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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マッチングアプリ

作者: 猫文字隼人

所謂「創作洒落怖」のつもりで書きました。

短編なのでお気軽にどうぞ。


少し前に高校三年のクラス同窓会があった。


別に誰かに誘われたわけじゃ無くて偶然SNSで見かけたんだ。

最初は参加するつもりなんて無かったけど、何となく参加してみることにした。

丁度暇だったしね。


それにもしかして出会いがあるかもなんて、今にして思えばばかばかしい下心もあったんだけどさ。



その日仕事が長引いたのもあって俺は少し遅れて会場の飲み屋に到着したんだけど卒業してから10年は経ってるし、皆別人みたいに感じられた。

冷静に見てみれば多少の面影というか、何となく見たことあるって奴もいたんだけどね。


ここまでの経緯を見れば何となく解ると思うけど俺はクラスカーストって奴では底辺部分に位置してたし、特別仲の良い奴は多くなかったんだ。


「よー!○○ちん久しぶりじゃんー!」


遅れて来たからだろうね、おぼろげな記憶の中に残ってたウェイ系のイケメンにそう突っ込まれた。


直後は周りもきゃーきゃーはやし立てたけどそこで面白い返しも出来ずに「ひ、久しぶり」なんてどもりながら言うだけで場を盛り下げる事しか出来なかった俺の同窓会はある意味そこで終わった。



