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その罪人に破滅の願いを込めて  作者: たつのオトシゴ
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 ハッ、と目を覚ましたレイは全身を襲う痛みに顔を顰める。

 無理矢理に上体を起こすと激しい眩暈と吐き気に襲われ、再び倒れかけた体を誰かの手が、そっと支えた。

 ふと、顔を向けると傍にはユーリスが膝を突いて座っていた。

「無理に起きてはいけません」

 と、彼女はレイの体を気遣うように言った。

「……一体、私はどうなったのですか?」

 と、レイは尋ねた。

 バグと決闘をしていたのは憶えているのだが、意識を失う寸前に自分の身に何が起きたのか憶えていなかった。

 ユーリスは徐に口を開き、見ていたことを話し始める。

(わたくし)にはお二人の動きは殆ど見えませんでした。ルルシオン様が倒れる時も、バグの右腕が少し動いたように見えただけで、何が起きたのかは分かりません」

 彼女の話を聴いて、レイは少しだけ思い出せた。

 魔眼を使って手刀を躱し、剣先がバグの胸に僅かだが届いた。一撃を浴びせてやったのだ。

 そして、手加減を止めたバグは本気を出し、気付いたらレイは気絶していた。

 完敗だった。

 文句を付けようがない程に、圧倒的な敗北。

「そうか……私は、負けたんだ」

 ふと、顔を上げて修練場の窓を見ると、日が落ちて外は夜になっていた。修練場の天井には魔光石がはめ込まれており、中は明るい。

「でも、ルルシオン様は立派に闘ったと思います。騎士王の名に相応しい勇ましさでした。世間知らずの(わたくし)が言うのは生意気かもしれませんが、バグやラプラスお姉様が異質なのだと思います。死刑囚(彼等)を同じ人間の秤で比べてはいけません。ですから、どうか自分を責めないで下さい」

 と、ユーリスは彼の背中に手を添えると言った。

 彼女の優しさはレイの心にしっかりと届いていた。

「有難う御座います、ユーリス皇女殿下」

 と、レイは俯くように頭を下げた。

 ユーリスの言葉は納得出来るものである。確かに、死刑囚たちの強さは異常だ。人の域を遥かに超えている。

 魔腕(マジック・アーム)を生成し、それを維持し続けて自在に操ることの難しさを思い知った。死刑囚のラプラスは十メートル近い魔鎧人形(マジック・ゴーレム)を生成し、それを長時間も維持し、自分の体の様に操っている。

 彼女の体と頭の構造は普通ではない。彼女と同じ魔法を使ったレイだからこそ、その異常さが理解出来る。

 そのラプラスと互角以上に渡り合った死刑囚のドロロも人の域を超えている。魔鎧人形(マジック・ゴーレム)の装甲を砕く怪力に加え、最上位精霊『炎鬼(イフリート)』の力を操るという天賦の才能。彼もまた普通ではない。

 そして、暗殺者であるバグ。帝国最強の聖騎士であるレイ・ルルシオンを一瞬で倒し、その力はラプラスとドロロと同等以上である。実際に戦ったレイは、彼の圧倒的な速さの前に成す術なく倒れ、その人の域を超えた力を思い知らされた。

「あれは……人間ではない」

 と、レイは口から零れるように呟いた。

 死刑囚(彼等)の力を思い知らされ、レイの心は今にも崩れかけている。

 人間の域にいる限り、到達することの出来ない力。彼は今まで積み上げてきた力を、惜しみなく使い、そして一瞬で敗れた。

 人間の力の限界を見せつけられた気分である。

 レイが信じて進んできた道には、これ以上進む道は無かった。途切れた道の先は、果てしなく広がる奈落の崖になっている。

 きっと、死刑囚(彼等)は躊躇いなく崖に飛び降りてしまうのだろう。

 しかし、レイには道を外れる勇気は無かった。

「……俺には無理だ」

 と、レイは消え入るような声で呟いた。

 己の力の限界を突き付けられ、騎士王としての誇りを砕かれた。

 

 ――全部、あの黒山羊の悪魔(レベル3)が私から奪っていったのだ。

 

 聖騎士としての誇りを奪われ、騎士王としての自信を失い、レイの心は瓦解寸前であった。

 そして、最後に彼の心を支えたのは黒山羊の悪魔(レベル3)への殺意だけだった。


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