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俺は朝、とても登校が早かった。別に部活の朝練とかでは無く、歩いて学校に行くのが面倒で、車で通勤する親の出勤に合わせて送ってもらっていたら、結果的に早く着いていた、というだけのことだった。朝の一時、俺は教室で独り、本を読んで過ごしていた。
ところが、中3の1学期、そんな俺の優雅な読書時間に入ってきた人がいた。そう、彼女、木山さんである。
生徒会の挨拶活動とかで、彼女も朝が早かった。俺が独り本を読んでいる教室に、彼女が入ってくる。親の商売絡みで、挨拶だけは必ずするように仕込まれていた俺は、相手が可愛い女子の同級生でも関係なく元気に挨拶をした。彼女もまた、挨拶活動をしているくらいだからなのか、それとも小さな男子が元気に挨拶するのが琴線に触れたのか、笑顔で挨拶を返してくれた。
挨拶を交わしてから10分程、定刻になり彼女が挨拶活動のため出て行くまでの間、教室には俺と彼女、二人だけしかいなかった。その10分が、俺の人生を変えた。
毎朝続く10分間の世界、挨拶だけのやりとりから、普通に会話を始めるまでに、そう時間は掛からなかった。彼女は本当に気さくな人で、ともすると卑屈になりがちな俺を相手に、笑顔で話してくれた。そんな彼女の明るさ、優しさを、好意と勘違いしてはいけないと、俺はずっと言い聞かせていた。今にして思えば、その10分間が、俺の青春の全てだったのかもしれないな。
魔法の10分間で、色んな話をした。とにかく身長順で並ぶことが多かったので、行事の度に、俺と彼女は隣同士だった。全校朝礼のこと、体育大会のこと、文化祭のこと、合唱コンクールのこと、球技大会のこと、彼女は俺のことを見てくれていて、時には注意もしてくれた。そりゃ、いつも隣にいるのだから、見たくなくても目に入るだろう、聞こえてくるだろう。でも、そうやって俺と対等に話をしてくれる女子は、彼女だけだった。
…なんか、今にして思えば、慣れてない男子とか、勘違いするしかない状況だよな、これって。まあ、そんな感じで、夏休みを挟んで、秋口まで、夢のような魔法の10分間は続いた。
懐かしいなぁ(何)