していたクラスを、まず見た。俺の名前は、そこにあった。そして、彼女、木山さんの名前を目で追う。
…あった。彼女の名前を見付けた瞬間、思わず体が雷に打たれたように硬直し、震えた。神は見捨てなかった。この奇跡に感謝します、主よ。俺は、心の中で十字を切った。これで、スタート地点に立つことが出来た。俺は若干滲んだ視界で、彼女の名前を暫く見ていた。
主人公はちょっとばかりカトリックの教会と縁がある、という設定です。特に信者、というわけでは、ないよな?