008
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遠く離れた東の方から何かが崩れる音が聴こえ、ラプラスは首を振り返らせた。
東塔が崩壊し、砂塵が高く舞い上がるのが見える。
その光景を見た彼女は何かを閃いたかのような表情を浮かべた。
実際は、魔素を固めて生成した闇の魔鎧で顔までも覆っており、表情を窺うことは不可能なのだが。
北塔の扉前に到着していたラプラスは何を思ったのか、後退って塔から距離を取る。
「こんなものかしら」
と、呟くと魔素を固めて生成した闇の魔剣を振り上げた。
刀身の形状が変質すると、炎のように魔力が噴き上がる。柄から噴き上がる魔力の炎はラプラスの背丈の三倍近くまで伸びていた。
その炎のように揺らぐ魔力の剣を振り下ろすと魔力の斬撃が放たれた。
塔の中腹に直撃した魔力の斬撃は轟音と共に爆発し、塔の半分以上を爆炎が呑み込む。
巨大な塔は崩壊し、崩落する瓦礫はけたたましい音を轟かせる。舞い上がった砂塵と爆煙がラプラスの脇を流れ、辺りを呑み込んでいく。
塔の占領という目的もあったはずなのだが、ラプラスの優先事項は強力な悪魔と戦うことである。結果、塔を上るよりも敵を引きずり落とした方が効率的に早く戦えると判断したまでだった。
もし、この攻撃で悪魔が死んでいたらどうするのか、という懸念は無かった。これで死ぬようなら彼女の期待に応えられる悪魔ではなかった、ということになるのだから。
彼女にとって塔のひとつを破壊するなど朝食を作るよりも簡単なのだ。
むしろ、料理の方が苦手である。
『乱暴ニモ程ガアルデショー』
ふと、聴こえてきた声にラプラスは首を仰ぐ。
砂塵が晴れ、塔の瓦礫の上に立つ影を見つける。人間の男よりも少しばかり大きな体躯を持つ一体の悪魔が立っている。
『塔ヲ破壊スルナンテ――』
と、悪魔が言葉を言い切るより前にラプラスは走り出し、瓦礫を駆け上がると一瞬で距離を詰めた。闇の魔剣で横薙ぎに一閃、悪魔の左脇腹を捉える。
悪魔は反応すら出来ず、ラプラスは闇の魔剣で斬り裂いた。しかし――
――ガキンッ
という嫌な金属音が空気を震わせた。
「あら?」
と、ラプラスは不思議そうな声を出した。
間違いなく左脇腹から横一閃に斬り裂いたはずなのに、悪魔の腹部は傷一つ無く、平然と立っている。
想定外の結果に驚いたラプラスは飛び退き、距離を取る。
今更ながら兜の隙間から目を凝らし、悪魔の姿を確認する。
「随分、分厚い外皮をお持ちなのですね?」
と、首を傾げたラプラスは自分の剣を弾いた正体を理解した。
悪魔の全身は銀色の鋼鉄で出来ており、眼球と口腔を除く全てが鋼鉄の外皮で覆われている。
関節を含めた全ての隙間を覆っている鋼鉄の外皮装甲。ラプラスの魔剣で傷付かなかった外皮装甲の硬度は、鋼鉄よりも遥かに硬い。
鋼鉄のように見えるが、実際の材質は鋼鉄等の普通の金属ではない。構造はラプラスの魔鎧と良く似ているが、少し違う。
魔鎧は魔素を固めて生成した物であるのに対して、悪魔の外皮装甲は魔素を金属に変質させた物である。
魔鎧も外皮装甲も本人の魔素量によって硬度が変化するという点においては同じである。