とりあえず声かけてくれたイケメンの席に落ち着こうとしたら「あっちに席空いてるよ」なんて名前も知らない元同級生女子から露骨に遠ざけられてしまった。


向かったテーブルは案の定と言うべきかやっぱりそういった所謂イケてない奴らが固まってるとこになるわけだ。

俺の他に冴えない男が4人だけで女の子なんていやしない。

まぁ同窓会なんてそんなもんだと思うよ。


クラスのマドンナやイケメン達は固まってきゃーきゃー言ってたけどさ、あれは全く別物って感じ。

本来同窓会なんてのは、ああいうリア充だけ居ればそれで成り立つ物なんだよね。


……ちょっと愚痴になってるな、話を戻そう。


そんな陰気な奴らばかりが集まってるテーブルだったから当然何を喋ればいいかなんて解らない。


無言に耐えられずつい「か、彼女とかいるの?」なんて話題を振ってもみんな何の反応も無くテーブルを見つめて酒を飲んでるだけだった。


俺も大概根暗なのは自覚してるけどさ、こいつらと一緒にこれから数時間過ごすなんてどんな罰ゲームだよって思ったね。


浮いた話なんかひとっつも出来ないもんだから俺は今やってる仕事の話なんかを聞いたりして時間をつぶしてた。

白状するなら俺は参加するまではそれなりに楽しめる物だと思ってたんだよね。

そりゃそうじゃなきゃ参加なんてしないしさ。


それが実際には陰キャの集まるテーブルに座って、促されなければ何一つ自分から喋られない奴らのお守りをするだけだっていうね。


既に同窓会に来たことを全力で後悔していたし適当な理由をつけて帰ろうかとも思っていたんだ。

どうやら盛り上がった連中は席替えなんかもやってたけど、当然のように俺達のテーブルは無視されてたし、ほんとに必要とされてないんだなって悲しくもなっていた。


そんな時に俺達のテーブルに現れたのがクラスの人気者、ここではAとしようか。とにかくそのAが俺達のテーブルまでグラス片手にやってきた。



「おいおい、お前らちゃんと同窓会らしくしろよ(笑)葬式かよ! 何野郎ばっかでつるんでんだよ!」


Aは一番近くに居た俺の背中をばんばん叩きながらそう笑っていた。

このばんばん叩きながら喋る奴って陽キャ的には親愛の証のつもりかもしれないけど

やられた方としては正直痛いし腹が立つだけだった。


俺はAに苛ついていた癖に「だよねえ」なんて嗤いながら返している自分にも嫌悪感でいっぱいだった。


「そいやさー、お前ら彼女いんのかよ」なんて面白がって聞いてくるけど、そんなもの俺達のテーブルを見れば見知らぬ人が見ても解る。


そうさ、所謂童貞臭い奴らしかいなかったんだからさ。繰り返すが俺も含めてね。


「いるわけないだろ、見りゃわかるじゃん」なんて無理して明るくおどけながら返したらAは


「なんだよーご無沙汰かよー」なんてニヤニヤしながら俺達に自分のスマホに映った女の子の写真を見せてきた。


特に説明も無く何人か派手なメイクの美人を見せられた。


「へーめっちゃ可愛いね。って彼女? 何人いるんだよー」って嫉妬心を抑え込んで笑って聞いてみたらAは悪気なさそうに「いやセフレ!」と答えた。


俺達は正直それを笑う事もうらやむ事も出来ず、ただ硬直してた。


セフレなんて俺達にとっては量子力学とか黒魔術の専門用語くらいまったく人生において縁遠い単語だったしね。


そんな俺達の反応は無視してAはどんどん写真を見せてくる。


何かまるで最初からそうすることが決まってた感じで、多分Aの目には俺達なんて映ってないんだと思う。


Aは完全に俺達に自慢することで何らかの優越感に浸りたい、ただそれだけの為に喋りに来たんだと思う。



Aはクラスの人気者ではあったけど、一番じゃなかった。だから飲み会の中で陽キャ集団の中でイジられたりもしていた。

そこにAなりに何らかの不満が溜まっていて、その解消相手として選ばれたのが我ら不人気軍団だったと、ただそういう話なんだと思う。


「ほら、どうよこれ。おっぱいすげえだろ」


何人目かの派手な女の子の写真をスライドすると、そこには目元を隠して胸を露出した女の子の写真が出てきた。


口元に特徴的なホクロがあったし一枚前の綺麗な女の子だと直ぐに解った。

Aは俺達の反応をみてニヤニヤとしている。

どうやら自分がハメた女の子をアルバムにして記念にしているらしい。


すごいね、としか言いようが無い。

誰もやめろよ、とは言わなかった。


惨めだった。男として圧倒的に上位ランクの相手から一方的に馬鹿にされているんだから。

それがわかっていても女の子の裸を見せて貰えるならそれを享受してしまうんだから悲しいよね。


そんな俺達を余所にAは次々と女の子の顔と裸をスマホに表示して俺達に自慢していった。

中には自分の一部が映った物もあったけどAは全然気にしてないみたいだった。



そんな中、Aが見せてくる写真の中で一人明らかに雰囲気の違う女の子がいた。


黒髪でちょっと病的な感じ。地味だし化粧っ気もないしこう言っちゃ悪いけど、Aには明らかに釣り合ってない感じだった。

なんだかんだ言ってAは芸能人みたいな派手な髪型をしていたし、服装も整っていたからね。


「なんかこの子だけ雰囲気違うね」ってつい口に出してしまった。


「……あーこいつはメンヘラだからさー、セフレっつーか、まぁ○○○だよ」ってとても言えないような酷い単語を口にした。


何やら他の連中とは出来ないような酷い事をするため専用なんだという。

いくつか彼女とした行為の一部を写真を交えて見せられたけど、相手の人間性を踏みにじるような本当に酷いものだった。


Aのむき出しの欲望をそのままぶつけられているかのような。

余りに異次元過ぎて俺達誰もが全く話について行けていなかった。


「こいつさー、俺が初めてだったらしくてさー。最初はすっげー下手クソだったの。

 血もいっぱい出るしぴーぴー痛がって泣いてもう二度と会うことはねーなーって思ってぶっちしようとしたんだけどさ、何でもするからもう一回あって欲しいって言われちゃってさー。

 だからほんと言葉通りやりてーこと全部やってやった。

 地味っちゃ地味だけど物覚えスゲー良いからそれなりに使ってたわ。

 ま、妊娠しちゃったらしいからそれ以後はブロックしてっからもう知らないけど(笑)

