二章 第八話 俺が生徒に自分の過去を語り終えるまで
第八話です。よろしくお願いします。感想お待ちしています。
当時の俺は今とは似ても似つかなかったと思う。当時の俺が特殊任務部隊に入ったのは『復讐』のためだった。国立亜人魔導学園を卒業した俺の脳内にはある一人の人物のことしか頭になかった。
レオン・ジンクス。ビーストの王で魔種側に着いた亜人。その中の魔王と呼ばれる者の一人。そして俺の親父と母さんを殺した張本人。その男を殺すために俺は情報をかき集めた。周囲からは軽蔑の目を向けられたが俺は気にもしなかった。そんな生活を続けていたせいで誰も俺に近づかなくなった。そんななか、俺から離れずにいてくれた奴等もいた。リーゼルや今の魔導士団の実力者たちだ。このなかでも、とびきりずっと傍にいてくれたのはアナスタシア・レインという少女だった。森精人の少女でコードネーム『朱雀』。当時の軍全体でも有数の実力者だった。軍とはアルバート王国直属魔導師団と騎士団の双方をあわせて言う。そんな少女は数少ない俺の理解者だった。俺の過去を共に悲しんでくれて、俺の野望を止めてくれて……。
だが俺は自分の野望は捨てられなかった。そんな心境の中、俺の元にレオン・ジンクスの目撃情報が入った。軍は少数精鋭の隊で奴の討伐を行う、と決定した。その中には俺の名もアナスタシアの名もあった。そうして隊は奴を神聖樹の森の中で発見し対峙した。そうして討伐したのはレオン・ジンクスではなく奴の部下だった。はるか昔に奴の攻撃をみたことのある俺は奴本人でないことにいち早く気づいた。そして単独で奴の本体を狙った。奴は森の中にある洞窟にいた。奴は俺のことを覚えていた。自分の殺し逃した獲物として。そして俺と奴は真正面から戦った。差は歴然だった。序盤の攻撃に大した差はなっかった。それ故に、中盤からの猛攻で俺は明らかに敗北した。奴の攻撃に直撃した俺は無残に転がり、洞窟の岩肌に押し付けられた。レオン・ジンクスは獣人種の固有魔法、『獣撃挙闘』の達人だった。獣撃挙法とは、打撃と爆圧を主とする魔法である。その直撃により戦闘不能になった俺に奴はとどめの一撃を食らわせようとした。覚悟を決めた俺だったが爆音が鳴ったのに攻撃は当たっていなかった。動かない体でどうにか顔を上げたとき、
……そこにはとどめの一撃をもろに食らったアナスタシアの姿があった。
彼女の鮮明な血がかかり、自分の体を血で染める。アナスタシアは腹部を貫かれていた。目の前で倒れるアナスタシアを支えたとき、彼女の体は軽かった。軽すぎた。血は止まらず、ただ苦しそうな彼女をみて涙がでた。彼女を心配する気持ちよりも強く、ただひたすらに悔しいと思った。そのなかで命を削られていく彼女は俺をみて笑った。泣いていることへの嘲笑ではなく、純真な笑顔だった。
「……あなた、が、無事、でよかった」
彼女がそう口にしたとき、ただ絶望が体に駆け巡った。そうして彼女は気を失った。その俺の姿をみて愚かだとでもいうように奴は腕を振り上げた。
「轟け・我が力を糧に・『雷光』」
大気が裂け、強烈な光の刃が奴の腕に突き刺さる。その光の刃を放ったのは現・アルバート王国直属魔導士団団長『雷迅』アレリオ・レイン。彼女、アナスタシア・レインの兄である。
彼らは森精人種のなかでも数少ない闇森精人種と呼ばれる代々魔導士家業の一族の者だった。
魔導士とは魔術を用いて『戦う』者のことを言う。一方、魔術師とは魔術の研究や開発を行う者のことを言う。魔術とは己のなかの魔力を体内の魔力琴線回路により練り上げることで使可能になる。魔術には、基本魔術と精霊魔術、固有魔術の三つがある。基本魔術とは魔力を練り上げることで使える。それに対し、精霊魔術は体内の魔力琴線回路と精霊誘導回路を使うことで成り立つ。魔力琴線回路で魔力を調整し、精霊誘導回路で体内にある自分の精霊を放出するという経緯があって成功する。まあ大体の魔導士でも魔術師でも簡単に出来るのだが……。精霊にはもともとの神祖というものがいてその眷族の力が自分の魔術に影響していることになる。精霊には八種の分類がある。まあ、その説明は後でいいだろう。
今、アレリオが使った精霊魔術は『光』の攻撃用魔術である。その攻撃を喰らい、さすがのレオン・ジンクスも無傷にはいかないらしい。奴が身体回復の魔術の一種、基本魔術、『リザレクション』を発動した。アレリオの与えた一撃で即座に動くことが出来ないようだ。その間に俺たちはその場を立ち去ったのだった。
その後、アナスタシアの緊急治療が始った。数々の治癒術師たちが魔力を集中させ、彼女の体を再構築していった。その姿を、俺はただ見つめることしか出来なかった。
彼女は奇跡的に死を間逃れた。もともとの命にも危険があった外傷は傷を塞ぎ、一番の危険の大量出血の死亡はどうにかなった。だが、彼女の体には重大な後遺症が残った。
精霊誘導回路の完全破綻。
体内の精霊誘導回廊の流れが壊れ、精霊回廊内の細胞が暴走し、もはや精霊魔術が使えなくなるという事、だった。もしも使ったりすると、回廊内で自分自身の精霊が暴れだし、自分の体を掻き回すのだという。またしても俺の絶望は濃くなった。彼女はこの国でアレリオに続く戦力だ。それに……、彼女は魔術について語るとき、子供のように目を輝かせて話をするのだ。そんな彼女の楽しみを、生きがいをとってしまった。あの彼女の笑顔をみれなくなったのが、どうしようもなく怖かった。自分のせいなんだと思う度、あの笑顔が途絶えてしまうのだと思うと、ただ悲しみが込み上げた。もうあの笑顔は取り戻せはしないのだろう、と。
それからの俺の荒れっぷりは、自分で言うのもなんだが、狂っていた。戦場で敵を殺し、敵を狩り尽くす。ただ衝動のままに動き、殺め、傷つけ、壊した。
敵を、自分自身を。
ただ、そんな生活を続けることなんて俺にはできなかった。そうして俺は、軍からも、国からも逃げた。
その一年後、俺は人類側につかまり、大規模召喚術式の生け贄になったのだった。
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