つまり、ラプラスの魔素を固めて生成した魔剣を弾いた悪魔の外皮装甲はそれ以上の魔素が含まれていることを証明している。
彼女の魔力よりも悪魔の魔力が勝っていることを一撃のやり取りで両者は理解していた。
『キンキンキン、ソンナ剣ジャ無駄ダヨ』
と、悪魔は笑うと金属製の牙がキンキンと音を立てた。
『俺ノ外皮ハ斬レナ――』
と、悪魔が言葉を言い切る前に、ラプラスは闇の魔剣を突き出し、美しいくらいに鋭い刺突を喋る悪魔の口腔目掛けて放つ。
悪魔は左手で軽々と魔剣を掴み止めた。
『マダ喋ッテルデ――』
再び、言葉を続ける悪魔に対し、闇の魔剣が炎のように揺らぐと剣先から魔力砲が放たれる。
零距離で放たれた魔力砲は顔面に直撃し、凄まじい轟音を響かせて爆発した。爆炎がラプラス諸共、悪魔を呑み込んだが魔鎧を纏った体は無傷である。
手応えを感じたラプラスは魔剣を引き戻そうと力を籠める。しかし――
「あれ?」
と、魔剣がビクとも動かないことに戸惑いの声を漏らした。
爆煙が晴れると、魔剣を掴んだまま立ち続けている鋼鉄の悪魔が目の前に姿を見せる。
『何度モ、何度モ、何度モ、話ヲ最後マデ――』
悪魔は一呼吸の間を置くと、
『聞ケ―――――――――――――――――――――ッ!』
甲高い怒りの声で叫ぶと、鋼鉄の外皮装甲に覆われた拳を魔鎧に覆われたラプラスの腹部に叩き込む。重く鈍い衝撃音が大気を震わせ、強烈な殴撃を受けた体は宙を舞う。
瓦礫の山を背中から落ち、砂埃が舞い上がらせながら転がり落ちた。
大気を震わす程の殴撃を受けたにも拘わらず、上体をむくりと起こし、悠然と立ち上がる。
殴撃を受けた腹部に目を落としたラプラスは少し驚いた声を漏らす。
最強の防御力を誇る堅牢な魔鎧が僅かに欠けていたことに驚いていた。
まさか、一撃で魔鎧が欠けるとは想像もしていなかったラプラスは動揺のあまり、声を震わせる。
「そっか、あなたが中級の悪魔なのね?」
『レベル2ガ何カハ知ラナイケド、前ニモ人間ガ俺ヲソウ呼ンデイタ』
「そう……」
ラプラスは声だけではなく全身を震わせ始めた。
『ドウシタ? 震エテイルガ、大丈夫カ? マア、俺ノ強サヲ理解シタ人間ハ、必ズ絶望ニ体ヲ震ワセルシナ』
と、鋼鉄の悪魔は言うとキンキンッと音を立てながら嘲笑の声を上げた。
「ええ、震えが止まらないわ。だって――」
――期待が膨らんで、胸が張り裂けそうなの。
と、愉悦に満ちた声音を漏らしたラプラスは、兜の中で静かに笑みを浮かべた。
『強ガリハ止セ、人間』
「嫌よ。だって、強そうな敵と出会えたのに、我慢なんて出来ない。十二年間、待った甲斐があるわ」
欠けていた魔鎧はラプラスの体から魔素を吸収することにより、欠損部分が再生していく。
再生が完了すると、両手で握った闇の魔剣を脇に構え、身を屈めると臨戦態勢をとる。
魔剣が帯びている魔素が膨れ上がり、闇の刀身が炎のように形状を変える。そして、再び魔素が圧縮されて固まると剣へ姿を戻す。
『ホウ』
と、悪魔は少し驚いたような声を漏らした。
闇の魔剣は姿こそ変化は無いが、性質が変化していることを感じ取っていた。
準備が終わると同時にラプラスは駆け出し、悪魔に突進する。眼前まで迫った瞬間、横へ跳び退き一瞬で姿を消すと、悪魔は彼女の姿を完全に見失う。
鎧を纏っているとは思えない素早い動きに不意を突かれ、反応が遅れた。