 俺もしかしたら知らないうちにパパになってっかもしんねーわ(笑)」


いくら酒の席とはいえ悪びれずに言うような話じゃないと思う。

本当は怒りたかったけど事なかれ主義が災いして結局みんな笑うだけだった。


「ま、俺の話はこんなもんか。お前ら彼女いねえんだろ? 欲しくねえの?」


「欲しくないわけじゃ無いけどさ……」


にやけて誤魔化しながらそう答えるとAは

「なんだよ! ならいいもん教えてやるよ! ほらお前らもやれよ、マッチングアプリ! 教えてやるから全員スマホ出せよ!」


酔っ払って悪のりしたAに逆らえるはずも無く俺達は全員スマホをだして、その場でAが使ってるアプリをダウンロードさせられた。


そのアプリは短い紹介文と顔写真を設定して登録するタイプの物らしい。

GPSを使っているらしく相手との距離が表示されて、相手を気に入れば右に、気に入らなければ左にスワイプする事で利用していく。

そして男女お互いが「気に入った」を選択した場合だけ連絡が取れる仕様になってる。


勿論最初はどんなアプリかなんて解らなかったから写真を設定する段になって漸く自分の写真が必要なんだって解った。


自分の容姿に自信なんて無いし、むしろ嫌いな俺達がそんな写真持ってるはずも無い。


「無いの? 一枚も? 悲しすぎんだろ(笑)仕方ねぇなあ、んじゃ一緒に撮ろうぜ!」


その場で爆笑するAに肩を組まれてよく解らないツーショット写真を撮影され、その写真で半ば無理矢理アカウントを作った。


俺達が登録したことに満足したAは元の席に帰って「なぁ聞いてくれよ! あいつらマッチングアプリに登録してやったぜ!」とか言って大笑いしてた。


結局何処まで行っても俺達はAのネタかオモチャだったんだ。

……あの黒髪の女の子みたいに。




飲み会はつまらないまま終了。二次会もあったらしいけど当然俺は断って家に帰ってきた。

お持ち帰りなんて物はただの都市伝説でしか無いんだと思う。


いや、A達は二次会でそういう事してるんだと思うけどね。


それを思うと家に帰宅して、普段飲まない酒で酔っ払ってベッドで寝転がってる自分が惨めだし、何ともいえない悲しい気持ちだった。


でも、そこは人間だからさ。酒の影響やAに見せられたエッチな写真のせいなんだろうね。

Aが使ってたっていうマッチングアプリを見てみようかなって思った。


もしかしたら自分みたいな人間でも好きになってくれるような人だっているかもしれないってさ。

まぁそんなのは幻想でしか無かったんだけど。


とにかくその時はせっかく登録したアプリだし、ちょっと見てみる位ならいいんじゃないかって思ったんだ。


早速起動させてみるとそこには可愛い女の子の写真があった。

まさにイン○タ映えって感じ。

イン○タが何かよく解ってない俺が言うのもなんだけど、とにかく可愛い子ばかりだった。


当然こんな子とつきあえたらいいなって右にスワイプした。

右は気に入った子に対してする選択だね。


その後たくさんスワイプしてみたけど、結局誰ともマッチしなかった。

もしかしたら、なんていう希望は完全に幻だとしって、がっかりしたんだ。


イライラしてがっかりして、半ば自棄になってどんどんスワイプしていった。

そうしたらいきなり変なポーンという音と共に画面が動かなくなった。


びっくりして画面を見てみたら、そこに表示されているのはどういう訳かAだった。


それはふざけながら綿飴にかじりつこうとしているAを横から撮影した写真。

