中高校生の日常エピソード集(仮)
【第一話】
眞辺彰子はたくさんの趣味を抱えている。
裁縫、お菓子作り、料理と家庭的なところから、マンガ、読書、映画鑑賞とありきたりなもの、フルート演奏、演技、マンガを書くことと専門的なところまで幅広い。
どれも人並み以上。特に専門的な三つについては、人に何度も褒められてきた。もっとも親には職業するには劣るが特技となると言われるが、やはり褒められるほどの実力がある。
だが仕事にはできない。
───その言葉がどんなに私の時間を奪い、私を傷つけたことか。
こんな私を人は器用貧乏というのだろう。
「ごめん!今絵、書いてる!」
彰子は階段下から「お夕飯」と伝える母に答える。
「食べなさい!ご飯が先」
「えー…はーーい」
ということ五分。キリまでついた彰子はようやく下へ降りていった。
眞辺は自分の才能に疑問を覚えていた。
「なにやってても正直、将来的に役に立つことってなくない?」
【第二話】
「好きなものを見つけなさいね」
母は仕事に出るたびにそう言う。こんなことを言われるとき彰子は、自分の仕事に満足してないからそういうのだろうかと思う事もある。しかしもう47歳にまでなって愚痴を言わず、仕事を辞めずにいられるんだからそんなこともないのだろう。
「うん。いってらっしゃい」
「いってきます」
普段からこんな具合でいる。
幼い頃から言われていたせいか、返事をする際気にも留めない言葉に彰子は肯定的な言葉で応じるが、実際、自分はなにをしたいのかもわからない。
「なんだかなぁ」
首を傾けて、玄関前でターンする。
時計の針が10時を指しているのがみえる。
10時…ね。やることないもんな。
「…っあ、やばっ!」
彰子は飛び跳ねてテレビのリモコンを操作する。
ちょうど彰子のハマっている、人気ドラマの主題歌がながれている。
すぐに画面はビールの広告に変わって、彰子は録画ボタンを押して電源を落とした。
「さてと。勉強するか…辛いな…」
彰子は勉強が好きというわけじゃない。
しかしやらなければいけない課題があると、「あるから仕方ない」と終わらせなければという気持ちになる。
ただし先生を怖いと思わないので、そこに危機感はない。かと言って彰子は自分は自分スタンスを貫いてきた面もあり、人と比べることもしない。なので提出物の期限はしょっちゅう切れてしまう。時にカバンの掃除をしていて教科書の表紙の隙間とか、ノートの間とか、ひょんなところからプリントを見つけることもある。
「そのくらいっ危機感がないんだよなぁ。もう少しあったら内申点も上がるんだろうけど…」
親には言われても、先生に言われたとしても、自分でわかってるから嫌味に聞こえないのも難だ。
「あーめんどくさい…」
そう言って彰子は勉強机の前に座った。
【第四話】
ある日。彰子は普段のように絵を描いていた。
シュッシュッという音をたたて、紙がインク色に染まっていくのはすごく気分がいい。
「さてっ!」
キリまで絵を描き終えたら、ペンの蓋が締まっているか念入りに見て、一階へ駆け下りていく。
「あっお弁当!」
時々やるけど、めんどっ!
彰子はふたたび二階へ駆け上る。そしてその途中、リュックの紐に足を滑らし、視界が回った。
なにが…え?
思う間もなく、「痛っ!」と声が出た。
両手がズキズキしている。
「彰子ぉ!大丈夫?」
「なんだかんだ?」
「パパ、ママ、平気だよー!転んだだけだから気にしないで。さてとっお弁当」
普段からドジに慣れている彰子は、またすぐ痛みも取れるだろうとふたたび上に駆け上がった。
その間両手をさすったりしていたのだが…右手が動かない。
不思議に思って上に持ち上げると、激痛が走った。
「うそ…折れて…」
「彰子、折れてるって言った?」
「んーーーっ言った。どうすればいい?」
「病院。足?どこ?」
「ん」
心配する母に彰子は右手を指差した。
こうして彰子は学校の前に、病院へいくことが決定したのだ。
【第五話】
右手は折れていた。
お医者さんの診察とレントゲンの結果でわかったから確かだ。
病院の後はいつものように電車で学校へ行ったが、普段よりずっと人数が少ないのでびっくりした。
彰子の母が先に電話をしていてくれていたらしく、彰子は先生に心配されて教室へ入っていく。
何日か経った。