一瞬で悪魔の背後に回ったラプラスは脇に構えた魔剣を袈裟懸けに振り上げる。僅かに遅れて反応した悪魔は振り返ると同時に斬り裂かれた。
鋼鉄の外皮装甲の上を魔剣の一閃が駆け抜けた。
慌てて後ろに跳び退いた悪魔は自分の胴体に目を落とす。
『俺ノ外皮ヲ削レルマデ、剣ノ魔素量ヲ上昇サセタカ』
一度は魔剣を弾いた鋼鉄の外皮装甲に、一筋の傷が走っていた。
『ソウイウ事ナラ、俺モ本気デ行コウ。死ンデモ恨ムナヨ』
と、鋼鉄の悪魔は言った。
「ええ、宜しくお願いするわ。是非、殺せるものなら私を殺して見せて」
風が流れるような無駄の無い挙動で踏み込んだラプラスは、刀身の残像が走るほどの勢いで斬り掛かる。
その斬撃を鋼鉄の腕で受けた。魔剣と外皮装甲が削り合う甲高い音が響く。
鋼鉄の外皮装甲に覆われている腕に傷が走る。
外皮装甲の表面を削ったに過ぎない傷ではダメージを与えたとは言い難い。
それでも、透かさずラプラスは魔剣を走らせ、悪魔に斬撃の嵐を浴びせる。
怒涛の如き斬撃が全身の外皮装甲に無数の傷を走らせていく。
凄まじい速さで繰り出される攻撃を防ぎ切れず、外皮装甲が削られていく。
重そうな全身鎧を纏っている身形に反し、ラプラスの動きは恐ろしいまでに速い。まるで鎧と剣に重さが無いのでは、と疑ってしまう程だ。
彼女は魔素で鎧や剣を生成すると同時に、その膨大な魔力で身体強化を施している。故に、高速行動が可能になっている。
『素早さ』という点では三人の死刑囚の中でバグがダントツではあるが、『攻撃速度』という点ではバグとラプラスは同等である。
暗殺者であるバグには多彩な『技』があるように、皇族であるラプラスには幼い時から鍛えてきた『剣術』があり、天賦の才を持つ彼女の剣技は究極の域に達していた。
悪魔は防ぐことを諦めたように腕を垂らす。
その行動にラプラスが違和感を覚えた時、突如頭部を衝撃が襲った。
悪魔が放った鋼鉄の拳が兜に覆われた左頬を捉え、ラプラスの体は宙を舞う。
何が起きたのかを理解した時には後ろへ吹き飛ばされ、瓦礫の上を転がる。
俯せに倒れた体を起こしながら思考を巡らせる。痛みは無いが、不意を突かれた攻撃に少しばかりの動揺が走っていた。
「……見えなかった」
と、ラプラスは呟いた。
殴撃を受けた兜はポロポロと欠け、鋼鉄の拳から放たれた威力の大きさを物語っている。
「うん、決めた。どちらが先に鎧を削り切れるか勝負しましょう」
『イイヨ。負ケタ方ガ死ヌッテ事デイイヨネ?』
と、鋼鉄の悪魔はラプラスの言葉に迷うことなく乗った。
「もちろん、そのつもり」
と、言葉を終えると同時に踏み込んだラプラスは怒涛の如き連撃を再び浴びせる。
対して、鋼鉄の悪魔は斬撃を躱すことも防ぐこともせず、ラプラスの魔鎧に重い殴撃を何度も撃ち込む。
ノーガードで行われる攻撃の応酬は、『闘い』と表現するよりも『喧嘩』という表現が似合うものであった。
己の防御力に絶対的な自信を持つ両者の意地が衝突し合った結果と言える。
鎧を削り合う戦闘は甲高い嫌な音を響かせ、大気は震え、周囲の砂埃が舞い上がっていく。
ラプラスの魔鎧が損傷しても魔素を吸収し、傷は修復されていく。同様に、悪魔の外皮装甲も傷を負っても同様に魔素を吸収し、傷を回復させていく。