多分お祭りか何かなんだろう、たくさん並んだ屋台と浴衣を着た人がたくさん映っていた。


さっきアプリの説明をするときにAが見せてきた物と全く同じ写真だったから間違えるはずが無い。


だからこれはAのアカウントなんだって事は解ってるんだけど、俺のアプリでAが表示されるはずが無いんだ。

設定上、男を表示するか、女を表示するかは選べるようになってるし当然女性しか表示しないように設定してるからさ。


もしかしたらあの時のそういう説明も全て嘘でこれはAのいたずらかもしれないとも思った。

例えば必死になってスワイプしている俺の映像をフロントカメラが勝手に起動して撮影してAに送りつけてる、とか。

そういうスパイ系ジョークアプリである可能性だとかね。


考えすぎなのは解るけどさ、今現在二次会で馬鹿にされてるんじゃ無いかみたいな想像も一瞬だけしてしまった。


なんだか全てがばかばかしくなって俺はAのプロフィールを左に、つまり「気に入らない」を選択した。


けど次に表示されたのはどういうわけかまたAの写真だった。

さっきと同じ、綿飴を横から大口あけてかじりつこうとした写真。


バグだと思った。

正直こういうアプリで女の子とやりまくってるAにもむかついてたし連続で何度も左へスワイプした。

でもやっぱりAが表示されたままだった。意味がわからない。


バグから抜け出すためにどうすればいいんだろうと思って今度は右にスワイプした。またAだった。

意味がわからずいらついて何度もスワイプした。

右に左にどんどんと。

それでもAは消えない。

ずっと表示されている。


そしてふと画面に違和感を覚えた。


……これ、もしかして同じ写真じゃあ無いのか?


確認するためにもう一度スワイプしてみた。

更にもう一度。


……やはり間違いない。


スワイプする毎に、写真が動いてるんだ。

ぱらぱら漫画みたいに。


さっきも書いた通りAが映ってるのはお祭りでふざけた一枚の写真だった。

たくさんの屋台と人が立ち並ぶ中、画面手前のAが綿飴を横向きにかじりつこうとおどけている写真。


スワイプする毎に、画面の奥にいる群衆から一人の女が動いているように見えた。

スワイプする。

一歩近づく。

スワイプする。

また一歩。スワイプする、左右に大きく振れながらどんどん近づいてくる。


女の表情は全く見えないけど長い黒髪をしていて、藍色の浴衣を着ている。

妙に背が高くてアスペクト比が狂ってるようにも見えた。

俺は止められなくなってどんどんスワイプを続けた。


……Aに酷い扱いを受けたという女の子の顔を思い返しながら。




スワイプ。スワイプ。スワイプ。スワイプ。スワイプ。


その時になって気がついた。写真の変化だけじゃなくて「相手との距離」表示もどんどん近くなっていることを。

本来のアプリの仕組みとしては俺とAとの距離を表示しているはずだけど、今現在の数字は132kmだった。

さっき別れたばかりのAとそんなに距離が離れているはずが無い。


明らかに表示はおかしい。

おかしさで言えば画面の中でどんどん近づいてくる女の方がおかしいんだけど。


スワイプ。スワイプ。スワイプ。スワイプ。スワイプ。


女はスワイプする毎にぐにゃぐにゃと左右に振れながら近づいてくる。

馬鹿みたいにおどけて口を開けていたAの表情も心なしか変化しているように思った。


最初は楽しそうに綿飴にかじりつこうとしていたはずが、今は何か苦しそうな苦悶に満ちた表情にしか見えない。

最初からこうだっただろうか?


