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さて、俺は今、小学校にいて、自分の教室の隣、彼女、木山さんのいるであろう教室を覗いていた。中身がおっさんなので、自分としてはどうしても不審者感が否めないが、傍から見れば友達を捜しているチビちゃい男の子、という訳だ。
えーっと、木山さんは、ああ、いたいた、多分あれだな。俺の視線の先には、数人の女子に囲まれて笑顔で話している、快活そうなショートカットの女子がいた。くりくりっとした目、目まぐるしく変わる表情に、思わず目を奪われる。ああ、やっぱり可愛いな、木山さん。
あー、仮にも女児の父親として一応言っておくと、例え悶絶するほど可愛かろうが、多少発育が良かろうが、高校生くらいまではもう女性としての対象にはならない。大学生とかは、うん、もう成人だしね、いいんじゃないかな、そこからは嗜好の範囲で。女児の父親は、そうあるべきなのだ、うむ。
転校してきたばかりのちっちゃい男子が隣の教室を覗いている、これには惹かれるものがあったらしく、何やら別グループの女子達がにわかに騒ぎ始めた。面倒事を察知した俺は、即時撤退を決断したが、一瞬、彼女と目が合った、ような気がした。そんな気がしただけだ、そうだ。意識しすぎなんだよ、俺。
幾ら可愛い初恋の相手とは言え、小学生相手にいちいち動揺しててどうするんだよ、大丈夫、俺は大人だ、見た目はともかく。
彼女の影を追うのは、その日で止めた。気にならないと言えば、嘘になる。2度目の子供時代、俺の中ではぶっちぎりで一番気になる存在だ。しかし、俺は出来るだけ1度目をトレースするように意識した。中3まで、俺は彼女のことを知らなかったのだ、接点が無いのに、見続けるのは如何にも怪しいではないか。
完全に同じルートを辿るのは無理だろう、とは思っていた。ゲームじゃないんだから、そこまでの再現性は期待していない。実際、1度目と少し変わってしまったこともある。でも、せめて中学3年、1度目の人生最大の悔いが残るあの時には、その後悔を晴らせるような環境になって欲しい。俺の願いはそれだけだった。
そして、時は過ぎ、俺は中学2年までを、何とか穏便に過ごし、中3の春を迎えた。
時間もギリギリですが、これは書きたいのです。