互いに傷付け合っても体内の魔素が尽きない限り傷は塞がっていくのだ。
つまり、勝敗が決まる要因は二つ。
ひとつは、先に魔素が尽きた方が鎧を失い、死ぬ。
もうひとつは、回復が間に合わない程の攻撃を叩き込み、相手を殺す。
既に、千を超える攻撃を交わし、僅かに戦況に変化が見え始めていた。
魔素量という点ではラプラスが圧倒的に上回っており、持久戦では優勢と言える。
しかし、悪魔の方が一撃で与える損傷は大きく、魔鎧が受けている損傷に対して修復速度が僅かに間に合っておらず、徐々に魔鎧の損傷が多くなっている。
先に悪魔の魔素が尽きるか、先にラプラスの魔鎧が砕かれるか。
一方が限界を迎えた瞬間、勝負が決まる。
しかし、不意に悪魔は攻撃の手を止めた。不可解な行動に違和感を覚えたラプラスは後ろへ跳び退き、悪魔と距離を取る。
『アア、面倒クサイナ。コンナニ手間取ル予定ジャナカッタンダヨ』
と、不意に口を開いた悪魔は呟くように言葉を続ける。
『ダカラ、ソロソロ終ワラセヨウ』
そう言うと悪魔は背中を丸めた。
すると、その背に二つの隆起が生まれる。
隆起した銀色の外皮は蠢くように形状を変化させていく。
そして、銀色の何かは徐々に姿を現す。二つの蠢いていた銀色のそれは、中級悪魔を模した姿になるとズルリと生み落とされた。
ラプラスは悪魔の体から二体の分身が生み出される光景を呆然と見つめていた。
生み落とされた二体の鋼鉄の悪魔は緩慢な動作で起き上がる。
『驚イタカ? 俺ダケガ使エル能力。俺ト同等ノ力ト魔力ヲ持ツ分身ヲ作リ出セル』
「つまり、中級悪魔が三体に増えたということですか」
と、確認するようにラプラスは言った。
一体でも強力な中級悪魔が三体に増え、拮抗していた戦況は一瞬で絶望的な状況へ変化した。
三体に分身したのだから力が三分の一に落ちた、という訳ではない事をラプラスは理解していた。
悪魔の魔力は全く衰えておらず、『分身』というより『増殖』という変化に近い。
むしろ、悪魔の体から発せられる魔力は上昇している。
『コレガ、俺ノ全力ダ』
と、鋼鉄の悪魔はニヤリと口角を歪ませた。
今まで以上の魔素を吸収した鋼鉄の外皮装甲は更に厚さと硬度を増し、節くれ立った全身は岩の如く 荒々しい姿へ変化していた。
『五秒ダ』
唐突に、悪魔が五本の指を広げて宣言した。
言葉の意味を理解出来なかったラプラスは小首を傾げる。
「何が『五秒』なのでしょうか?」
『俺達ノ攻撃デ、ソノ鎧ガ破壊サレルマデノ時間ダヨ。ソシテ、オマエハ死ヌ』
悪魔が発したのは宣言ではなく、死の宣告だった。
それでもラプラスは愉悦の声を上げずにはいられなかった。
「それは、楽しみね。ええ、本当に――」
――楽しみ。
人類が対等に戦える限界、それが中級悪魔である。その中級悪魔を三体同時に戦おうとしているラプラスは絶対的な力を前にした恐怖よりも、強者と戦える興奮が上回っていた。
今の彼女の行動は『狂っている』と言うに他ならない。
故に『狂戦士』と呼ばれ、戦闘の快楽に溺れた彼女は聖騎士を追放され、死刑囚に成り果てたのだ。
ラプラスは生粋の狂戦士である。
目の前の戦いが無謀であっても、死ぬと分かっていても、彼女は戦う。
戦うことを止められない。それは一種の呪いかもしれない。