スワイプ。スワイプ。スワイプ。スワイプ。スワイプ。


相手との距離は109キロになっていた。


スワイプ。スワイプ。スワイプ。スワイプ。スワイプ。


写真の中で言えば恐らくAとは数メートルの位置までぐにゃぐにゃして細長い女が迫っていた。

それほどまで近づいていても女の表情は解らなかった。


輪郭はきちんと映っているのに、なんだか表情だけピンぼけしたみたいに歪んで映っていたから。

まるで埴輪かなにかみたいに真っ黒な眼窩と口が空いていて、ボーリングの玉みたいに不気味だった。


そして、女の顔と、藍色の浴衣に気を取られていたけど、女の手はなんだか人の肌の色ではないようにみえた。

なんだか、黒いって言うか、これじゃまるで……。


怖かった。

けど、閉じられなかった。いつの間にか震える指でスワイプを続けていた。


スワイプ。スワイプ。スワイプ。スワイプ。スワイプ。


女はどんどん近づいて、Aの表情は更に苦しそうな表情になり、肌の色まで土気色に変化していく。


スワイプ。スワイプ。スワイプ。スワイプ。スワイプ。


スワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプスワイプ。


関節が無いかのようにぐにゃぐにゃした細長い女はAから少し離れた場所でくねくねと捩れていたかと思うと、突然首が伸びて頭部が画面からはみ出していった。


相手との距離表示はもう27キロになっていた。

あと少しでその距離はゼロになる。

もしそうなったら、一体何が起こるんだろう。

でもこれはただのアプリだ。

こういうプログラムで相手を驚かすジョークアプリかもしれない。


……いや、本当はこれがまともな状況じゃ無いことは理解していたしアプリを落とすべきだと解っていた。けれどスワイプする指を止められなかった。


それだけじゃない。

興奮状態だったからかもしれないけど静止画のコマ送りではなくまるで動画みたいに感じられた。



スワイプ。くねくねと捩れていた女の肌は更なる茶色へ変化して動きを止めた。まるで朽ち果てるかのようだった。

スワイプ。女の腹部がぼこりと凹み、萎びた女の股から何か茶色の液体がしたたる。

スワイプ。茶色の水たまりの中に遅れてずるりと赤黒い塊が落ちてくる。

スワイプ。ひり出されたなまこのような塊がびくりと動く。

スワイプ。血だまりの中から小さな手を伸ばし、

スワイプ。よちよちと身体を引きずりながら這い出してくる。

スワイプ。一歩一歩、茶色の汁で軌跡を描きながら画面手前のAに近づいている。

スワイプ。頭部らしき場所にある黒い穴を軟体動物のように広げたり縮めたりしながら、手をぐねぐねと動かしながら、


スワイプ。近づいてくる。

スワイプ。近づいてくる。

スワイプ。近づいてくる。

スワイプ。近づいてくる。


スワイプ。そのままAの元に這い進み、画面下部に消えていった。

スワイプ。ややあってAの顔が更に歪み、皺が深く刻まれて、肌の色が干からびるように茶色く変色する。

スワイプ。Aの胸元に画面の下から細長く、赤黒い粘液に覆われた白い手が伸びてくる。

スワイプ。登ってくる。

スワイプ。登ってくる。

スワイプ。白く捩れた細長い嬰児のような塊が。

スワイプ。Aの頭に手をかける。Aは絶叫するかのような表情をしている。

スワイプ。口に手をかける。

スワイプ。白い頭部に一つだけ存在する黒く歪んだ穴が震える。

スワイプ。それは嗤っているようにも見えた。

スワイプ。Aは黒い涙のような液体を流しだし、苦悶の表情を浮かべている。嬰児はAの口内を覗き込んでいる。


……駄目だ。そこで我に返り俺はスワイプを止めた。

このまま先を見ては絶対にAは何かヤバいことになると思った。

俺はアプリを落としてスマホをベッドに投げて、気分を落ち着かせるために水でも飲もうと思った。


だが、ポーンという電子音と共にアプリが立ち上がる。


一気に背中があわだった。

急いでスマホを手に取る。

もう一度ポーンと弾むような電子音と共に勝手に画面がスワイプされた。


Aの口内を覗き込んでいた捩れた嬰児はねじ込むようにして口内に頭部を突っ込んだ。

Aの目がぐるりと白目を剥く。

鼻から耳から黒い液体がどぷどぷと流れ出ていく。


ポーン。そのまま白く捩れた細長い嬰児はAの口内へずるりと回転しながら滑り込んで行き、同時にAの顔面の穴という穴から黒い粘液が勢いよく垂れ流されていった。。


ポーン。Aの顔が一層茶色く変色し、喉元がぼこりとふくらんだ。


きゃきゃ、と子供の笑い声のような音の直後、大音量でビーというノイズが鳴りAの首が一気に上下に引き延ばされた画像が表示された。


「うわああっ!」


気がつくと画面に距離は0キロになっていた。体中から粘つく汗が吹きだしていた。