戦って、痛みを浴びて、血に塗れることでしか快楽を得られない体。
呪われた皇女の悲しい物語。
それでも彼女は剣を握り、足を踏み出す。三体の鋼鉄の悪魔に向かって駆け出した。
振り被った魔剣を横薙ぎに一閃。闇の弧を描いた刀身は吸い込まれるように悪魔を捉えた。
しかし、その斬撃は鋼鉄の外皮装甲に傷を走らせることなく、刀身が砕け散った。
魔素を固めて生成した闇の魔剣は使用者の魔素量によって硬度が決まる。ラプラスの膨大な魔素を練り、生成した魔剣の刀身が砕かれた。それが意味することを理解するのは容易い。
全力を出した悪魔の外皮装甲が甚だしい硬度を有していることを意味している。
想定外の出来事に動揺を覚えたラプラスの全身は硬直し、一寸の隙を生む。
その隙を見逃す程、悪魔達は優しくない。
中級悪魔の分身の一体が一瞬で背後に回り込んだ。遅れて反応したラプラスが振り返ると同時に、悪魔の鋼鉄の拳は兜に覆われた頭部を捉え、強烈な衝撃音を響かせる。
彼女の頭部を凄まじい衝撃が襲った。脳が揺られ、視界が揺れるのを感じる。
咄嗟に脚に力を込め、体が吹き飛ばされるのをグッと堪える。
魔鎧の兜に守られている頭部にダメージが伝わるほどの衝撃。それほどの威力を持つ殴撃を受けた兜に罅が駆け巡った。
脳震盪を起こしたラプラスは全身に硬直が走る。
更に、もう一体の中級悪魔の分身が彼女の胸に殴撃を叩き込む。
強烈な衝撃を受けた胸はメキメキと肋骨が軋む音を響かせ、魔鎧の胸部に一筋の亀裂が走る。
肺を潰された苦痛と骨が軋む痛みが走り、呻き声が漏れる。
手応えを覚えた三体の中級悪魔は一斉に襲い掛かる。
膨大な魔素で強化された外皮装甲を全身に纏う悪魔の拳から放たれる殴撃は大砲の一撃より遥かに重い。
大砲よりも重い殴撃を怒涛の如く連続で撃ち出す瞬発力。それ程の力を有する悪魔が三体に増殖し、ラプラスの体に三倍もの猛撃が襲う。
悪魔は『五秒』と言っていたが、三秒もしないで百を超える殴撃を浴びた魔鎧は全身に罅を走らせていた。そして、大きく振り被った悪魔の拳が頭部に撃ち込まれ、渾身の殴撃が遂に兜を粉砕し、長い金髪が広がる。
金髪を靡かせて宙を舞ったラプラスの体が瓦礫の山に叩き付けられ、その衝撃で魔鎧が砕け散る。
砕けた魔鎧の破片は魔素となり霧散していった。
殴撃を防ぎ切れなかったラプラスの全身は無数の傷と血に塗れ、致命傷と言える深手を負っていた。
仰向けに倒れているラプラスの指がピクリと動く。有り得ない程の傷を受けながら、まだ意識が残っているのが信じられない。
「……ぁ」
と、痛みに呻くラプラスの声が聴こえてきた。
『驚イタ。マダ、動ケルノカ』
オリジナルの|中級悪魔《レベル2はゆっくりと近付き、ラプラスの顔を覗き込むと腕を振り上げる。
『ダガ、コレデ終ワリニシヨウ』
と、悪魔は言うと鋼鉄の拳を顔面に振り下ろした。
轟音を響かせ、顔面に殴撃を叩き込まれると胴体が跳ね上がる。瓦礫と砂塵を巻き上げ、跳ね上がっていた胴体がドスンッと音を立てて叩き付けられる。
血に塗れた拳を持ち上げた中級悪魔は決着が付いたことに安堵の息を吐く。
『オヤスミ、人間』
と、言葉を残して塔の瓦礫の山を下りていく。
そして、瓦礫の山に倒れたラプラスは遂にピクリとも動かなくなった。