額から滑り落ちた脂汗が一度まつげに引っかかり、直後目に入り小さく浸みた。


一体コレは何なんだ。



依然としてビーというノイズ音が鳴りっぱなしのスマホにはAの奇妙な画像が表示されたままだ。

それを消したくて慌ててタップするもフリーズしてしまい全く反応しない。


仕方無く強制的に電源を落として再起動し、アプリを直ぐにアンインストールした。


風呂にはまだ入ってなかったけど、Aの写真を思い返すと恐ろしくて入れそうに無かった。

べたつく衣類を脱ぎ捨てて、そのまま無理矢理眠る事にした。




ポーンという電子音で目が覚めた。

いつもの癖で寝ぼけたままスマホを手に取ると、マッチングアプリが起動していた。


アプリのトップ画像は昨夜Aと一緒に無理矢理撮った写真が表示されていた。


Aと一緒に飲み会で撮影した俺の設定写真だ。

だがそれは昨日確認したものとは全く異なり、Aの表情は既に干からびた樹木のような色になり、顔面は昨日の細長く捩れた女のように埴輪のように黒丸に侵食されていた。

そして肩に組まれたAの手から薬指だけが触手のように伸びて、ぎこちなく笑う俺の耳の穴に入り込んでいた。

思わず耳を押さえて悲鳴を上げた。


昨日はねぼけていて実際にはアンインストール出来てなかったのかも知れないと思い直してもう一度アンインストールしようとタップする。

同時にポーンという音と共に差出人が空欄になったショートメールを受信した。


「けすな」


とだけ入っていた。


無視して消そうとした。

今度はピンポンとチャイムが鳴った。


ごくりとつばを飲み込んで恐る恐るドアカメラを見ると宅配便だった。


「ここに判子下さい」


判子を押すと妙に軽い荷物を俺に押し付けて帰っていった。

急いでいたからか、どうやら配達員は間違えて控えごと伝票を持って帰ってしまったらしく差出人が解らない。


配達先間違いかもしれないが、悪いのは運送会社なので確認する為にも仕方無く開封する。


けれど箱の中にはもう一つ箱が入っているだけだった。

開いて中身を確認すると箱の中は黒っぽい茶色の液体をぶちまけたように染められており、

その底に「つぎはころす」と殴り書きされたメモが貼り付けられていた。


俺は叫んで窓からその箱を投げ捨てた。




その日の昼、同窓会の幹事から二次会でAが死んだことを知らされた。

二次会の最中、突然気分が悪いと言ったAは店の外で空気を吸ってくると言って店外に出ていくもなかなか帰ってこない。

外で寝こけているんじゃないかと探しに行くとどういう訳か吹き抜け階段の隙間、手摺り部分に首を引っかけて死んでいたそうだ。


同級生が見つけたときにはAの首は異常なほどに伸びきって死んでいたのだという。


殺人も疑われたが防犯ビデオを確認した警察によると「自殺か事故かは解らないが第三者の関与は認められない」との事だった。

カメラに映っていたのがどういう状況だったのかは結局誰も聞き出せていない。

ドラマみたいに警察がほいほい情報を漏らしてくれる何てことは無いらしい。



Aに這いながら近づいていた白く細長い捩れた嬰児のような異形と、バグのように首が引き延ばされた写真。

俺が酔っ払っていたから記憶が変になっているのだろうか。

それともAの死を聞いてから、混乱した俺の脳がそういう話を勝手に作り上げたのだろうか。


どのみちそれを確認する術はもう、無い。



あれから毎朝起きる度にマッチングアプリが起動するポーンという音で目を覚ます。


今朝の距離は131キロ。


毎朝電子音と共にそのカウントは減っていく。



俺はなにもしていないのに。


Aのように女を孕ませたわけでも、捨てたわけでも無いのに。


ただAと写真を撮っただけなのに。


何か原因があるわけでも無いし、食事だって取っているのに俺の体重はどんどん減り続けている。

見かねた同僚に勧められて入院することになったが、結局は原因がわからないのだからどうしようもない。




このカウントがゼロになったら、一体俺はどうなるのだろう。



作中アプリはti◎derというアプリで職場のモテ先輩に教えられ、面白い仕組みのアプリだなと思ったのが本作を書くことにしたきっかけです。


とりあえず登録してみたけど数日たっても全くマッチしなくてアンインストールしたのが私にとって一番ホラーでした(どっ)



相互ポイント等をしていないので長い期間0点の状態だったのですがブックマークやポイントを入れてくださる方のお陰でちょこちょこ見ていただけているようで感謝しております。

ありがとうございます!


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